蓮
やっと終わった、と事務作業でガチガチになった首と肩を回しながら自転車に乗る
時刻は19時。
すっかり暗くなってしまった夜空の下を走って。
もうちょっと厚着してくれば良かったな、なんて寒さに耐えながら朝の自分をちょっと恨めしく思う。
ガチャン、とチャリを停めて。
寒い寒いと思いながらカンカンと金属音のうるさい階段を登れば
亮平
亮平
ダウンジャケットに身を包みながら自分の部屋の前で体育座りをして縮こまっている阿部さんの姿があった。
なんでこんな所に、と思ったけど、そういえば朝俺が鍵を盗ったのを思い出す。
蓮
蓮
亮平
『鍵無くしてしまったんです』と赤く染った頬をキュッとあげて俺に笑いかけてくる
ほらまた。
胸が苦しくなった。
蓮
亮平
はは、と阿部さんが笑えば、その息が白くなって消える。
こんな仕打ちをしたのは俺だけど、どこか可哀想に思えてきて、それでいて、
ものすごく綺麗にも見える。
おかしいのは分かってる。
でもこれは止められない。
蓮
蓮
亮平
亮平
亮平
蓮
亮平
へへ、と阿部さんは笑うと、くしゅん、と可愛いくしゃみをして『すいません笑』と笑顔を向けてくる。
「ちょ、大丈夫っすか?」と心配するフリをしつつも、こうなる事までは全部計算。
まぁこうも上手くいくとは思ってなかったけど。
亮平
蓮
阿部さんはゴソゴソとダウンジャケットの中を漁ると、20センチほどの小さなダンボール箱を出してきた。
ジャケットの中から出てきた事に驚きつつも、じんわりと暖かいそれを受け取れば、
『配達のお兄さんが届けに来てたので代わりに受け取っておきました』と当たり前のように言う。
蓮
亮平
蓮
ぺこりと頭を下げれば『いえいえ』と微笑まれる。
そしてまた、くしゅんとくしゃみをして。
『うー、』とくしゃみの余韻に浸りながら、赤くなった鼻先を擦る。
蓮
亮平
蓮
朝から用意しておいたセリフ。
なのにドキドキしてしまって、
どうにも口が動かない。
モゴモゴと恥ずかしそうに口を動かす俺を見て頭にはてなマークを浮かべる阿部さん。
大丈夫だ。喋るんだ俺。
と、自分に喝を入れて。
蓮
蓮
蓮
断られたら終わりだ。
その時はまた別の言葉を考えよう。思いつつ阿部さんの顔を伺ってみれば、
キョトンとしていた表情が、緩んだように笑顔に変わって。
亮平
なんて。
本当にこの人は、
俺をどこまで狂わせれば気が済むのか。