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夜の風が、頬を撫でる。
焚き火の灯がゆらゆらと揺れて、世界がほんのりオレンジ色に染まっていた。
柚は、小さな丸太に腰をかけ、ぽつんと空を見上げていた。
誰にも見つからないように。 誰にも話しかけられないように。
手元の包帯が、ふわりと風に揺れる。
柚
そっと指を動かしてみると、ピリリと鈍い痛みが走った。
でも、それは不思議と嫌じゃなかった。
柚
思わずつぶやいた言葉に、自分でハッとする。
——生きてる。 そんなふうに思ったのは、いつ以来だろう。
いつもは、「いてもいなくても同じ」って、どこかで諦めてた。
でも今日、誰かを掴んだとき、 「絶対に離さない」って、咄嗟に思った。
その瞬間、自分は——ちゃんと、この世界にいた。
ゲン
静かな声がして、柚は驚いて振り向いた。
そこにいたのは、ゲンだった。 手にはマグカップ。
もうひとつ、柚の分と思しき湯気の立つカップを差し出してくる。
ゲン
柚
ゲン
柚
小さく返すと、ゲンはクスリと笑った。
ゲン
柚
ゲン
柚
柚は包帯の上から、そっと手を押さえた。
柚
柚
ゲン
ゲンはやさしく笑いながら言った。
ゲン
ゲン
柚
ゲン
柚は、カップの中のあたたかい香りに、ふっと目を細めた。
ほんの少しだけ、胸が温かくなる。 それは、熱でもなく、涙でもない。
ない。 ——たしかに“生きてる”と感じられる、確かな温度だった。
そして、はじめて思った。
柚
その言葉は、誰に届いたわけでもない。 けれど、焚き火の炎がぱちりと弾けて、まるでそれに答えたように見えた。