家計簿は嘘をつかない〜サレ妻は一円残らず夫を清算する〜
パート経理の篠原真尋、三十六歳。結婚して九年、緑の表紙の家計簿を一円単位でつけてきた。夫の恭平は住宅会社の営業課長で、口癖は「稼いでいるのは俺」「パートのくせに」。
十月の月末。通帳の二十七日の行が、空いていた。娘の学資保険、一万六千円。保険会社に電話すると、答えはこうだった。「ご主人様のお申し出で、解約済みです」。
解約で戻った百三十万円は、どこへ消えたのか。
真尋は探偵を雇わない。スマホも盗み見ない。手元にあるのは九冊の家計簿と、通帳と、領収書だけ。けれど、数字は嘘をつかない。残業の日のガソリン代。家にない七五三の写真代。夫の「もう一つの家」が、一円ずつ、家計簿の上に浮かび上がる。
「人の家計まで監査する冷血所長」と呼ばれる税理士事務所の所長・神谷は、真尋の数字を読む目を誰より先に見抜いた。「自分で読み上げてください。あなたの九年分を」。
見下されていた家計簿が、いちばん強い武器になる。サレ妻は、一円残らず夫を清算する。