手笑
そうです。あなたの笑顔です

僕の言葉を聞いた瞬間、彼は目を見開いた。
驚きに、あるいは困惑に、その鳶色の瞳がわずかに揺れる。
やがて、彼は耐えきれないといった風に片手で顔を覆い、低く、喉の奥で笑い声を漏らした
太宰治
...つ、はは。君という人は、本当に.....

顔を覆っていた手をゆっくりと下ろす。
そこにあったのは、首領としての冷徹な仮面でも、
計算された微笑でもない。
どこか遠い日の、あるいはあり得たかもしれない未来の、
ただの青年としての.....ひどく不器用で、柔らかな笑みだった
太宰治
困ったな。ポートマフィアの首領にそんな『安いもの』を要求するなんて
君は交渉の才能がないよ、手笑君

手笑
そうとも云うかもしれませんね、、

太宰治
....でも、不思議だ。今の私の心臓は、
どんな高価な宝石を差し出された時よりも、ずっと騒がしく波立っている

彼はそのまま、優しく君の頭に手を置いた。
その手つきは、壊れやすい宝物に触れるかのように慎重で、優しかった
太宰治
....これで満足かい?孤独を愛すると決めたはずの男に、こんな顔をさせるなんて

手笑
、、ふふ、、、っ

太宰治
いいだろう。この笑顔は、今夜の君だけの戦利品だ。
.....誰にも、内緒だよ?

手笑
そう、ですね、っ

手笑
、、、、

僕の瞳から溢れ出した涙を見て、彼は凍りついたように動きを止めた。
伸ばしかけた指先が空中で微かに震え、
どうすればいいのか分からないといった風に、
迷子のような表情を浮かべる
太宰治
....つ、どうして泣くんだい?
私は、君を傷つけるようなことを言ったかな。
それとも.....この笑顔が、そんなに悲しく見えたかい?

彼は慌てて、でも壊れ物を扱うような手つきで、
僕の頬を流れる涙を親指でそっと拭った。
その指先は相変わらず冷たいけれど、
伝わってくる震えは間違いなく彼自身の動揺だった
手笑
、、、ぅ、

太宰治
泣かないでくれ、手笑君。
....君に泣かれると、私の胸の奥が、まるで抉られるように痛むんだ。
この世界を守るために捨ててきたはずの『心』が、
まだ生きていたのだと思い知らされてしまう

手笑
…、御免なさ、っ

彼は観念したように、力なく、
けれど温もりを求めるように僕をそっと抱き寄せた。
外套越しに、彼の孤独な鼓動が伝わってくる
手笑
……、、っ!?

太宰治
.....すまない。私のような男が、君にこんな顔をさせて。
首領失格だね、私は

手笑
そんなこと、っ

太宰治
気が済むまで泣くといい。
.....この部屋には、私と君しかいない。
君の涙を笑う者も、君を責める者も、ここには誰もいないんだから。
.....私が、君を隠してあげるよ

手笑
あ、あの、っ

太宰治
なあに、手笑君

手笑
首領、いや、、太宰さん。
如何してそんな、無理して笑顔を、?

私の問いかけに、彼は目を見開いたまま固まった。
君を抱き寄せていた腕の力が、微かに強くなる。
図星を突かれた子供のような、あるいは致命的な傷を負った獣のような、
そんな危うい沈黙が流れる
太宰治
........あぁ。.....そうか

彼は力なく笑みを消し、僕の肩に額を預けた。
隠しきれなくなった「疲弊」が、その溜息と共に漏れ出す
太宰治
無理をしている?.....ふふ、当たり前じゃないか。
この椅子に座り続けるためには、私は『完璧な首領」でいなきゃいけない。

手笑
、、、、、っ、

太宰治
織田作が小説を書けるこの平和な世界を守るためには、
私は自分の絶望さえも燃料に変えて、笑って見せなきゃいけないんだ。
.....そうでなければ、私の立っているこの場所は、今すぐ崩れ去ってしまう

手笑
(織田作、此の人の大切な御友人、だっけ
、、其の人と太宰さんを合わせる方法を作るしか、でも、)

手笑
(でも、『前の情報』を見るに、、、彼は太宰さんを否定する、)

手笑
(そう謂えばまだ、『あの計画』は始まっていないんじゃ、
、、、なら、まだ望みはあるはず、っ)

彼はゆっくりと顔を上げ、潤んだ僕の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
今度は、微笑みもしない。
そこにあるのは、底なしの暗闇と、僅かな憧標だけだ
太宰治
私は、この役目を終えるその時まで、
誰にも本当の私を触れさせないつもりだった。
君のような温かい人に、私の孤独を知られたくなかった...

太宰治
.....ねぇ、手笑君。君は、私をどうしたいんだい?
このまま、私が壊れてしまうまで.....
その優しさで、私を追い詰めるつもりかな?

手笑
(なら、)一人で背負わないで下さい。何もかもを。
背負えなくなって、倒れてしまったら、其れこそ駄目じゃないですか。
僕にも、、、僕にも一緒に背負わせて下さいよ

彼は弾かれたようにわずかに身を引いた。
その瞳は、言じられないものを見たかのように大きく見開かれている。
.....それは、彼が最も恐れ、
そして最も切望していた言葉だったのかもしれない
太宰治
.....一人で、背負わないで?君にも、背負わせる?

彼はその言葉を、反するように小さく呟いた。
そして自嘲気味に、力なく首を振る
太宰治
無理な相談だよ、手笑君。この計画は、私にしか成し得ない。
私が一人ですべてを掌握し、一人で闇を背負い、そして
......一人で完結させなければならないんだ。

けれど、そう言い切る彼の声は微かに震えている。
彼はゆっくりと君の手を取り、自分の冷たい両手で包み込んだ。
まるでもう二度と手放したくない、唯一の温もりであるかのように
手笑
(此の人は、一体どれだけの無理を、、)

太宰治
.....でも、君という人は本当に、私の計算を狂わせる。
.....あぁ、困った。君がそうやって私を『人間』として
引き止めようとするたびに、私の覚悟が、
氷が解けるように崩れていってしまう

彼は君の手を自分の頬に寄せ、そっと目を閉じた。
その表情は、まるで祈りを捧げる巡礼者のようだった
太宰治
.....わかった。君の前でだけは、少しだけ、
この肩の荷を降ろさせてくれないか。
今この時だけは、『首領』ではなく、
ただの『太宰治』として、君の隣にいてもいいだろうか

手笑
いいですよ、太宰さん

太宰治
君のその言葉だけで、私はあと千年の孤独にも耐えられる気がするよ。
.....ありがとう、手笑君。......私を見つけてくれて

手笑
御礼するのは此方の方です。あの時、僕を拾ってくれて、有難う御座います

手笑
ナデナデ、、、、ってあ!?すみません!!

....頭に触れられた瞬間、彼は驚きで体を強張らせた。
けれど、すぐにその力は抜け、
彼はゆっくりと目を細めて君の手のひらに身を委ねた。
.....それはまるで、生まれて初めて「赦し」を与えられた子供のような、
無防備な姿だった
太宰治
.........あぁ

慌てて手を引こうとした僕の手首を、彼は反対の手で優しく、
でも逃がさないようにそっと掴んだ
太宰治
...謝らないで、驚いただけだよ。
.....こんなふうに、誰かに慈しまれるように頭を撫でられたことなんて、
あちら側の私を含めても......一度もなかった気がするからね

手笑
(あちら側、か、、)

彼は君の手のひらに頬を寄せ、その温もりを吸い込むように深く息をつく
太宰治
....温かいな。君の手は、私がずっと遠ざけてきた、この世界の光そのものだ。
...ねえ、手笑君。もう少しだけ、このままでいてくれないか。
私のこの冷え切った孤独を、温めてほしいんだ

手笑
断る理由なんて、ありませんよ、、、ナデナデ ナデナデ

太宰治
.....ふふっ。ポートマフィアの首領が、部下に甘えているなんて。
.....他のみんな(特に中也)が見たら、腰を抜かしてしまうだろうね

手笑
そうですね、蛞蝓にだけは見られないようにしないとですね、、
いざという時が僕があなたを隠します、!

彼は目を閉じたまま、ふっと小さく、今度は本当に幸せそうに笑った
太宰治
...君の前では、私はただの無力な人間になれる。本当に、ありがとう。
もう少しだけ、こうしていて。......まだ、夢から醒めたくないんだ
