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はぁ…はぁ…はぁ…
荒い息遣いが聞こえる
お_、___せ……
誰かが
叫んでいる__?
、……つ!
くぐもったその声が 一体何を伝えようとしているのか
俺にはまるで分からない
分からないが……
この声の持ち主には
不思議と心当たりがあった
……ぇ覚ま_!
次第に鮮明になっていく声色
意識がはっきりしてくると
俺の鼓膜は
叫び声とはまた別の音を捉え始める
キンッ_キンッ_
これは……、
ガキ ィィンッ!!
幾度となく聞いてきた音
金属同士がぶつかり合う衝突音だ
目ぇ覚ませ!!
暇なつ!!
暇72
勢いよく身を起こした俺は
第一にぐちゃぐちゃとした不快感を覚えた
全身からでた汗が衣服に染み
俺の身体にべっとりと纏わり付いている
___ッ俺
寝てた、のか?
どうやら
本当に眠ってしまっていたようだ
何してたんだっけ俺
記憶を遡ろうとしたとき
その声は聞こえてきた
いるま
暇72
肩が無意識に跳ねた
いるま
暇72
続いて視界に入ってきた紫色の髪が
俺の顔を
彼から無理やり背けさせる
いるま
暇72
なにも言わない
そんな俺の態度に痺れを切らしたのか
この男は俺の顔を強引に掴み
無理矢理俺の視界に映り込もうとした
__俺は
いるま
いるま
バシッ
いるま
そんな彼の手を弾いた
すぐさま立ち上がり
動揺して固まる彼を置いて壁際まで走って
彼からできるだけ距離をとる
が
この男は
そんなことでへこたれる人間ではなかったらしい
早々に復活した彼は
俺の後を追ってきた
そのまま固まっていればいいものを…
いるま
暇72
俺の怒声で静止する彼
いるま
暇72
暇72
再び口を開いた彼に
俺は再び怒号を浴びせる
いるま
暇72
そういった彼のなんとも不安げな声色で 我に返った俺は
心のなかで否定した
違う
お前は何もしてない
何も悪くない
悪いのは____
暇72
喉が潰れてもおかしくないくらい
俺は叫んだ
混乱した今の俺には
そう返答するだけで精一杯だった
どちらも何もしないまま
時間だけが
刻一刻と過ぎていく
沈黙を破ったのは彼だった
溜息をついた彼は
いるま
とある短い単語を発した
その一言で
俺は悟った
バレないように包み隠したはずのこの葛藤が
彼には全て筒抜けであることを
いるま
暇72
いるま
暇72
暇72
めっちゃ怒鳴るやん
……どういう状況?
目を覚まして最初に飛び込んできたのは
なつの寝顔だった
驚きつつ起き上がった俺は
次にあたりを見回す
壁も床もタイル質の広い一室
見覚えのあるその光景に
俺は震えた
そこかしこから聞こえてくる仲間の悲鳴と嗚咽
体中を駆け巡る強烈な痛み
そんな辛い記憶が次々に浮かび上がり
俺の心を締め付ける
忘れていたわけじゃない
唯
改めて思い出してみると
尋常ではないほどの衝撃が走る
俺の心は未だ
あの頃に囚われているのだ
いるま
いるま
落ち着け
取り乱すな
俺は敢えてゆっくりと呼吸し
早まる鼓動をどうにか押さえつける
ふと
右手に圧迫感を覚えた
何事かと思い目線を降ろすと
俺の右手は
隣で眠る男の両手にぎゅっと包みこまれていた
いるま
一瞬驚いた俺は
直後に頬を緩ませる
懐かしいな
実験による痛みや恐怖で寝付けなかったとき
彼は決まって
何も言わずに手を繋いでくれた
痛みが徐々に和らいでいく心地がする
つくづく俺は
彼に助けられてばかりだ
俺は
こいつの力になれているのだろうか
静かに眠る彼の横顔を見下ろし
そんな事を考える
その後は知っての通りだ
魘(うな)され始めた彼が突然飛び起き
俺の手を振り払って
壁の方へと走っていく
近寄って声をかければ
「来んな」「喋んな」
とこちらを断固拒否
なんでだ
何故俺に対する態度が急変したのか
全く分からない
俺がいふさんに気絶させられてから今までの間に
彼の心を揺るがす何かがあったのだろうか
なつが俺を拒否する理由…
俺を嫌いになった?
いふさんに何か吹き込まれたか?
だが
俺に背を向けて沈黙を貫いている彼を凝視する
そんな感じはしないんだよな
寧(むし)ろ
俺に負い目を感じているような
___負い目
いるま
ピンときた
まるで雷にでも打たれたかのように
俺は彼の言動の理由を
唐突に理解した
俺はゴクリと息を呑み
高ぶった彼の精神を崩壊させないよう
細心の注意をはらいながら
たった一言
言葉を発した
いるま
もうそろそろ
彼も気付き始めただろう
千年以上昔
俺たちはこの研究所で出会い
一度死んだこと
転生して
俺と再会したこと
そして
この「転生」という現象は
一度ではなく
何度も繰り返されているということに
一度目の人生
俺は
二十歳になる前日に死んだ
原因は不明
最後の記憶は
暇なつという名の相棒と共に
謎の部屋に閉じ込められた
という
どうにもよく分からないものだった
二度目の人生
一度目とは違い
いたって平凡な家庭に生まれ育った
物心ついた頃には既に
前世の記憶を持っていた俺は
周りから“神童”として崇められ
将来を期待されていた
そんな矢先に死んだ
十九歳だった
三度目の人生
育った場所は教会だった
孤児だったらしい
教会の中央の女神像に祈りを捧げ続ける
代わり映えのない退屈な日々
一度目の人生で出会った相棒は
今どうしているのだろう
そんな事を考え始めたのは
確かこの頃だ
彼のことを思い出して物思いにふけるときが
俺が唯一心安らげる時間だった
十九歳のある日
朝の祈りを済ませ
いつものように教会の清掃をしていた俺は
教会に忍び込んだ賊に
銃で撃たれて死んだ
避けたはずの弾丸が
俺を追尾するように曲がったのは
俺の見間違いだったのだろうか
四度目の人生
俺は流石に怪しみだした
生まれては死に
生まれては死に
延々と繰り返されるであろう転生
前世と全く同じこの姿形、力
どの人生も享年十九
命日は如月の十九日
誕生日前夜
皆そうなのかとも考えたが
俺の周囲に
転生者らしき者はいなかった
明らかにおかしい
俺はこのおかしな現象が
一度目の人生で受けた実験の影響ではないかと 勘ぐり始めた
今までの経験から
どの人生でも
生まれてくる世界が同じであることは把握済みだ
つまり
あの研究所も
この世界の何処かにある
そう確信した俺は
生まれた家を捨て
あの場所と そこで行われていた実験に関する情報の
収集を始めた
警備兵
警備兵
いるま
やばい
やらかした
四度目の人生
十九歳の二月十九日
時刻は23時を回っていた
時間がない
あと一時間足らずで
この人生が終わってしまう
そんな焦燥感に駆られた俺は
情報を少しでも多く集めて
来世へと繋げるべく
「監獄」とも呼ばれる
世界屈指のセキュリティを誇るの帝国資料館に 忍び込んでいた
がしかし
流石と言うべきか
その強固なセキュリティに
歯も立たなかった
それどころか
警備システムに引っ掛かり
数十、いや
数百の警備兵に追われる身となってしまった
だが俺は決して
やわではない
一度目の人生で身体を改造されまくった
人間兵器だ
並みの兵など
息をするように殺せる
だが
多すぎんだろ……
蠅のごとく次から次から湧いて出てくる警備兵
元人間兵器と言えど
底なしの体力があるわけではない
俺は隙を見て逃げ出し
一度影に身を潜めることにした
いるま
誰もいない保管庫に
己の呼吸音だけが響く
いるま
これで
少し休める
俺は壁に背を預け
深く息を吐いた
……ん?
不意に
右耳が熱くなっている気がした俺は
……なんだ?
不思議に思い、そっと右耳に触れた
途端に
どろっとした感触を覚える
いるま
状況を瞬時に理解した俺は
瞬きの間に左横へと跳躍した
直後
先ほどまで寄りかかっていた分厚い壁が
跡形もなく崩れ去る
魔法で攻撃されたのだ
敵襲だ
だが
っし!チャンス!
俺は内心ガッツポーズをしていた
数m先も見えないこの暗闇の中で
敵は魔法を放ち
自分の居場所を教えてくれたのだ
なんと親切なことか
もらった!!
俺は敵の背後を取り
跳躍
重力を利用して愛剣を振りかざす
しかし
「ガキィィン!!」
[ ]
いるま
俺の行動は全て読まれていたようだ
振り向いた敵は落下する俺を見上げ
無詠唱でシールドを張る
いるま
愛剣とシールドが勢いよくぶつかった影響で 発生した衝撃波が
敵の深く被ったフードを飛ばし
重いダークブロンドの前髪を揺らした
いるま
敵の素顔に
俺は目を剥く
敵はそんな俺の隙をついて
いつの間にか発現させていた魔法陣から 赤黒い蔓(つる)を出現させ
俺に突きつける
まるで槍のようだ
いるま
間一髪で回避した俺は
再び矛先を敵へと向ける
相対する敵と俺
いるま
やっとのことで絞り出した声は
とてもか細かった
いるま
震えを必死に抑えながら
俺は口調を荒げる
いるま
いるま
なつ!!!