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千冬

一虎

千冬

羽宮君、…

生きててごめんなさいなんて

こんな子どもに言わせたくなかった

一虎

…千冬さん、離して……

千冬

えっ、あっ、すみません…

何があったのか

何がこの子をこんなに傷付けたのか

知りたいと思うのは、余計なお世話だろうか

一虎

……外、暗くなってきたから

一虎

帰り、ます

千冬

あっ…はい

千冬

よ、よかったら近くまで送りましょうか?

一虎

……いや、

千冬

送ります!暗いので危ないですし!

無理やりだと分かっている

でも、この子を夜の街に1人にするのが、どうしても不安だった

一虎

え、でも…

千冬

バイクと車、どっちがいいですか?

千冬

どっちでもいいですよ

一虎

バイク…?!

刹那、羽宮君の瞳が分かりやすく輝く

千冬

えっ

千冬

バイク、好きなんですか?

一虎

す、きです

一虎

場地が……って、あっ

何か言いかけ、焦ったように口を噤んでしまう

イタズラを見つかった子どものようで、意図せず笑ってしまった

千冬

大丈夫ですよ?ここではなんでも言っていいんです

千冬

貴方を俺が責めることは、ないですから

千冬

安心してください

一虎

あ、……えっ、と

一虎

場地が、バイク大好きで

一虎

たまに2人で乗って、海とかに行ったりするんです

一虎

俺も持ってたけど、…その、訳あって壊れてしまって

千冬

そうなんですね!

千冬

俺も学生時代は乗り回してたんで、おあいこですね

千冬

注意する権利が無いです(笑)

キラキラと瞳を輝かせる羽宮君は無邪気そのものだ

さっきまで泣いていた子とは思えない

千冬

じゃあ、バイクで帰りましょうか

千冬

表に回してくるので、玄関のメットを持って待っててください

一虎

っ、はいっ!!

元気な様子に安心すると共に、彼の事に1つ詳しくなれたことが嬉しかった

これから、この子のことをもっと知れたらいい

心からそう思う

千冬

お待たせしました!

千冬さんの声に振り向くと

そこにはピカピカのバイクがエンジンをふかしていた

一虎

……!!!

一虎

かっけぇ!!すげぇ!!

千冬

ふは、そんなに喜んでくれるんですか?

千冬

嬉しいです

千冬

コイツを褒められることなんて、仲間内以外じゃ滅多にありませんからね

一虎

そう、なんですか?

一虎

こんなにカッコイイのに…

千冬

ま、普段は車を使うから、あんまり乗らないっていうのもあるんですけどね

千冬

さ、乗ってくださいよ

一虎

お ー っ!!!

初めて跨った千冬さんのバイクは、自分のモノとは比べられないくらい大きい

片方に傾けてもらわなくては足が付かなくて、乗った後はぷらぷらと前後に揺れていた

千冬

よしッ 、 と

千冬

羽宮君の家はどの辺ですか?

一虎

あ、えっと___

家まで送ってもらわなくて大丈夫だ、と最寄りの公園を出したのに、危ないからと却下されてしまった

本当は、

家に来て欲しくなかったけど

一虎

(仕方ないよね)

一虎

あ ー …… えっと 、

住所を口にしたら胸の奥が気持ち悪くなって

空咳をひとつ零した

ただ、家に帰るだけなのに

千冬

あ、結構近場なんですね

一虎

そうです

一虎

場地の家はもうちょっと遠いんですけどね

千冬

へぇ、今度場地くんにも聞いてみようかな

他愛の無い会話を引き伸ばして引き伸ばして時間を稼ぐ

こんなことしちゃ、迷惑なのになぁ

千冬

…って、あ!もうこんな時間ですよ!

千冬

そろそろ帰りましょうね

一虎

あっ、…はい

ねぇ、千冬さん

俺、帰りたくないの

そんな言葉はついぞ口から出なかった

千冬

しっかり捕まってて下さいね!

千冬

落ちたら大変ですから

一虎

はぁーい

一虎

場地のバイクに乗ってるから勝手は分かってるっての!

千冬

はいはい、分かりました(笑)

千冬

じゃあ、行きますね!

ぶろろ、とバイクのエンジンが大きい音を立て、タイヤが滑り出す

この音が途切れることを願うのは初めてだった

千冬

…この辺りかな、

一虎

ん、ぁ …

一虎

あ、家ここです

千冬

ここ?

一虎

この、…正面の、黄色い壁です

千冬

あ、これですね!

千冬

じゃあもう少し近くまで……

千冬

よし、っと

一虎

ん、有難うございました

千冬

いえいえ!全然大丈夫ですよ!

走行中、羽宮君は一言も話さなかった

帰りたくないとも言わなかったし、家は大丈夫なのだろうか

千冬

(いやいや、憶測は駄目だ)

こういう子ほど、親を庇っていたりするものなのだ

千冬

(って、)

千冬

(なんで俺はこんなに羽宮君を疑ってるんだ……)

一虎

千冬さん

千冬

?どうかしました?

路上にバイクをとめ、羽宮君に向き直る

俯いていて、表情は見えなかった

一虎

あの、

一虎

また、何かあったら……千冬さんのところに、行ってもいいですか?

千冬

!!!

千冬

勿論!!

千冬

そのために俺がいるんすから!

千冬

何時でも、連絡してください

手を取って握れば、見えない表情が、少しだけ和らいだ気がした

一虎

ん、

一虎

有難うございます

一虎

じゃあ、これで

千冬

はい!気をつけてくださいね!

暗闇に消えていく背中を見守り、エンジンを付けようとすると、電話がかかってきた

数分話し、スマホから耳を離した時

壁に隔てられた淡い音で酷い物音と悲鳴のような声が

千冬

羽宮君、

鈍い音は止むことも無く

閑静な住宅に響き渡っている

千冬

…ッ、絶対

絶対に救ってみせる

だからもう少しだけ待ってて下さい

そう胸に決め、帰路を急いだ

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