「あらそう?じゃあいいんだけど」 と、石本来夏の母、石本正美はどこか不安げに話す
「私もう中学生だよ?子供扱いしないでよ」 と、石本正美の娘、石本来夏は口を尖らせながら話す
今日は初めての中学校、石本正美は昔からヤンチャでドジな娘が心配で、忘れ物が無いか聞いたところ、反抗期もあってか軽い口論になっていた。
「とりあえず私行くから!」 と、言うと、石本来夏はため息をつきながら家を出て行った
私はあの日の口論を、ずっと後悔していた
知らせがあったのはお昼前、自己紹介やプリント類の配り物が終わり、給食を食べたらもう帰れる時だった
「岩本来夏さん?」 教室のドアが開くと、私に似た、恐らく読み間違えた私の名を、教頭先生が呼ぶ
「石本です」 「ああ、石本さん、お父さんから電話が来ているので職員室まで降りてきてください」
教頭先生があまりにも急かすので、私はプリント類を仕舞えず、ぐしゃぐしゃにしたまま教室を出る
「はい、もしもし?」 職員室に着き、受話器を手に取ると、早朝に仕事に出ていったお父さんの声が聞こえた
が、向こうは慌ただしく、ずっとトラック、と、正美、と繰り返しているだけだった
お母さんがなんだ、少し声を荒らげると、お父さんから、重く、衝撃の大きな一言が繰り出される
「正美が、トラックに轢かれた。」
ついさっきの出来事だった、授業中に聞こえた救急車の音はお母さんが運ばれている時の音だった
私に、給食袋を届けに来ていたのだ
あれだけ言われた、言ってくれた、 言ってもらえてたのに
私は聞かなかった、聞く耳すら立てなかった
その日の後悔を、私は絶対に忘れない
仮通夜の後、泣き疲れて眠ると、夢でお母さんと話した
「やっぱり忘れてた」
「ごめん」
「謝らないでよ」
「ごめんなさい」
「謝らないでって」
「だって、私のせいでお母さんは」
「いいのよ、給食は食べれた?」
「病院行ってたから食べれてない」
「あら、夜ご飯は?あの人作ってくれてる?」
「作ってくれてはいるけど、喉に通んないよ」
「あの人、味付け濃いからね」
「そういう意味じゃないよ」
「そっか」
ふふ、と、少し笑えた
「ああ、そうだわ」
「なに」
「あの人に、よろしくって伝えてくれる?」
「わかった」
かたわれ時、太陽が差し込んでくる
「もうすぐみたいね」
「そんな事いわないでよ」
「さっき言ったことよろしくね」
「いかないでよ」
「また会えるわよ」
「嘘つかないで」
「本当よ」
お母さんは、ふふ、と笑うと、私を抱きしめてくれた、強く、私を、抱きしめてくれた。
「また、会いましょう」
「うん、また、また、必ず、会おうね」
母が手を振っている、その後、何も見えなくなった
朝日がカーテンの隙間から射し込む
部屋を出て、お父さんの部屋に進むと、お父さんも今起きたようで、まだ覚束無い様子だった
顔を洗い、着替えて、リビングに向かい、椅子に座ると、少し色の濃いオムレツが出てきた
「今日、夢で」
「今日夢に正美が出てきたんだよ!」
「うん、やっぱり」
「やっぱり?」
「や、なんでもない、で、なに?」
「あ、正美がね?夢に出てきてね?」
「うん」
「えっと、なんだっけ」
「私によろしくって?」
「あ、そうそう、来夏に、って」
「私も聞いたよ」
「正美から?」
「うん」
「俺によろしくって?」
「うん」
「そうか」
「うん」
「他に何か言ってたか?」
「ご飯の味付けが濃いから気をつけろだって」
「余計なお世話だよ」
「お父さんは?」
「えっと、思春期満喫しろって」
「余計なお世話だね」
朝から笑うと元気が出る
オムレツを1口口の中に運ぶ
相変わらず濃いかった、しょっぱかった
泣いてるみたいな味だった
コメント
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家族系弱いので感涙です。これからも応援しています。