盲目

目が見えない羽京様 聴覚だより 生活にも弓にも支障なし

ずっと盲目バージョン 穏やかな陽光が石神村の木々を照らし、鳥のさえずりが心地よく響く昼下がり。宝島での激闘を終え、村にはようやく平穏な時間が戻っていた。羽京は、研ぎ澄まされた聴覚を頼りに、村の中を物音一つ立てずに歩いていた。風の音、川のせせらぎ、遠くで聞こえる槌の音。それら全てが、彼にとっては鮮やかな風景を描き出す。 「羽京、今日の魚は上出来だったぜ」 背後から聞こえたのは、漁から戻ったクロムの元気な声。羽京は音のする方へ顔を向け、にこりと微笑んだ。 「ああ、ありがとう。夕餉が楽しみだよ」 ずっと盲目だった羽京にとって、音は世界を知るための全てだった。幼い頃から鍛えられた聴力は、常人には到底及ばないほど繊細で、わずかな音の違いから周囲の状況を正確に把握することができた。それは、弓の腕にも全く支障をきたすことはなかった。風の向き、獲物の気配、仲間の位置。全ては音を通して彼の脳内に鮮明な映像として映し出される。 そんな日常の中で、ゲンだけが羽京のわずかな変化に気づき始めていた。 「ねえ、羽京ちゃん」 夕食の準備を手伝いながら、ゲンは声をかけた。 「最近、少し聞き返しが多くないかい？気のせいかな？」 羽京は一瞬、動きを止めた。「そうかな？特に変わりはないと思うけど」 ゲンは訝しんだ。普段の羽京は、ゲンが小声で呟いたことさえ聞き逃さないほど耳が良い。それが、ここ数日、何度か聞き返すことがあった。疲れているだけだろうか、とゲンは思ったが、何かが引っかかっていた。 数日後、異変はより顕著になった。村の子供たちが騒ぐ声が、以前よりもぼやけて聞こえる。鳥のさえずりも、どこか遠くに感じる。羽京は、自分が置かれている状況に、漠然とした不安を覚え始めていた。 ある日、羽京はゲンに頼んで、少し離れた場所にいるコハクを呼んでもらった。コハクの足音は特徴的で、普段ならすぐに聞き分けられるはずだった。しかし、その日の羽京には、コハクが近づいてくる足音が、まるで遠雷のようにしか聞こえなかった。 「コハク、ここにいるのか？」 羽京の声には、わずかな焦りが滲んでいた。コハクは心配そうな表情で羽京の顔を覗き込んだ。「ええ、すぐそこにいるわよ、羽京。どうしたの？」 その時、羽京は悟った。自分の耳が、以前のように機能していない。疲労のせいではない。何かが、確実に彼の聴力を蝕んでいる。 その夜、羽京は一人、静かな森の中に身を置いていた。木々の葉が擦れる音、虫の羽音、遠くを流れる川の音。普段は鮮明に聞こえるはずの音たちが、今はぼやけ、遠く、そして曖昧にしか感じられない。 （このままでは……） 聴覚を失うことは、彼にとって視力を失うことと同じだった。いや、それ以上に、生きていく上で欠かせない、世界との繋がりを断たれることを意味した。弓を引くことも、仲間との連携も、全てが困難になる。 翌朝、羽京は石神村の皆に、自分の身に起こっている異変を打ち明けた。突然の告白に、村人たちは驚きを隠せない。科学の知識を持つ千空でさえ、原因を特定することは容易ではなかった。 「疲労による一時的なもの、という可能性も捨てきれないが……念のため、色々と調べてみる必要があるな」 千空はそう言うと、ゲンやクロムたちと共に、考えられる限りの原因を探し始めた。過去の病歴、宝島での出来事、村の環境……あらゆる可能性が検討された。 その間も、羽京の聴力は徐々に低下していった。今まで頼りにしてきた音が、どんどん遠ざかっていく。不安と焦燥が、彼の心を蝕んでいく。それでも羽京は、気丈に振る舞おうと努めた。仲間の心配をかけたくなかったし、何よりも、諦めたくなかった。 千空たちの懸命な調査の結果、一つの可能性が浮上した。宝島で遭遇した毒ガスに含まれていた成分が、微量ながら羽京の体内に残留し、徐々に神経系統に影響を与えているのではないか、というものだった。それは、視覚ではなく、聴覚神経に特異的に作用する、非常に稀なケースだった。 原因が判明したものの、治療法は簡単には見つからなかった。石神村には、高度な医療設備も、それを扱う知識も不足している。千空は、かつて文明世界で使われていた薬や治療法に関する知識を総動員し、ゲンと共に、村にあるもので何とか治療法を探ろうと奔走した。 羽京は、焦燥感を抱えながらも、千空たちの努力を信じて待つしかなかった。聴力が失われていく中で、彼は残された感覚を研ぎ澄ませようと努めた。風の肌触り、大地の匂い、光の強弱。今まで意識していなかった感覚が、少しずつ彼の世界を形作り始めた。 そんなある日、ゲンが興奮した様子で羽京のもとに駆け寄ってきた。「羽京ちゃん！手がかりが見つかったかもしれない！」 千空が、古代の文献の中に、似たような症状を治療したという記述を発見したのだ。それは、特殊な植物の根を煎じて飲むという、原始的な方法だったが、藁にもすがる思いで、千空たちはその植物を探し始めた。 村人総出での探索の末、ついにその植物は発見された。千空とゲンは、慎重に根を採取し、煎じて羽京に飲ませた。苦い液体が喉を通る。効果があるかどうかは、誰にも分からなかった。 数日が経ち、羽京の聴力は依然として低下し続けていた。希望が見えかけただけに、村には重い空気が漂い始めた。そんな中、羽京は一人、弓を手にした。ほとんど聞こえない音を頼りに、的に向かって矢を放つ。かつては百発百中だった矢は、大きく的を外れた。 それでも羽京は、諦めなかった。かすかに聞こえる風の音、矢が飛ぶわずかな音。それらを頼りに、何度も何度も弓を引いた。仲間の声援も、今はほとんど聞き取れない。それでも、彼はただひたすらに、感覚を研ぎ澄ませ、弓と向き合った。 そして、数週間後。奇跡が起こった。 ほんのわずかだが、音が聞こえるようになったのだ。最初は小さな囁き声のようなものだったが、日を追うごとに、その音は少しずつ大きくなっていった。 完全に元の聴力に戻るには、まだ時間がかかるだろう。それでも、羽京は再び音の世界と繋がることができた。それは、彼にとって何よりも大きな喜びだった。 「聞こえる……みんなの声が、聞こえる！」 羽京の言葉に、村人たちの顔にも笑顔が戻った。千空は安堵の息をつき、ゲンは涙を拭った。コハクは力強く羽京の背中を叩いた。 この経験を通して、羽京は改めて、仲間たちの温かさと、諦めないことの大切さを知った。そして、たとえ聴力を失いかけても、他の感覚を研ぎ澄ませることで、人は生きていくことができるということを、自らの身をもって示したのだった。 一時的な静寂を乗り越え、石神村には再び、活気のある日常が戻ってきた。羽京は、まだ完全ではない聴覚を頼りに、再び弓を取り、村を守るためにその力を振るう。彼の耳には、以前よりも少しだけ静かな世界が広がっている。しかし、その静けさの中で、彼はより深く、仲間の声に耳を傾けるのだった。そして、いつか完全に聴力が戻る日を信じて、彼は前を向いて歩き続けるだろう。仲間たちと共に。

突然盲目バージョン 宝島から戻り、石神村にようやく穏やかな日々が訪れていた。木漏れ日が優しく大地を照らし、川のせせらぎが静かに響く。そんな中、羽京はいつものように、研ぎ澄まされた聴覚を頼りに村の中を歩いていた。鳥の羽ばたく音、風に揺れる葉の音、遠くで聞こえる槌の音。それらは全て、長年彼の世界を形作ってきた大切な情報だった。 その日の朝、異変は突然訪れた。目を覚ますと、目の前が真っ暗だったのだ。 「……っ！？」 焦燥感に駆られ、何度も瞬きをするが、見えるのは漆黒の闇だけ。昨夜までは確かに見えていた。一体何が起こったのか、羽京は理解することができなかった。 「羽京、どうかしたか？」 異変に気づいたコハクが、心配そうな声をかけた。羽京は声のする方へ顔を向けたが、彼女の姿を捉えることはできない。 「見えないんだ……何も」 羽京の震える声に、コハクは息を呑んだ。村に衝撃が走ったのは言うまでもない。冷静な千空でさえ、突然の失明という事態に眉をひそめた。 「原因は……全く見当もつかないな。外傷もない。病気か？」 考えられる限りの可能性を探る千空だったが、心当たりはなかった。羽京自身も、特に体調が悪かったという自覚はなかった。 そんな中、ゲンが何か思い当たったように口を開いた。「もしかしたら……ストレスじゃないかな？」 皆がゲンに注目した。 「宝島での戦いは、想像以上に羽京ちゃんに負担をかけていたのかもしれない。普段は冷静に見えるけど、張り詰めていた糸が、ふとした瞬間に切れた、みたいな……」 ゲンの言葉に、村人たちはハッとした。確かに、宝島では常に危険と隣り合わせだった。特に、視覚を奪われた状況での戦いは、羽京にとって想像を絶するプレッシャーだっただろう。 千空はゲンの推測に一理あると考えた。「ありえなくはない。心因性の視覚障害、という可能性も考慮に入れるべきだな」 しかし、心因性のものだとしても、治療法は簡単ではない。石神村には、精神的なケアができる専門家はいない。皆が困り果てていた時、ゲンが再び口を開いた。 「僕に、少し考えがあるんだ」 ゲンの提案は、意外なものだった。それは、羽京のストレスの原因となったであろう状況を、少しずつ和らげていく、というものだった。具体的には、彼が安心して過ごせるように、村の音環境を整え、常に誰かがそばにいるようにすること。そして、彼の得意な聴覚を活かせるような役割を見つけることだった。 最初は半信半疑だった村人たちも、ゲンの真剣な様子を見て、協力することにした。クロムは、羽京のために、音の反響が良い場所や、危険な場所を丁寧に説明して回った。スイカは、羽京の足元に落ちている小さな石ころを拾い集めた。コハクは、常に羽京のそばにいて、彼の「目」となった。 そしてゲンは、羽京と積極的にコミュニケーションを取った。他愛ない世間話から、宝島での思い出話まで、様々な話題を振っては、羽京の言葉に耳を傾けた。彼は、羽京が抱える不安や恐怖を、少しでも和らげようと努めた。 「ねえ、羽京ちゃん。あの時、敵の船の動きを音だけで完璧に把握していたのは、本当にすごかったよね」 ゲンの言葉に、羽京はかすかに微笑んだ。「あれは、必死だったからな」 「でも、本当に頼りになったんだ。羽京ちゃんの耳がなかったら、もっと苦戦していたかもしれない」 ゲンは、過去の功績を具体的に褒めることで、羽京の自信を取り戻そうとした。また、彼は、羽京の聴覚を活かした新しい役割を提案した。それは、村の周囲の警戒であり、わずかな異変を音で察知するというものだった。 最初は戸惑っていた羽京も、ゲンや仲間たちの支えによって、少しずつ前向きになっていった。目が見えなくても、自分にはまだできることがある。得意な聴覚を活かして、村の役に立てる。そう思うことで、彼は心を少しずつ取り戻していった。 数週間が経ち、村全体の温かいサポートが続く中、ある変化が訪れた。ふとした瞬間に、羽京の目に、ほんの一筋の光が差し込んだのだ。 「……っ！？」 彼は信じられない思いで目を凝らした。それは、ぼやけていて、色も形も定かではない、微かな光だった。それでも、闇の中に現れた希望の光は、彼の心を強く揺さぶった。 ゲンは、その変化に誰よりも早く気づいた。「羽京ちゃん！何か見えるの！？」 羽京は震える声で答えた。「ああ……ほんの少しだけ、光が……」 それからというもの、羽京の視力は少しづつ回復していった。最初は光を感じる程度だったのが、徐々に物の輪郭がぼやけて見えるようになり、やがて、色も認識できるようになった。 完全に元の視力に戻るまでには、さらに時間がかかったが、羽京は希望を失わなかった。ゲンをはじめとする仲間たちの励ましと、彼自身の前向きな気持ちが、奇跡を引き起こしたのだ。 そしてついに、羽京は再び、鮮やかな世界を取り戻した。目に映る緑、空の青さ、仲間たちの笑顔。失って初めて気づいた、光の美しさが、彼の胸に深く染み渡った。 「ゲン、ありがとう。みんな、本当にありがとう」 羽京は、心からの感謝の言葉を述べた。彼の視力を取り戻す鍵となったのは、ゲンの鋭い洞察力と、温かいサポートだった。ストレスという目に見えない原因に気づき、それを和らげるための具体的な行動を起こしたゲンの存在は、羽京にとって何よりも大きかった。 この経験を通して、羽京は、目が見えなくても生きていく強さと、仲間の支えの大切さを改めて学んだ。そして、ゲンとの絆は、より一層深まった。 再び見えるようになった世界で、羽京は以前と変わらず、弓を手に取り、村を守るためにその力を振るう。彼の瞳には、以前よりも鮮やかな色彩が映り、その眼差しは、未来への希望に満ち溢れていた。石神村には、再び、いつもの活気が戻り、羽京の視力回復を祝う、温かい笑顔が溢れていた。

START

さぁ物語を始めよう

突然どうしたんだと思うだろうが

聞いてほしい

普通の物語では途中に分岐点があるだろう

しかしこの物語では

分岐点がはじめにあるのだ

なので君たちにはどちらを選ぶか決めてほしい

あぁすまない選択肢を提示していなかったな

しかしここで言ってしまうのは私の信念に反する

どうしたものか

私は数分悩んだ後に一つの答えを出した

両方見てもらおうと

もちろん嫌なら飛ばしてくれても構わない

分岐点があればこの画面になるだろう

だが読んでくれると言うならこのまま進んでくれ

私としてはぜひとも２つの物語を楽しんでほしい

てば1つ目の分岐点へいってらっしゃい