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「はぁ〜」
帆稀は大きくため息をついた。
研修2日目
他の科では学ばなかったことを一気に学んでいる。
レポートにまとめてもまとめても終わらない。
帆稀は一度レポートから目を離し、弁当を食べ始めようとした。
コンコンコン
扉の向こうからノックの音が聞こえる。
「こんにちは⋯⋯⋯」
休憩室に入ってきたのは凪だった。
凪の顔を見た瞬間、帆稀の疲労は一瞬で吹き飛ぶ。
「あ!榊さん、こんにちは。お疲れ様です」
「水瀬さん、お疲れ様です」
凪は帆稀の隣の席に座る。
「榊さん、お手紙読んでくれました?」
凪は弁当を広げながら言う。
「読んだよ。ありがとう」
凪は帆稀の方を向いてニコッと笑う。
その笑みを見た帆稀の心臓は破裂しそうなほど音がなっている。
「あんな朝早くからすごいですよ」
「水瀬さんだって同じだろう?」
「いや、俺は朝方人間だから大丈夫です!」
凪は自信満々に言う。
帆稀は耐えきれずフハッと吹き出してしまった。
「朝方人間かは関係ないんじゃないか?」
「いやいやいや、関係ありますよ!」
凪も笑いながらそう言う。
二人は目を合わせあう。
そして、同時に笑い出した。
休憩室が終わるまで凪と帆稀は笑い合い、話し合っていた。
ボフッ
まだ小児科には慣れず、疲れが溜まっている帆稀は布団に勢いよく寝転がった。
疲れているはずなのに頭の中には凪の笑った顔が浮かんでいる。
その顔を思い出すだけで疲れが吹き飛ぶのも不思議だ。
いつも通り、睡眠導入音楽をかけようとスマホを開いた。
動画配信アプリから指をすっーとずらし、メッセージアプリを開く。
【水瀬凪】
一番上にはその名前が載っていた。
帆稀はスマホを閉じ、胸に抱え込む。
(今夜のお守りは水瀬さんの宛先だな⋯)
帆稀はそう思いながら、目を閉じ、深い眠りについた。
目が覚めたのはいつも通り、3時30分
ベッドから降り、いつも通りの準備をする。
髪を整え、
ジャージを着て、
体力測定器を腕につける。
(よしっ行こう)
覚悟を決めた帆稀は外に向かうために玄関に向かった。
縄跳びを持ち、跳び始める。
今日は普段よりも足が軽い。
(きっとこれも水瀬さんというお守りのおかげなのだろう)
帆稀はそう思いながら飛び続けた。
ガチャ
後ろでは自転車が止まった音が聞こえる。
「おはようございます!榊さん!」
「おはよう水瀬さん」
凪は新聞をポストに入れながら明るい声で挨拶をした。
そして、再び自転車に乗り、向かいに家に向かって行く。
帆稀は凪が見えなくなったところに行ってから、ポストを確認する。
ぽとっ
帆稀の予想通り新聞から白いお手紙が出てきた。
榊さんへ お疲れ様です! 榊さんは休憩室でレポートをやっているんですね。 俺は家に帰っても全然やらないので溜まっていく一方です。 俺も榊さんを見習って休憩室でやってみようと思います。 今日も頑張りましょう。 水瀬より
「はははっ、ダメじゃないか」
帆稀は笑いながら手紙を読んだ。
不思議なことに手紙からは水瀬の声が聞こえてくる。
帆稀は凪の文字をなぞりながら、再び笑う。
男性を好きになることに抵抗がなかったわけではない。
もしかしたら、好きという感情では無いのではないかもと思ったりもした。
でも、この手紙を読むとそんなことはないと自分のことを完全に否定できる。
帆稀は胸に手を当て、深呼吸をした。
凪のことを好きだということを確認するように
この日から毎日、帆稀は凪と手紙でやり取りした。
この日のようなレポートが終わらないという話から医療の話まで
休憩室で会えば手紙の内容について話したりと二人の心は通じあってきた。
それと同時に帆稀の好きという感情も強くなっていった。
二週間後
二人の関係性が変わる出来事が起こったのはこの時だった。
帆稀はふと思い、ゆきちゃんのところへ向かっていた。
凪と話すことで帆稀の心は自信で溢れていた。
もしかしたら、次こそはゆきちゃんと通じあえのかもしれない。
きっと、そう思ったのだろう。
そんな自信で溢れている帆稀は軽い足取りでゆきちゃんの病室へ向かって行った。
病室に前に着いた。
帆稀は深呼吸をし、心を落ち着かせる。
そして、手を扉の前に起き、コンコンコンとノックをした。
「失礼します」
部屋には3人の患者しかいない。
ゆきちゃんがいるはずのベッドは空になっている。
そのベッドの近くには看護師がいた。
「あの、」
「あ、はい。どうされましたか」
「ゆ、ゆきちゃんって⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯ゆきちゃんは」
看護師からの言葉を聞いた帆稀は急いで病室を出た。
(なんで⋯⋯なんで⋯⋯)
帆稀はそう思いながら息を切らして人を探す。
帆稀は右往左往と人を探した。
(⋯⋯は)
帆稀が探している人とは真白のことだった。
帆稀の目の前にいる真白はピンク色のバギーを大人に引き渡している。
バギーの上に乗っているのは帆稀が会いたかったゆきちゃんだった。
大人はバギーを持って病院を出ていってしまった。
帆稀は先程とは違う重い足で真白に近付く。
「真白先生、ゆきちゃんは、」
真白はゆっくり振り返る。
「ゆきちゃんは養護施設へと向かったよ」
帆稀の思考は一瞬止まる。
「⋯養護施設ですか?」
「うん、母親はもう来ないからね。帆稀くんは知っているでしょ?何かがない限り3ヶ月以上の入院はできないんだよ」
(そうだ、何かがない限り3ヶ月以上の入院はできない。だからゆきちゃんは⋯)
「帆稀くん、ほら仕事頑張っておいで」
真白は帆稀の肩をトンと叩き、廊下を進んで行った。
そんな真白の背中を追う気にもなれずただその場に立ちすくんでいた。
何をしたかも覚えていないまま休憩の時間になってしまった。
レポートを目の前にしてもなかなか筆は進まない。
ただただ今日あった出来事を思い浮かべるだけだった。
コンコンコン
ノックの音が聞こえる。
「お疲れ様です」
凪が休憩室に入ってきた。
帆稀は凪の顔を見る。
「あ!榊さん!お疲れ様です!」
「お疲れ様」
凪はにっこり笑う。
それなのに、今朝までは嬉しかった笑みが今の帆稀の心には刺さらない。
「榊さん⋯?」
「ごめん、」
帆稀は弁当を急いでまとめて休憩室を出ようとした。
その時だった
凪が帆稀の腕を引き、凪の元に引き寄せる。
「榊さん⋯⋯」
凪はそう言いながら、帆稀の頬に唇をあてた。
凪の心臓の音は帆稀の腕越しに伝わる。
帆稀の心臓もそれが移ったかのように激しく音が鳴る。
深呼吸をした帆稀は凪の腕をゆっくりと引き剥がし、凪の目を見た。
「水瀬さん、ごめん、」
帆稀はそう言いながら休憩室を出て行った。
その出来事があってから帆稀は早朝に縄跳びをしなくなり、休憩室でご飯を食べることも無くなった。
凪を嫌いになった訳ではない
ただ自分の気持ちを整理したいだけ
そう自分を説得し毎日を過ごしていた。
でも、不思議なことに好きな人と話せないというのは呪いのように辛いものらしい
そりゃあ当然だ
毎日何度も話していたんだから。
好きなんだから。
帆稀はやろうとしていたレポートを諦めベッドに寝転がった。
そして、睡眠導入音楽をかける。
重い瞼がどんどんと下がってくる。
その感覚に身を任せ、深い眠りへと落ちていった。
(ここはどこだ?)
帆稀は辺りを見回す。
日光に照らされ、童謡が流れている。
そう、この部屋はゆきちゃんがいた病室だ。
そして、目の前にはゆきちゃんが立っている。
「⋯ゆきちゃん、おはよう」
ゆきちゃんは立ったまま何も喋らない。
でも、何かを目で訴えているような感じがする。
帆稀はゆきちゃんにもっと近付く。
ゆきちゃんは口をゆっくり動かし始めた。
「⋯⋯つたえて⋯⋯⋯⋯ちゃんと」
ゆきちゃんはそう言った途端、パッと消えてしまった。
「ゆきちゃん⋯?」
「⋯はっ」
帆稀はバっと起き上がった。
背中にはびっしょりと汗をかいている。
目の前の時計には3時30分と書いてあった。
頭の中にはゆきちゃんの言葉が浮かび上がってくる。
『伝えて、ちゃんと』
帆稀はこの言葉を胸に託し、ベッドから立ち上がる。
そして、玄関へ走って向かっていった。
ガチャ
家の前で凪が自転車を止めている。
帆稀はそんな凪を見つけた途端、声を上げる。
「凪!」
凪は驚いた顔をして帆稀の方に振り向いた。
「榊さん⋯?」
久々に見た凪の顔はとても可愛く見えた。
本当に好きなんだ。
そう実感しながら凪の元へ走って行った。
「凪、ごめん」
「榊さん、だからなんですか」
「僕、凪のことが好きだ」
凪の言葉に被せるように帆稀は勢いよく言った。
「凪の頑張り屋さんなところもレポートやらないところも努力家なところも全部、全部、好きなんだ」
凪は困惑していた。
それさえも愛おしいと思う帆稀は言葉続ける。
「ここ最近、会えてなくて気が付いたんだ。ものすごく凪のことが好きなんだって」
帆稀は深く息を吸う。
「だから、凪。付き合ってくれませんか?」
帆稀の心臓は爆発しそうなほど激しく鳴っていた。
それを落ち着かせるために凪の手を握る。
「俺も⋯⋯俺も、好きだよ」
凪は帆稀の気持ちに応えるかのように強く手を握り返す。
「頑張り屋さんで一生懸命でたまにいっぱいいっぱいになっちゃうところも好き」
凪は涙を拭い、帆稀の目を見る。
「俺と付き合ってください!」
凪のその言葉二人の時間を止める。
そして、目を合わせる。
二人は同時に笑いだした。
「凪?付き合ってくれるってことでいいの?」
「あぁ!もう!そうですよ!本当は俺が言うつもりだったんですからね!」
二人はどちらからともなく抱き合う。
そして、顔を近付けた。
「さすがに外じゃまずいか」
「確かに⋯⋯」
凪はしょぼんとした表情になる。
帆稀はその顔をしている凪の唇に口付けをする。
「⋯⋯あ!」
「はいはい!新聞配っておいで!」
「え!ちょっと待って!」
帆稀は凪の背中をグイグイと押す。
凪は勢いよく振り返り、今度は凪が帆稀に口付けをした。
「はい!お返し!」
「あ!凪やったな?」
「はーい!じゃあね!」
凪はくすくすと笑いながら自転車で向こうに行ってしまった。
そんな凪を帆稀を手を振って送り出す。
帆稀は上げている手を下ろし、胸を当てる。
(ゆきちゃん、ありがとう)
その思いを手に宿らせ、仕事に向かう準備をし始めたのだった。
みなさま〜こんばんはっ(ᐡᴗ ̫ ᴗᐡ)✨️
奥秋ちよです🍁🍂
数ある創作BLの中からこのお話を読んでくださり、ありがとうございます。
私は普段ノベルを書いているのですが、何か新しいことをやってみたいなと思い、チャットノベルをやってみました。
チャットノベルでしかできないことを上手く使えたかなと思います。
このお話を書く際にとても難しかったのが医者目線の会話です。
どうしても看護目線になってしまい、とても苦戦しました。
いい作品になってたらいいなと思います。
スランプ中に書いたにしては上手くいっているはずです。
重ねてになりますが、みなさまここまで読んでくださり、ありがとうございました!
ではまたお会いしましょう👋🏻︎︎𓂃⟡.·
少し先になってしまいますが、濡れ場のシーンも投稿しようかなと思ってます|´-`)チラ
お楽しみに|´-`)チラ