面倒くせー

なにもかも面倒くさい

どいつもこいつもヘラヘラ笑って何でも多数決で決めて 馬鹿じゃねーの

仲間づくりを強要する回りに嫌気がさして、部活とか塾をサボってみたけど

……何やってんだ俺

砂場と滑り台とベンチしか設置されていない寂れた公園には俺1人しかいない。

要塞を思わせるデザインの滑り台の頂点でスマホを弄ると、秘密基地に籠るみたいで落ち着いた。

昔は人気スポットだったこの滑り台も、ところどころペンキが剥げてる。

この空間で お菓子を食べたりカードゲームで遊んだりしたなぁ…と懐かしく思っていると__

俺のプライベートルームに小学生くらいの少年が侵入していた。

小学生は勝手に俺の隣に腰掛けた。

露骨に顔をしかめた俺に構わず小学生は話し続ける。

小学生は首を傾けて俺の顔を覗きこんだ。

始めは無視を決め込んだが、小学生は俺から視線を外さない。

__俺が答えるまでずっと見てくるパターンだ__ 根負けして ひりあ町の辺りを眺めた。

2回目の我慢比べも俺が負けた。

小学生は勝手に考えを展開して勝手に納得して 勝手に去って行った。

落ち着くもクソもない。 マジ何だったんだ。

とにかくこれでやっと1人になれる……… と思った15分後

また戻ってきた。

なんか りんご飴持ってる。 近くの駄菓子屋で買ってきたのだろう。

2本あるうちの1本を差し出したまま小学生はフリーズした。 我慢比べ3回戦だ。

粘ったけど今回も俺が負けた。ため息を吐いて りんご飴を受けとる。

俺が一口かじるのを確認すると小学生は満足そうに頷いた。

面倒くせー

面倒くせー！ なにコイツ

翌日から本当に結人は学校まで迎えに来た。

校門の前で待ちぶせされ 2時間経っても帰らない。

終いには一部の心優しい生徒達の手で、部活中にも関わらず校門まで連行された。

週に1回の部活休みを小学生に献上する羽目になった。

結人の家に通され、ビンゴ作りに勤しむ。

招待状とやら はカラーペンはふんだんに使うくせに、コピー機は使わないので無駄に時間がかかる。

__そして時々 特等席でりんご飴を食べる。

最初はマジで面倒臭かったけど

結人が本当に夏祭りを楽しみにしてることが だんだん分かってきて

楽しめたらいいな、とか思えてくるから困る。

あと他にもいろいろ分かった。

結人が同年代の小学生と比べると少し、いや かなり 痩せていること。

結人の部屋にかけられているカレンダーの文字。

7月〇日：今日も早退した。 7月〇日：4回も吐いた。 8月〇日：咳をしたら血が出た。

１ヶ所だけカラーペンでデコレーションされた欄には 「夏祭り」と書かれている。

鮮やかな欄の２日後に

入院→

検査 検査 検査

検査 手術 検査

小学生にしては整った文字で埋め尽くされたカレンダー。

その中に 「退院」の文字がないこと。

俺の夏は いつしか2人の夏になってた。

夏休みに突入して間もなく。

駄菓子屋にりんご飴を買いに来た時だった。

咄嗟に俺も結人も近くの電柱に隠れてしまった。

セミがうるさく鳴いていたけど、会話と笑い声は はっきりと聞こえてきた。

___何言ってんの。アイツら

丹精込めて作った招待状を………捨てた？ 何言ってんの。アイツら

俺の隣で結人が困ったように微笑んだ。

殴ってやる

と、まではいかないけど 1言 言ってやろうと思った。

電柱から出ようとした俺の手首を、結人が掴んだ。

色鮮やかな水風船もなければ

無数に並ぶキャラクターのお面もない。

迷子のお知らせを告げる放送も 威勢のいい呼び声も聞こえない。

ソースの香りも熱気も味わえない。

___傍から見たらショボいだろうけど

俺と結人からしたら ちゃんとした夏祭りだ。

俺たちしか知らない 俺たちだけが楽しめる夏祭り。

手元のりんご飴が半分ほど無くなった時 結人が呟いた。

面倒くせー、面倒くせーと逃げてきた物に真剣に向き合うことにした。

遠い空に打ち上がる花火は １番綺麗に見えた。

傍から見たらショボいだろうけど

俺たち からしたら充分特別で忘れられない

2人だけの夏祭りは、もう少し続く。

カサミネ様主催 「夏祭りコンテスト」 サムネイル画像提供：カサミネ様