黄金色になった麦の実を取り出して挽くと真っ白な粉ができる。それが料理の材料であることは知っていた。たぶん、ずうっと前に本で読んだのだろう。それでも、目の前にあるただの粉がふわふわのパンケーキになると言われて、どんな錬金術なのだろうかと疑ってしまうくらいには料理というものを知らなかった。
13 サーティーン
ソーン
小麦粉に、卵の黄身と牛乳の入ったボウルを片手に彼は笑った。彼にパンケーキを作ってもらったのは一度や二度ではない。何度も見ている光景だけれども、焼き上がるまでの過程はどうしても見入ってしまう。
13 サーティーン
ソーン
13 サーティーン
どうしてですか、と言おうとして前回の失敗を思い出した。電動ミキサーなる調理器具を上手く扱えず、ボウルの中身を半分以上ぶちまけたことを忘れてはいない。でも、卵の白身がクリームみたいになるのを見て、どうしてもやってみたくなったのだ。
13 サーティーン
ソーン
サーティーンさんは僕に嘘をつかない。少なくとも、今まで裏切られた試しは一度も無い。教えてくれると言う言葉を信じて、冷蔵庫の中から目当ての物を取り出す。
13 サーティーン
ソーン
13 サーティーン
面倒くさい、他の人に頼めと言うくせに、決して断りはしない。ぶつぶつ言いながらも、手際よくホットプレートに油を引いていく。
ソーン
13 サーティーン
プレートにどばっと生地がこぼれる。今日のパンケーキは大判になりそうだなあと思いつつ彼の顔を見ると、あからさまに狼狽した様子で顔を赤くしていた。好き、という言葉はそんなに刺激が強かっただろうか。でも、本心であるから撤回するつもりはない
13 サーティーン
ソーン
なんて言うくせに、焼き上がったパンケーキは大きいのから順に僕のお皿に乗ることになるのだ。
何故、見え透いた嘘をついてまで嬉しいのを隠そうとするのかは分からない。けれど時折彼が遠い所を見つめて悲しそうな顔をしたりするから、僕の知らない所で何かあったのだろう。素直に喜んだり、笑ったりできなくなるような“何か”が。
13 サーティーン
ソーン
たっぷりとクリームの添えられた皿が目の前に運ばれる。僕の心を喜ばせ、命の糧となるもの。お料理という魔法。こんなすてきな食べ物を生み出してくれる彼が“堕ちたモノ”だとは、どうしても思えなかった。
むしろ、こんなに優しい人の羽を毟った誰かが――恩寵の輪を砕かざるを得ないところまで追いつめた何かが――この世界に居ると思うと、僕の心は冷たく、刺々しくなって、あまり人には言いたくない事まで想像してしまう。
13 サーティーン
なかなか手を付けない僕を見て、純粋な疑問符を浮かべている彼。毎度のことながら食べるのが勿体ないと告げる。思えば僕は、ただこの瞬間の為に彼にパンケーキをお願いしているのかもしれない。
13 サーティーン
僕から見れば、口元がほんの少し緩むだけ。注意して見なければわからないくらいの、ささやかな微笑。ひとひらの雪ように儚く、尊いもの。彼の本当の笑顔を拝めたことに満足して、ほこほこのケーキにフォークを突き刺す。
ソーン
13 サーティーン
温室では決して知りえなかった、愛しいもの。ただ兄と過ごせれば幸せだったはずの自分に、願いが生まれた。傲慢と知りつつも、何も知らなかった頃に戻りたいとは思わない。
ソーン
13 サーティーン
ソーン
何だそりゃ、と言いながらわしわしと頭を撫でてくる。ごまかされるのは知っていたけれど、願わずには居られない。
パンケーキひとくちぶんだけでも良いから。この胸にこみ上げる温かいものを、貴方も感じていますように、と。
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コメント
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ワァ───ヽ(*゚∀゚*)ノ───イがんばる
それだ!!( *˙ω˙*)و
裏の顔がやばい感じの子かな…??