陽太
吾輩は猫である。名前はもうある。
そんなフレーズから始まる有名な小説があったはずだけれど、その続きを思い出す事ができないでいる。確か、「私の名前はミケだ」とかなんとかいう内容だったと思うのだけれど……まぁいいか。
今更ながらだけど、私は人間じゃない。
一応言っておくけど、化け物でもない。
私は、ただの猫なのだ。
でも普通の猫とはちょっと違う。
そう言うと大抵の人間は私の事を変な目つきで見るからあまり言いたくないんだけど――まぁこの際だからはっきり言ってしまう事にしよう。
私は、人間の言葉を話す事ができる。
もちろん、人間の言葉を理解できているわけじゃあない。
私が理解できるのは日本語だけだ。英語なんて全然わからないし、中国語に至っては全くちんぷんかんぷんだ。それでもなぜか意味だけはわかるから不思議だよね。でもさすがに韓国語で愛の告白されたって、私じゃどうしようもないよ? だから私はいつものように、私の想いを込めて彼に花束を差し出した。彼はきっと気付いていないだろうけどね。だって彼ったら超がつくほどの鈍感なんだもん! そうして今日も、何食わぬ顔で彼の前に立つのだ。
「おはようございます!」
―――そして私は今日も、あなたが好きですと伝えるのです。
***
「あーちゃん?」
「なぁに? ゆっくん」
「いや……なんか元気ないなって思って」
心配そうな表情を浮かべる幼馴染みに、思わず笑ってしまった。
なんですかその顔。まるで迷子の子供を見るような目じゃないですか。失礼ですね全くもう。
それにしてもまさかこんなところで会うとは思わなかった。ゆっくんてば相変わらず
