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この世界で根付く意識もなく

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この世界で根付く意識もなく

10 - ウシミツ・アワー「……………………?」目を覚ました。何か夢を見た気がするが、思い出せない。なん

♥

36

2022年11月23日

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ひまり

ウシミツ・アワー
「……………………?」
目を覚ました。何か夢を見た気がするが、思い出せない。なんだか身体が重たいし、頭も痛い。なんだろう、風邪でも引いたかな? 寝起き特有のぼんやりとした思考のまま、僕はゆっくりとベッドから降りる。床に足を付けた途端、まるで地面が揺れているかのように平衡感覚が崩れてしまった。ふらついた拍子に壁へとぶつかる。
「いったぁ……」
じんわりと涙を浮かべながら、ぶつけた額をさすった。どうにも頭がはっきりしない。何があったんだっけ……。
「そうだ、確か昨日は遅くまでゲームしててそれで……」
そこまで考えて、ハッと思い出す。そうだ、僕たちはあの怪物に襲われて! 慌てて辺りを見回せば、そこは見慣れた僕の部屋だった。特に壊れたりとかそういう様子もなく、無事なようだ。よかった、みんな無事に逃げ切れたのか。
そう安堵したところで、ようやく自分の置かれている状況を認識し始めた。同時に、自分が何も着ていないことに気づく。ああ、そっか。服が破れちゃって裸になってたんだった。
「うーん、これじゃあ外に出られないよ」
いくら夏とはいえ、さすがに全裸で外に出るわけにはいかない。仕方ないのでとりあえずクローゼットから適当に見繕おうと思ったけど、やっぱりサイズが合わないみたいだ。
「困ったなぁ、もういっそこのままでいいか」
別にこのままでも構わないよね。幸い誰もいないし、ちょっと恥ずかしいだけで済む話だし。それにしても、本当に身体が重い。なんか変なもの食べたっけ? そんなことを考えつつ、僕は服を着ようと手を伸ばす。すると、そこにあったのは

ひまり

シフォニデス・ヘルシング率いる「組織」は、20年前、突如現れた「死の抽出」の概念を元に、世界中へと拡散していった。表向きには、人類の健康増進のためと銘打って。裏向きには、人類社会の転覆を目指して。
シフォニデス・ヘルシングは、組織の長たる者として、己の理念に従い、世界を改革せんとした。彼は、ただ死を恐れていた。
「君たちが

ひまり

至福のの死を望む裏社会に そして、今ここに1人の男がいる。彼は、己の肉体に流れる血を糧とし、不死の身体を得る。それは同時に、彼が最も忌み嫌う不死性の獲得でもある。
彼の名は、アルヴィン・ハイネマン。不死の身体を得た元傭兵の男だ。彼は、己の宿命を果たすため、そして何よりも大切なものを守るために、戦いに赴く
―――
「おーい!そっち行ったぞ!」
「任せろ!」
「……っ!?」
俺の言葉と同時に、俺は素早く身を翻し、声の主の方へと走る。直後、背後から凄まじい風切り音が聞こえてきたかと思うと、先程まで俺のいた場所に巨大な鉄塊が落下してきた。
「よし!これで3体目!」
「流石です、アルヴィンさん!」
「いやぁ、大したことじゃないよ。それより、早く次のポイントに向かおう」
そう言って俺は、目の前にいる仲間達と一緒に走り出す。

ひまり

雷鳴のように轟く銃声が響いた。1発ではない。数十発の銃弾が続けざまに撃ち出され、着弾地点から半径100m以内の全ての人間が絶命していた。その中心にいたはずの男は、血煙すら残さずに消え失せていた。
「お見事です」
男の背後で女の声が聞こえた。男を殺した女だ。
「いえ、まだですよ。こいつらはもうすぐ動き出す」
「ええ、そうですね」
女の視線の先には、今まさに息絶えたはずの一団があった。しかし、その死体たちはむくりと起き上がり、まるで何事もなかったかのように歩き始めた。
「やはり、あなたに依頼して正解だったようね。私の見立て通り」
「買いかぶり過ぎですよ」
「あら、謙遜しなくていいのよ? 貴方の腕は私が一番よく知ってるもの」
「お褒めいただき光栄です」
「ふふっ、それで……?」
「はい?」
「今日は何をお求めかしら?」
「ああ、そうですねえ……」
ここは、都市国家ガレリアに存在する、巨大なショッピングモール。そこの一角を占める武器屋の前で、二人の男が話していた。一人は青年と呼べる年頃の男だ。やや長めの黒髪に整った顔立ちをしており、背も高い。もう一人は壮年の男のようだ。顎髭を蓄え、目付きこそ鋭いものの、柔和な笑みを浮かべている。
「ではいつも通り、拳銃を一丁お願いします」
「かしこまりました」
壮年の男は軽く頭を下げて店の奥へと消えていく。残された青年は店内を見て回りながら待っていた。
(相変わらず、趣味の悪い品揃えだよなぁ……)
薄暗い店内で、青年はため息をつく。
彼がいるのは、この国で最も治安が悪いとされる区画、通称「モザイク街」だ。
モザイク街の片隅に位置する、古びた雑貨店。
そこは彼にとって馴染みの場所だった。
店の主人は口数こそ少ないものの、物知りな老人である。彼はここで様々な知識を得てきた。
例えば、この国の成り立ちについてとか―――
「おう、今日も来たのか」
カウンターの奥から、店主が現れる。白髪交じりの初老の男性。いつものように椅子に座って本を読んでいたらしい。
「はい、今日も来ましたよっと……えーと、あの本は?」
「あれか?もう読んだぞ」
「早っ!?まだ俺読み始めたばっかですよ!」
「ワシはこれでも歳食っておるからのぅ」
そう言って、店主はカラカラと笑う。
だが、青年にとってはまだ納得がいかなかったようだ。
「いやいや、いくらなんでも早くないですかね……」
「まあ、お前さんもその内分かるじゃろうて」
「そんなもんすかね……」
釈然としない様子の青年だったが、店主はそれきり黙ってしまった。
諦めたように肩を落とし、カバンの中から一冊の本を取り出す。
「それでですね、今回はこの本なんですけど」
「ふむ、どれどれ」
差し出された本を受け取って、表紙に書かれた題名を読む。
「『死とは何か』……また随分と小難しいのを選んだのう」
「面白いんですよ!これ」
「まあいいかの。ほれ、こっちにこい」
手招きをする店主に従い、裏社会の人間は次々とその手に握った。そして皆一様に死んだ。だが、それこそが彼らの狙いだった。死にたくない人々が死ぬことを望むようになったとき、世界は大きく動き出す。その混乱に乗じて、彼らはさらなる一歩を踏み出そうとしていた……。
◆◆◆◆◆
「あー、クソッ!またハズレかよ!」
苛立たしげな声とともに、男は手の中のカプセルを投げ捨てた。薄暗い路地の奥、人目を避けるように設置されたゴミ箱の前での出来事だ。
「いらねえって言ってんだろ!?何度言えばわかるんだよ!」
男がそう叫んだ途端、ゴミ箱の中から無数の腕が伸びて、男の手を掴んだ。まるで蛇のように絡み付くそれを振りほどこうともがく男の背後から、今度は黒い影が現れた。

ひまり

駆け抜け
ろ! 俺達のバイク!!
―――――――
バイクに乗りたい、そう思ったことはないか?俺はあった。だが現実は非情だ。
免許の取得にも金がかかるし、そもそも高校生の身分じゃ車ですら持てねぇよなぁ…………って思ってたらある日突然届いたんだ。「これに乗って青春しろ!」っていう手紙と一緒にさ。んで試乗してみたら超楽しいんだよこれが。最高だよマジで。しかもこのバイク、自動操縦付きなんだぜ!?凄くね? そんなわけで今俺はこうしてバイク通学をしている訳なのだが、今日はいつもと違うことが一つあった。
「おっす陽介」
「おう、おはよーさん!」
「おはようございます……」
「どうした?元気ねェな?」
朝っぱらから大きな声を出して挨拶してくる男に、俺は小さく頭を下げながら応えた。男は俺の反応を見てか、不思議そうにしている。
「いやぁ……昨日ちょっと遅くまで勉強してたんすよね……」
「ほぉ〜ん!偉いなァお前!!んじゃ今日くらい奢ってやるよ!」
「いいんスか!?あざっす!!」
「おうともさ!好きなもん頼め!」
「じゃあ……俺、肉食いたいッス!!」
「おっけーだぜェ!ステーキ食うか??」
「もちろんッス!!」
「いい返事だなぁオイ!よしきた!」
そう言って先輩はカウンターへと向かい、店員さんに注文を始めた
「えぇっとォ……おっちゃん!ステーキセット二人前ね!」
「あいよぉー!しっかしおめさんら学生かぁ?よく食うなあ」
「いや〜実は昨日から何も食べてなくてさ〜」
「そりゃ大変だなァ!ほれ、焼き立てのパンもあるぜ?」
「まじっすか!?あざす!」
「ありがとうございます」
「おうよ!しっかり勉強してきな!!」
「はいっ!!じゃあおっちゃんまた来るね!」
「はいよぉ!ありがとよぉ!!」
そう言って店を後にしたのは、金髪碧眼の少女と黒髪赤目の少年だった。二人は楽しげに会話をしながら店を出て行った。それを見送る店主の顔には笑顔が浮かんでいたが、ふと何かを思い出したようにカウンター裏へと入っていった。
「……やっぱり、あの子達は"あれ"を知らないのか」

ひまり

呟くような声だった。それを聞いているものは誰もいなかったし、もし聞いていたとしても、何を意味しているのか理解できなかっただろう。それほど小さな声で、あまりに微かな音だ。だが、確かに聞こえていた。まるで、誰かの心臓の音のように――
あるいは、血流のような……

『おめでとうございます』
その日、世界で一番幸せそうな顔をして眠る男の顔の上に、そんな文字が現れた。
突然目の前に現れたそれを認識した直後、彼は眠気が吹き飛んだように目を覚ました。
「なんだこれ? 夢か?」
男はそう言って自分の頬をつねった。すると今度は、先ほどと同じように文字が現れる。
『あなたはこの世界でたった1人の人間です』
『この世界にはもうあなたの代わりはいません』
『どうか大切にしてあげてくださいね?』
そんなメッセージを残して消えた母の言葉を思い出しながら、少年は目の前の少女の手を取った。
―――少女の名はナオミ・タカツキ。彼は、彼女のことをよく知っているつもりだった。
だが、今となってはその思い上がりを思い知らされていた。
(……何だこれ?)
彼の手の中に在るのは小さな小瓶だった。中には紅い何かが入っている。これが先ほどから繰り返し頭の中で響いている声の正体なのだろう。
「どうせ死ぬなら、今死んでも同じだろ?」
そう言って命を投げ出す裏社会の人間が。
「死にたくない!まだやりたいことがたくさんあったんだ!」
と泣き叫ぶ表社会の人間がいることを嘲笑うように、彼らは次々と死の抽入を受けた。
ゼーバッハの中央研究所は瞬く間に大企業となり、裏社会にも浸透していった。
「死を克服せよ」
これがスローガンとなった2030年代、多くの人間がそれに従った。
死を恐れなくなった人々による犯罪が横行し始めた頃、人々はこう言った。
「もっと強い力が欲しい」
力とはなにか? 例えば、拳銃だったり。
例えば、戦車だったり。
例えば、核ミサイルだったり。
そんなものはいらなかった。
人々が求めたのは、絶対的な暴力の力。
それから世界は急速に変貌を始めた。
まず、警察組織の崩壊が始まった。警察は武装し、殺人を犯し、強盗を繰り返した。
次に、軍の解体が行われた。軍隊は傭兵となって犯罪者と戦った。
最後に、法の整備が進んだ。
「武器の製造」「使用」についてのみ制限された法律は、「殺傷能力のある兵器の開発」を大義名分に、あらゆる研究を可能にした。
こうして出来上がったのが、今の日本である。
東京近郊に位置する都市、東雲市。
人口は100万人程で、東京都のやや

ひまり

風の町。そう呼ばれる地域がある。風通しの良い町並みを持つこの町には、小さな診療所があった。その診療所の院長を務める男が、今日も患者を待つ。
「おーい、ドクター! また来たぞ!」
「どうもこんにちは。さあ、診察室においでくださいな」
待合室にいる女性に声をかけられて、男は柔和な笑みを浮かべながら立ち上がった。白衣を羽織って部屋を出ると、男の後についていくように、女性がついてくる。
「いつもありがとうございますね。あなたのおかげで、私はとても助かっておりますよ」
「何言ってんだよ。私はただ、あんたが治療してくれてる間に、あの子を眺めて楽しんでるだけだよ。」
「ああそうかい、じゃあ好きにしろよ。」
「そうさせて貰うさ。」
「なぁ……俺は、お前らの言う通り、馬鹿なのか?」
「そんなこと俺らが知るかよ。ま、一つ言えることは、少なくとも今ここで生きてるのは、馬鹿じゃないってことだろ? それだけだ。」
「そうだな。俺が死んだらお前が俺の分まで幸せになれよ」
「そんな事言わないで!私を置いていかないで!」
泣き叫ぶ女の声だけが聞こえる。男はもう目を開くことも口を動かすことさえもできない。だが不思議と意識だけははっきりしていた。これは夢だ。そうに違いない。だってこんなにも苦しくて悲しいなんてあり得ないじゃないか。
男の名前は佐藤浩介。どこにでもいる普通のサラリーマンだった。いや、だったと言うべきか。ついさっきまで彼は営業マンとして働いていた。それも大手ゼネコンの営業マンだ。今日も得意先の接待ゴルフを終えたところまでは覚えている。しかしそこからの記憶がない。恐らく飲酒運転か居眠り運転のどちらかだろう。どちらにせよ彼の人生はこれで終わるようだ。
(くそっ、何が悲しくて死ぬんだ?まだやりたい事がたくさんあったっていうのに・・・ちくしょう)
涙を流す彼女に何もしてあげられなかった俺は、自分の無力さに唇を噛むしかなかった。
―――俺の名前は大空大地……いや、違うな。もうこの名前で呼ばれることは無いだろうし、自分で名乗ることも無いか。

ひまり

俺は死んだんだ。ついさっきまで地球って星に住んでたけど、今は天国とか地獄に行く前に魂を休める空間にいるらしい。ここどこなんだろう? それにしても綺麗だなぁ。目の前に広がる大きな湖とその周りを囲むように生えた草花。こんな場所があったなんて知らなかったよ。まあ死んで初めて知ったんだけどね! それじゃあさっそく探索してみようかな……あれ? 体が動かないぞ!? 嘘だろ!? 俺ここで死ぬのかよ!! まだやりたいことたくさんあったのに! 神様助けて下さい! お願いします!
「あなた大丈夫?」
うおっビックリしたー。いきなり声をかけられたら誰でも驚くよね。えっと、誰ですか? 見た感じ天使様じゃないみたいだけど。
「私は女神です!」
め、女神様だってぇ〜

ひまり

楽な死に方を望む裏社会に その二つを結びつける秘密結社に その全てを巻き込む大戦の始まりだった。
『さぁ! 今宵も始まりました【終末ゲーム】!』
暗い部屋の中に声だけが響く。そこには誰もいないし何も見えない。ただ1つ言えることは、ここにいる者は皆、何かしらの目的を持って集まっていることだろうということだ。
『今回の参加者は全部で5名! なんとも少数精鋭ですね』
声の主は続ける。
『それでは早速ルール説明です! 皆さんはこれから様々な困難を乗り越えなければなりません。その過程で死んでしまったら失格となります。もちろん殺し合いもありですよ?』
部屋のあちこちから息を飲む音が聞こえる。無理もない、ここは人を殺し合うための場なのだから。
『それと、このゲームには3つのゴールが用意されています。一つは全員の死、もう一つは主催者の殺害、最後は生き残りの数によるクリアボーナスですね。どれも簡単ではありませんよ? 頑張ってくださいね〜』
再び静寂が訪れる。しかしそれも束の間、すぐに怒号のような叫び声で埋め尽くされた。
「ふざけんな!! 俺はこんなことするために生まれてきたんじゃねぇぞ!」
「そうだ! お前らはいつも俺たちのことを馬鹿にしやがって……! そんな奴らの思い通りになってたまるかよ!」
「そうよ! 私たちの苦しみを思い知らせてやるんだから!」
怒りの声が上がる。中には泣いている者もいた。当然の反応だろう。何せ彼らにとってこれは復讐の機会でもあるのだから。
『うーん、うるさいですねぇ。少し黙らせましょうか』
「「「あ"?」」」
「ひぃっ!?」
「な、何だこいつ!」
「いやあああ!助けてえぇ!!」
「待ってくれ!!俺は、俺は何も知らないんだ!!」
「ぎゃぁぁぁ!!!」
「死にたくない……死にたくねぇよぉぉおおお!!」
「殺してくれぇぇぇ!!!」
「なんなんだこいつはァッ!!?」
「くそったれめェッ!!化け物かよこいつはァアッ!!」
「クソォオッ!!こんなところで死んでたまるかアァァアアッ!!!」
「ギャハハッ!!いいぜェ?もっと泣き喚けよ。お前らの絶望の声は最高に心地良いからさァ」
「畜生……どうして俺たちが殺されなくちゃならないんだよ……」
「知るわけねえだろうが……。もうすぐ死ぬってのにそんなこと考えてられるなんて随分余裕じゃねーか」
「うるせぇぞ。今から殺される奴らが何を思おうが関係無い」
「ちげえよ!そいつらじゃねえって言ってんだろ!」
「あーもううるせぇな!いい加減諦めたらどうなんだ!?」
「だぁかぁらぁ、そっちの女だって!!」
「こっちも違ェっつってんだよ!しつけえんだよテメエらは!!」
「おめえらが紛らわしい格好してんのが悪いんじゃねーのか?アァン?」
「んだとコラ……やんのかオラァッ!!!」
「上等だゴラァ!!ぶっ殺―――」

ひまり

村の中、森の中、都市の中に、どこであろうと例外なく蔓延していた。
その事実は当然のように裏世界にも伝わり、人々は恐怖し、畏怖し、嫌悪した。
その日、ある青年はいつも通り目覚め、いつも通りに食事を摂っていた。彼の日常において食事とはただ腹を満たすためだけのものであり、それ以外の意味はなかった。味など気にしない。食べやすいように噛み砕くことさえ忘れてしまうほどだ。彼は食事を楽しむということを知らない。
そんな彼が今朝口にしたものはスープだった。それも具がほとんど入っていないような簡素なもので、味もほとんどしなかった。
それでも彼にとってはその程度のものは、極上の料理よりも遥かに価値のあるものだった。何故なら彼自身、それを食べ物と認識していなかったからだ。
ただ、栄養補給のための作業。それだけのものなのだ。
しかし今日ばかりは違った。普段ならば空っぽの胃袋を満たしてくれるはずのソレは、何故か全く満たされなかったのだ。
いくら飲み干しても、どれだけ咀しゃくしてみても、喉を通る感覚だけが残って肝心の中身がない。そんな経験をしたことはないだろうか?あれこそが死だ。飲んだそばから消えていくアレこそが死なのだ。
これは、死なずの人間が死に焦がれ、追い求める物語である。



「おめでとうございます。あなたは不老不死となりました」
目の前の女医はそう言った。不治の病だった癌を克服して半年後、病院からの帰り道のことだった。突然の雨に降られて逃げ込んだ路地裏

ひまり

の軒下でのこと。
「……なんですって?」
聞き間違いかと思い訊き返した私の前で女医はもう一度繰り返す。
「あなたの寿命です」
「そんなはずありません!」
思わず叫んでいた。声を聞きつけた通行人の視線を感じながら私は続ける。「だって、先生は私のこと健康だと言ってくれたじゃないですか! 今度こそ大丈夫だから、って。なのにどうして急にこんなことを言うんです? まだ治療が終わったばかりですよ!?」
「残念だけど」
感情のない声で女医は言う。
「もう限界よ。あなたに残された時間はあと1ヶ月程度ね」
「嘘つき」「詐欺師」「ペテン師」と呼ばれた彼らは、いつしかこう呼ばれるようになった。「殺人鬼」と 世界は今や死の恐怖に支配されている。それは誰もが知る事実だ。いつどこで誰が死ぬか分からない世の中となった。明日かもしれないし、一時間後かもしれない。そうして人々は今日も息をしている。
「いやぁ……凄まじいなこりゃあ」
目の前に広がる光景を見て、俺は思わず呟いた。
そこは俺がかつていた場所だ。俺は今まさにそこにいる。だが、俺にはもはや関係ない。ここはもう俺の世界ではない。ここはもう、あの頃の日本じゃないんだ。だから、俺のことなんか誰も知らないし気にしない。そう思っていた―――
***
「お兄ちゃん!起きて!」
「ん……ああ……おはよう……」
「早く支度してね?今日は入学式なんだから」
「はいよー」
間延びした声とともに、若い男が入ってくる。男はカウンターの向こうにいる店主に向かって軽く手を上げると、さっさと椅子を引いて座った。
「今日は何にする?」
「いつも通りだよ」
「はいはい……」
慣れた様子で注文をする男に、店主は肩をすくめると、カウンターの下からガラスの小瓶を取り出して男の目の前に置いた。小瓶の中では赤黒いどろりとしたものが揺れている。
「あんまり飲み過ぎるなよ?体に良くないぞ」

ひまり

スキル取得率表示

システム「スライムくん」
これは、2040年に発明された「脳波測定器」を用いた画期的なシステムである。これにより、人々は自身の持つスキルレベルを表示することが可能となった。
これによって、スキル習得の効率性の向上が可能となったわけだが……
「スライムくん」は、スキルレベルの上限解放のためだけに作られたものではない。むしろ、本来の用途は別にあった。
そう、スライムの乱獲である。
スライムとは、地球上に生息する軟体生物の一種である。その生態については殆ど分かっておらず、繁殖方法も不明だ。そのため、研究の対象となりやすい存在だった。
また、他の生物の死骸を取り込むことで増殖するという特性を持っているため、多くの学者の間では人類の天敵として扱われることもあった。
しかし、一部の研究者はスライムについてこう述べた。
「スライムには、進化の可能性が秘められている」
つまり、スライムの進化形態を探れば、何か新しい発見があるかもしれないということである。
そこで、当時ゼーバッハ中央製薬によって開発されたのが

ひまり

隠しスキルの多さ


裏社会、果ては軍まで巻き込んだ一大ムーブメントが巻き起こった。ゼーバッハ社は瞬く間に巨大企業となり、2045年には全世界への事業展開を果たした。人々は、これを神の業だと称し、ゼーバッハ社はその神の名を冠した社名となった。そしてその数年後、世界は死の渦に包まれることになる。
2046年1月31日、ゼーバッハ社の最高役員会は、本社のあるフランス・パリにて、全社員の前で重大な発表を行った。その内容は、ゼーバッハ社が、人類の救済のため、秘密裏に進めていたプロジェクトの成功の発表であった。その内容はこうだった。「人の死の先触れたる赤色光の発生メカニズムの解明に成功しました。これにより、我々は死者の復活を実現させます」つまり、人の死という概念を抽出し、そのエネルギーを利用して擬似的に死者を復活させるというものだった。
このプロジェクト自体は以前から存在してはいたものの、あまりにも非人道的な内容であるため、倫理委員会に幾度となく却下されていたものだった。
しかし、それをついに実現したというのだ。
これが発表された直後、世界は混乱に陥った。当然だろう。これまでは死んだら終わりという認識だったが、これからは違う。死んでも蘇るというのだから。だが、同時に喜びの声を上げる者もいた。今まで死を恐れてきた者たちは、これで安心できるというものもいた。
それから3ヶ月後、人類は死の恐怖から逃れられるようになる。
これが、2048年から2049年にかけて起こった、死の概念をめぐる大

ひまり

デバッグ用スキル

「デバッカー」を持つ少年、神名祐樹はある日突然デバッガーの力を手に入れた。彼は幼馴染みの少女、橘瑞希を救うためにゲームの中へと潜り込む。そこで彼が目にしたのは、ゲーム内に閉じ込められた人々の姿だった……。
【登場人物】
・主人公
名前:神名祐樹
性別:男
年齢:15歳くらい?
身長:173cm
体重:65kg程度
髪型:黒髪短めウルフカット気味。
服装:Tシャツ、ジーンズなどラフな格好が多い。
デバック用スキル:「デバッカー

ひまり

応募限定スキル【死への抵抗】
・致死攻撃無効即死攻撃を無効化し、HP1の状態を維持する 効果時間:3秒/クールタイム5分
(ただし効果は累積せず一度のみ発動可能)
※死亡回数に応じて持続時間は減少する
獲得条件:『死に抗う』
報酬:??? 死を恐れるが故に得た力。それが今目の前にいる青年の手に握られている。
「さあ、どうしましたか! 早く掛かってきなさい!」
「くっ……!!」
大剣を振りかざして襲い掛かるも、盾で防がれてしまう。彼の手に持つ盾は、私が振るった大剣よりも大きい。そんな巨大な物体が相手では、いくら振り下ろしたところでダメージが通るわけがない。
私は一旦距離を取って呼吸を整えようとする。だがそれを見計らっていたのか、間髪入れずに彼が突進してくる。慌てて防御態勢を取ったものの、勢いに押されて弾き飛ばされてしまった。
「うぐぅ!?」
地面に転がされた私に向かって、彼は再び大剣を構える。
「もう終わりですか?」
「まだよ!」
今度はこちらから攻め立てる。しかしそれも、全て捌かれてしまう。
「我々は死を恐れていない」と喧伝するために
「あなたがたの望みは何ですか?」
そう問われたとき、僕はこう答えるだろう。
「死にたくないです」
「……よろしい。では、我々に協力してください」
僕たちは、死んだらどうなるんだろう? 死後の世界があるのか無いのかなんてことは分からないけれど、もし仮に死後の世界があったとしても、そこに行けば何か良いことがあるんだろうか。
まあ、そんなことを訊いても答えてくれるはずがないんだけどね。
それにしても、どうしてこんなことになったんだっけなぁ。
そうだ、確か、今朝方のことだったかな。いつものように学校に行く準備をしている最中に突然僕の部屋に入ってきた黒服の男達。彼らは、驚く僕に向かって銃を突きつけてこう言ったのだ。
「我々は『死神』だ」
――と。
***
「ねぇ、何してるのよ! 早く起きなさいってば!」
声が聞こえてくる。これは夢じゃない。現実の声だ。
僕はゆっくりと目を開ける。視界いっぱいに広がる青空が眩しい。背中に当たる草の感触が心地いい。遠くに見える山々からは小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。まるで楽園のような風景だ。
だが……ここは本当に天国なのだろうか? 僕の名前は佐藤拓郎、23歳のごく普通のサラリーマンだったはずだ。家族構成は父母姉弟の4人家族。趣味はゲームと漫画を読むこと。好きなスポーツは特になし。友人

ひまり

才能って何だろう? 僕にとっての才能とは、例えば何かに熱中することだったりする。子供の頃はヒーローごっことか大好きだったし、中学に入ってからはバンドを組んだりした。高校に入ったら軽音楽部に入ってギターを弾いているけれど、これもやっぱり僕の趣味であって才能じゃないと思う。まあ、そんな感じだ。
僕は自分が特別優れた人間だとは思わない。
だから、きっと天才なんかじゃなくて、ただの凡才なんだと思う。それでも、そんな凡庸な人間が必死になって足掻く姿っていうのは、いつだって輝いているものだ。少なくとも俺はそう思うし、だからこそ今こうしてここにいるんだと思う。
俺の名前は高峰秋斗。どこにでもいるような普通の男子高校生だ。いやまあ普通ってことはないか。成績は中の上くらいだし、運動はそこそこ得意だけど、特筆するほどではない。身長178センチ体重65キロ、髪の色は焦げ茶、目鼻立ちはまあまあいけている方……と思いたいけど、これは鏡を見るたびに微妙な気分になるからノーコメント。まあとんでもなくブサイクじゃないとは信じてるよ! 趣味はゲーム全般。最近ハマっているのは『AW』

ひまり

ゲームシステムとしての才能を持った人間が必ずいるように、人の死に恐怖しそれから逃れようとする人々が必ず存在する。
そして、死の抽出により人々は不死を手に入れ、同時に誰もが恐れていた死を克服することに成功した。
この物語は、そんな世界における一つの物語である。
◆ 西暦20XX年8月1日、東京都・港区六本木にて―――
「あー、もう!なんなんだよ!!」
そう言って俺は手に持っていた紙束を投げ捨てた。
そこには、こう書かれていた。"貴方の夢叶えます!!どんな夢でも大丈夫です!!!さぁ夢の扉を開きましょう!!!"胡散臭いチラシの裏に書かれた広告文。だが、その一文を見た男は、自分の胸に湧き上がる熱い衝動を抑えきれずにいた。
ーーー俺の夢を叶えてくれるのか?こんな……クソみたいな人生を変えられるならなんだっていい!俺は、もう疲れちまったんだ。
男は決意を固めてその店に向かった。薄暗い路地裏にひっそりと佇む怪しい建物の中に足を踏み入れると、店内からは楽しげな音楽が流れてきた。客引きの男に連れられてカウンターまで行くと、そこには優しそうな笑顔を浮かべた女性が立っていた。
「いらっしゃいませっ! ご来店のお客様は初めてですか?」
「あぁ……はい」
女性店員は微笑みながら説明を始めた。
「それでは簡単にご説明しますねっ! まずはこのメニューの中からお好きな番号をお選びください!」
男が示されたページを開くと、そこには6つの項目があった。
1・『1番』
料金1000円 2・『2番』
料金3000円 3・『3番』
料金6000円 4・『4番』
料金10000円 5・『5番』
料金20000円 6・『6番』
料金3000000円
「えっと、これはどういうことなんでしょうか」
「ふふ、ご安心下さい! どの番号を選んでいただいても結構ですよ? ただ、選んだ数字に応じてコースが変わるだけですから」
「そ、そうか……じゃあ1番でお願いします」
「かしこまりましたー♪」

ひまり

眼として再生される
裏社会に 死神として恐れられる存在となり、世界経済を動かすまでに成長した大企業となった。
そして2036年現在、表向きには秘匿された研究施設において、新たな試みが行われている。
被験者である青年の目を通して語られる物語は、果たしてどのような結末を迎えるのか? これは、その物語の一部である―――
----------
『……なあ、お前ら』
「どうしましたか?」
『いやさ、なんかこう、もうちょっとないわけ?』
「何が言いたいんだお前?」
「いやさあ……これ、マジな話なんすけどね?俺ってば結構ヤバめな死に方しちゃったんすよ」
「ああ、だからそんなにくたびれてるのか。可哀想に」
「同情してる場合じゃないっすよ!本当に!」
「それで?」
「えっとですね、まぁ、端的に言うと俺は死んだわけです。そしたらなんか知らん場所に居たんで」
「成程、死後の世界か。どうだ、何か思い出せたかい?」
「いいえ全然」
「じゃあそろそろ本題に入ろう。君の死因は何だったんだ?」
「トラック轢き逃げ」
事件が起こった。被害者は女性、加害者は男性。事故現場の状況から見て自殺かとも思われたが、警察はすぐに捜査を打ち切った。というのも、被害者の身体からは、致死量の血しか検出されなかったからだ。
この事件は報道されずに終わったものの、人々の口に上って消えることはなかった。なぜならこの事件以降、世界各地で同じような事例が続発し始めていたからである。
「……いやぁ、参ったね。これはもうダメだな。さすがにこんな状態で生きてる奴はいないだろう」
男はそう言って、部屋の隅に転がっているモノを見た。
それは、かつて人だったものだ。
手足は千切れ飛び、頭は潰れている。腹に大きな穴を空けられ、内臓は全て引きずり出されている。全身に酷い火傷を負い、見る影もなく焼け焦げていた。
そんな有様なのに、ソレはまだ生きていた。
生きているはずがないのに、まだ呼吸をしていた。
「まあ、俺には関係無いけどね」
男の名は、ジョン・ドゥ。
本名かどうかすら怪しい名前を持つ彼は、死体愛好家だった。
「……ん?」

ひまり

死体の中身を抜き取ってネットの海へ流す
裏社会に
「……ん? なんだこいつら?」
男はふいに、目の前に現れた三人の男達を見てそう呟いた。男達は全員黒いスーツを着ており、しかもサングラスまでかけているため表情はよく分からない。ただその手には拳銃を持っており、どう見てもカタギじゃないことが窺えた。
「動くな!」
すると男たちの一人が銃口をこちらに向けて大声を上げる。だが男はすぐにおかしいことに気がつき首を傾げた。なぜ自分は拳銃を持っているのか?ここはどこなのか?自分が誰だかわからない!そうだ俺は死んだんだ!混乱する思考の中で男は理解し、叫んだ。
「俺は死んでいる!」
そう叫んでいる間にもう一人の男が近づき男の額に触れると呟いた。
「お前の名前は?」
「俺の名前……!?思い出せない!!名前どころか自分の年齢すら分からない!!」
「やはりな……。お前たちは死んでしまったようだ」
「そんなバカなことがあってたまるか!俺は生きてるぞ!」
「じゃあ今すぐ病院に行ってこいよ。まだ生きてたら会おうぜ」
「……わかった。行ってくる」
「おい待てよ」
「なんだ?」
「これを持っていけ」
「これは?」
「名刺だよ。その名刺の裏を見てみろ」

ひまり

春の犬冬の猫 夏の魚 秋の鳥 冬の鹿 春の花 秋の実 夏草 冬空 すべてみなうつくし 春風の吹く日は 木陰に寝そべって 本を読みながら 夢を見るように眠りたい そんなことを思い浮かべる そんなことはもうできない だからぼくはいま 白い病室のベッドの上で 窓の外の景色を見ながら なにも考えず ただぼんやりと過ごしている きみはどこ? きみはだれ? きみの声を思い出せないよ きみの姿を忘れてしまったよ きみへの想いだけが消えずに残っていて 胸の奥底で熱く燻っているんだ こんな気持ちは初めてだね まるで炎のように燃え上がっていた心が いつの間にか鎮火してしまったみたいだよ でも不思議と悲しくはないんだよ だってまたいつかきっと会えるだろうから そのときまで待つことができると思うから ああでもやっぱり寂しいかな きみに会いたくて仕方がないから ねえどうしてだろう 涙が出てくるほど会いたいのに 思い出すことができないんだ きみの名前さえわからないなんて ぼくはまだそこまで薄情だったのかしら でもそれも違う気がする そうじゃないよね まだ足りないものがあるはずなんだ それを見つければきっとわかるはずだ さあ探してみよう まずは手始めにきみの顔を描いてみることから始めてみよう ぼくの目の前にいるはずの君の姿を 君はどこにいるのだろう 君の声を聞きたい 君の笑顔を見たい 君の温もりを感じたい でも何も見えない 聞こえない 感じられない どうしたらいいのだろう どうすればいいのだろう 助けてほしい 誰か教えてくれないか ぼくは何をしているんだろうか 何をしたいと思っているのだろうか 自分が自分でよくわからないんだ それでも時間は止まってくれなくて 身体ばかりが大きくなってゆく このままじゃいけないと思いつつも 足を踏み出すことができずにいる 怖いんだ 自分を信じることができなくなることが 何度考えても答えが出せずにいることが 怖くて不安でしょうがなかった けれどいつまでもこうしているわけにはいかないから 少し勇気を出して歩いてみるとしよう 一歩ずつ ゆっくりと 少しずつ 前へ進んでゆけばいい たとえどんな結果になったとしても 後悔だけはしないようにしないと 大切なものをたくさん失ってしまうかもしれないから ぼくにとって一番大切だと思うものはなんなのか これからじっくりと考えていこうと思う そして見つけたらそれを大事にして生きてゆきたい そう思うよ 今日はとても良い

ひまり

夏の日差しに照らされた、青々と茂った木々の隙間を縫うように歩いていく。
舗装されていない地面からは陽炎が立ち上り、揺らめく空気の向こう側には、一面に広がる田畑が見えていた。
見渡す限りの田舎道を、二人の少年と一人の少女が歩いている。
二人とも私服姿で、片方の男の子の方はキャップを被っているものの、もう片方の子は何も被っていない。
女の子の方は麦わら帽子を被っており、首元まで伸びた髪が風に揺れている。
「なぁー……まだ着かないのかよぉ~」
「あと少しだって言ってんだろ!もうちょっと頑張れって!」
「そうですよ翔君。ほら頑張って下さい」
「いやだぁー!!暑いんだよぉ!!」
そんなやり取りをしながら歩く三人だったが、しばらくしてようやく目的地に着いたようだ。
目の前に現れた建物を見て、翔と呼ばれた男の子が声を上げる。

ひまり

「おっし、やっと着いたぞ!早く入ろうぜっ!!」
「あ、待ってください翔君!勝手に入って大丈夫なんですか?」
「平気だよ。俺ん家なんだからさ」
「いーや! だめだね。今日はお兄ちゃんの部屋!」
「……ったくもう」
僕は妹の唯花に背中を押されるがまま階段を上らされていく。
ここは僕と妹が住む一軒家の二階。
リビングを出てすぐ右に行くと僕の部屋があるんだけれど、そこに至る前に唯花は左へと進路を変えた。つまり今僕らは廊下を逆戻りしているわけだが――
「なあ、なんでまた戻るんだよ?」
「いい加減にしてください!もう限界です!」
「あぁ?まだ始まったばっかだろー?」
「だからってこんな……!」
「何回も言ってんだろうがよぉ……」
薄暗い部屋の中で男が二人言い争っていた。片方は黒髪の男でもう片方は金髪だった。二人は睨み合ったまま動かない。お互いに譲るつもりはないようだ。
しばらくすると男は諦めたのか深いため息をつくとこう言った。
「わかった……。なら1週間だ。一週間以内に俺を倒してみせろ。そうすれば俺はお前を認めてやるよ。まぁ、無理だろうけどな」
「……いいぜ。ただし約束を破ったら容赦しねぇぞ?」
「ああ……」
こうして、二人の戦いが始まった 〜〜〜
「ここか……っておい!誰もいねえじゃねーか!」
「あ?何言ってんだ?ここにいるじゃないか」
「どこにだよ!!」
「どこって、目の前にいるじゃん」
「は!?ふざけんなって、どこにもいねえじゃねーか!」
「だから、今お前

ひまり


眠薬はあった。だが、それを服用して得られるのは仮死状態であって、永遠の眠りではなかった。
故に人々は求めた。確実に死に至れる方法を。
死を望む者たちに、世界は応えた。
「……ふむ」
男は、その手紙を読み終えると小さく息を吐いた。男の名はルツ・オネスティ。ここ最近、急激に成長を続ける大企業、ゼノテック社の若き社長である。彼は今、自分の屋敷の書斎にいる。目の前に置かれたデスクの上には一通の手紙が置かれており、それを読んだ後だった。差出人の名は書かれていないが、その内容は彼が長年待ち望んでいたものだった。だが、彼の表情はあまり明るいものではない。むしろ険しいとも言えるものだ。その理由は彼の手元にある手紙にあった。
『拝啓、親愛なる我が友ルツよ』
そんな書き出しで始まる手紙の内容は、彼にとって苦い思い出を呼び起こすものでしかなかったからだ。
『君とは長い付き合いだね。初めて出会った時からもう10年以上になるかな?君のことはよく知っているつもりだよ。だから僕がどんなことを言いたいかわかるよね?』
ここまで読んで、ルツは再び溜息をつく。そして続きを読むことなく手紙を裏返す。そこにはこう書かれていた。
『君は僕の期待に応えてくれたんだ!ありがとう!』
読み終えたところで、また大きくため息をつく。今日だけでもう何度目かわからない。
本棚の奥から引っ張り出してきてしまった『屍体の文化史』という本を閉じた。
この本によると、この世界において死という概念は非常に曖昧なものだそうだ。
まず、死とは身体の機能が完全に停止することを指すのではなく、魂というものの存在の有無によるらしい。
つまり、肉体が滅んでも精神体はまだ存在するという考え方だ。これを仮に幽体と呼ぶことにしよう。
さらに言うならば、幽体は意識を持ち、思考することができる。
よって、死者は生きている時と同様に行動することが可能だし、会話もできる。ただ、肉のない状態で生きることは肉体的にも精神的にも不可能であるため、やはり死ぬしかないのだという。
これが一般的な常識なのだそうだけど……。
僕にとってはあまりにも非現実的すぎる内容だった。とてもじゃないけど信じられないし、信じたくない。
だって、死んだら終わりなんだぞ?

ひまり


は雪解け水で川が溢れ氾濫しやすくなるため、人々は川から離れ、平地での農業に従事する。そのため冬の間は農民以外あまり見かけなかった通りにも人が行き交い、活気づいている。
そんな大通りの一つを、大きなリュックサックを背負い歩く少年がいる。黒髪と瞳を持つ彼の名はラキオといった。彼は今年から農作業に従事し始めたばかりの新米だ。
「うーん……今日はどこに向かおうかなぁ」
ラキオは独りごちながら空を見上げた。太陽は高く昇っており、そろそろ正午に差し掛かろうかという頃合だった。昼食をとるためにどこか良い店はないだろうかと辺りを見回してみるものの、目に映るのは露店のテントばかり。どれも美味そうな匂いを振り撒きながら客寄せをしている。

ひまり

「まあ、どこでもいいけどさ。とりあえず座ったら?」
「ああ……失礼します」
声をかけてきた男は、やや小柄だが引き締まった身体つきをしていた。
髪は短く整えられており、口元には笑みを浮かべている。
年齢は20代後半といったところか。
着ているのはスーツだ。ネクタイこそ締めていないものの、上質な生地が使われていることが一目でわかるほど仕立てが良いものだ。
「それで、話って何? わざわざこんなところに呼び出してまでしたい話なんだろうね」
「はい。まずはこちらを見ていただきたいのですが――」
そう言って懐から取り出されたものは、一台のスマートフォンだった。
画面に表示されているのは一枚の写真。そこには二人の人物が写っていた。
片方は、黒髪を長く伸ばした女性。もう片方はやや背の高い男性。どちらも整った容姿をしている。
「この二人は誰だい?」
「私の上司です」
「ふぅん。君の部下なのかい」
「ええ。といっても、私は二人の下で働いているわけではありませんが」
「お二人は何を?」
「私達の仕事は主に死体処理です。先程あなたが見たような……」
「ああ、あれですか」
彼は納得してうなずいた。確かにあの有様ならば、死体処理くらいしか思い浮かばないだろう。
「それで? どうしてここに来たんですか?」
「それはですね……」
言いかけた時だった。
「おい! あんたら!」
野太い声が響く。振り向くと、そこには巨漢の男の姿があった。
「なんだお前らは」
「あんたが連れてきたのか!?」
男は凄まじい形相で詰め寄ってきた。あまりの迫力に気圧されてしまう。
「ち、違いますよ。この方は……」
「いいんだ。私が呼んだんだよ」
「あぁん? じゃあお前らは何しに来たって言うんだ?」
「こいつらが怪しいもんじゃないってことを証明するためさ」
「そんな

ひまり

死をテーマにした幻想曲
第一章
「……つまり、だな。お前が言うところの『アレ』ってのは、『死の抽出』による副産物なんだろう?」
「そうね」
「なら何でお前がそれを知ってんだ? まさか俺に黙って、裏社会の連中に売り捌いたんじゃないだろうな!?」
「違うよ! 確かにちょっと売っちゃったけど!」
「やっぱりかテメェ!!」
「待て待て待て!! 最後まで話を聞いてくれってば!!」
目の前の少女―――いや、見た目こそ10歳前後だが、実際はもっと上らしい。名前はロザリー・フォレスターと言うそうだ―――は必死になって弁明を始めた。
「いいかい、そもそも僕達がそれを知っていたのは、僕達自身が当事者だからなんだ」
「どういうことだ?」
「まず、前提条件として、僕らはある組織に属している。これは君にも心当たりがあるはずだ」
「あぁ、あの妙な仮面被った奴らか」
「そいつらは、表向きには正義を掲げる警察機構みたいなものだと思ってくれたまえ。まぁ、実態はだいぶ異なるけれど」
「おい、さっきから聞いてると、まるであいつらが悪人みてぇじゃねぇか」
「実際、悪だよ。ただ、君の思ってるような悪事とはまた別のベクトルだけどね」
「……まぁいい。

ひまり

「……まぁいい。ともかく私は忙しいんだ。お前たちの相手などしていられないんだよ。早く帰れ!」
「ですが、社長……」
「くどい!貴様らのような半端な連中に私の邪魔などできるはずがない。さっさと出て行け!!」
「……失礼します」
パタンと扉の閉まる音が響き、部屋には静寂が訪れた。
「……はぁ」
椅子にもたれかかりながらため息をつく。あの女め……。
先ほどまでの怒号が嘘のように、静かな空気が流れる室内。窓の外には、雲ひとつ無い青空が広がっている。今日もいい天気だ。こんな日くらい仕事なんか放っておいて、どこかに出かけてみたいものだ。
「あーもうだめだ!!やってられるか!!」

ひまり

思わず声を上げてしまった。こうなったら、少しばかりサボってしまうことにしよう。幸いここには私しかいないし、誰も文句を言う奴はいないだろう。それにしても、あいつらはいつも突然来るから困ったものだ。まったく、本当に何なんだ?急に来て、仕事をしろとか、手伝えとか、わけがわかんねぇよ。
「そもそも、なんで私が社長の真似事なんてしてるかっていうと、あいつらが社長になれと言うからだ」
「はい?」
「だから!あいつらだよ!!あのクソガキども!!」
そう言って、目の前にいる男は机を叩きつけた。先ほどまで酒を飲みながら延々と愚痴っていたのとは打って変わって不機嫌な様子だ。
「まぁ、気持ちはわかりますけど……。だってあなた、社長じゃないですか」
「俺はただのお飾りの社長だ!」
お飾りの社長って何だろうと思いつつも、僕は黙ったまま男の話を聞くことにした。僕の名前は鈴木健斗。高校一年生だ。特に特徴のない普通の少年だと思う。ただ一つを除いて……
「えーっと、つまり君は異世界転生というものに興味があるわけか?」
目の前にいる男はそう言った。どう見ても怪しい。白いスーツに黒髪ロングヘア―の美人秘書風の女性を連れているし、なによりここは会社の応接室なのだ。こんなところでいきなり『死の抽出』だなんて言われても信用できるわけがない。だいたい、俺だって一応社会人の端くれなんだからそういう話はもっとオブラートに包んで欲しいものである。……もっとも、仮にここが大学の講義室でそんなことを言われたとしても俺は信じなかっただろうけどね。
「あのー、すみません。失礼ですがどちら様でしょうか?」
「これは申し遅れました。私はこういうものです」
男は何の前触れもなく名刺を差し出す。反射的に受け取ったそれを見てみる。そこにはこう書かれていた。
『株式会社ゼーバッハ・ホールディングス代表取締役社長 神崎 一二三』
株式会社ゼーバッハ・ホールディングス?聞いたことがない会社だが…………あ!そうだ思い出したぞ!!こいつ確かテレビで見たことがあるぞ!最近急成長を遂げてる企業グループのトップじゃないか!?どうして今まで気付かなかったんだろう。い

ひまり

いや、そんなことよりも早くここから逃げないと……
「どうなさいましたかお客様?」……くそっ、もう来ていたのか!まずいな……。こうなったら仕方がない。一芝居打つしかないようだな。
「いえ、何でもありませんよ。ちょっとトイレに行きたくなってしまってね……」
よし、何とか誤魔化せたみたいだ。あとはこの隙に逃げ出せれば問題無いはずだ。
「そうですか。それなら良いのですが……。何かありましたらお呼びくださいませ」
ふう……何とか助かったぜ。さすがにもう無理かと思ったけどな……。まあ、何だかんだ言って俺達って運が良いよな。いやマジで。………………ん?お前らそんな目してどうしたんだよ?何かあったのか?…………ああ!そう言えばお前らに説明し忘れてたかも知れねえな。悪ぃ、悪い。つい嬉しくなって舞い上がってたみてえだわ。
そうだよ。俺達が今いる場所だよ。ここは、どこだと思う? ぶっちゃけここ何処なんだろーね。アタシ達にゃ全然見覚えのない景色だし、少なくともウチらの地元じゃないと思うんだけど。そこんところどーなんスかね。アンタらは。
あーやっぱりそうなんじゃね?じゃなかったらあんなこと言わないし。それにしても、こんな何もないところでよく今まで生きてこられたよね。あたしらだったら絶対ムリだって。それともアレかな、そういう訓練とか受けてる感じなのかな。ほら、あの有名な秘密組織みたいなヤツ。
うん。まぁ確かにそれも一理ありかもしんないっすねぇ。
ちょっと待った。ここでその話はなしッスよ。せっかく気分良くやってるんですから。

ひまり

うん。まぁ確かにそれも一理ありかもしんないっすねぇ。
ちょっと待った。ここでその話はなしッスよ。せっかく気分良くやってるんですから。
そんなことされたら興醒めですってば!……まぁいいでしょう。私は今から語る物語の主人公ではないし、ただ傍観者として見届けることしかできません。これは、彼の物語だ。
さてさて、どこから話そうか。そうだな、じゃあまずはこの世界の成り立ちから始めよう。
世界の始まりには何があったのか? それは誰も知らないことだ。いや、あるいは神のみが知っているかもしれない。いずれにせよ、世界が生まれたとき、そこには何もなかった。虚無だけがそこにあったんだ。だが、あるときそこに何かが現れた。それは小さな光だった。まるで、闇の中にぽつりと浮かび上がる灯のような、そんな光だ。それを見た者はこう言った。あれこそが世界の源なのだ、とね。人々はそれを崇め奉った。そして、いつしか、人々はあの光が自分たちを生み出したのだと信じるようになった。
こうして、人々は生まれた。
それから数千万年の時が流れ……
人々が暮らす星の上に、また別の命が生まれようとしていた。
「う~ん! はぁーっ!! 今日もいい天気ねぇ!!」
太陽の日差しのように降り注ぐ死の雨を降らす裏社会に さて、ここで一つ質問がある。君達は死を恐れるか? それとも、恐れないか? これはただのアンケートだ。答えても構わないし、答えなくても良い ただ、もしも君達が本当に死ぬことを恐れているなら……そんな君達には朗報だ 今から話すことは、君達のこれからを決める重要なことだ どうか真剣に聞いてほしい

ひまり

まず初めに、死とはなんだと思うか まぁ当然だが、ほとんどの人間が「死んだら終わり」と言うだろう 私もそう思う。当たり前の話だからな だからこそ私は最初にこう言ったのだ。「多くの人間は死を恐れるが、一部の人間は死を恐れてはいない」とね じゃあ何故大半の人間が死に怯えるのかといえば、結局は死というものをよく知らないからだ そもそもの死とは何か。君はそれを説明できるかい? もちろん、医学的な話ではないよ そうだな、例えばの話、誰かが死んだとする するとどうなると思う? 何も変わらないじゃないかって? いや違うんだよ。人は誰しも必ず死ぬものだ ならばその時が来るまで生きているのと同じことなんだそう思わないかな? つまり死なんてものは、日常の中に紛れ込む非日常的なものでしかないんだ それを恐怖するのはおかしい事じゃない。むしろ自然だよ だがそこで君は疑問を抱くはずだ。死を日常の中で捉えることが自然なのであれば、どうして多くの人が死を恐れるのか きっと誰もが一度は考える問題だ。そして、その問いに対する回答の多くは、先ほど私が述べたようなものだったりする 要するに皆怖いんだ。何時来るかも分からないものに怯えるのは仕方のないことだと言えるかもしれない それに、恐怖しない人間の方が少数なのは間違いないだろう 死を日常と捉えられるほどの強靭な精神力を持っている者は多くない 逆に言えば、大抵の人間は自分が死ぬことを理解できていない 故に死を恐れるのだと言う人も居るだろうね けれど私はこう思う。人はいつだって死ぬこ

ひまり

とを恐れているのさ ただそれを隠して生きているだけに過ぎない。死への恐怖を隠すために あるいは忘れるために。自分の中の弱い部分から目を逸らすために だから多くの人は死を忘れようとするし、死にたくないと思っている これは当然のことなんだ。決して恥ずべきことでは無いよ じゃあなぜ死は恐ろしいものとして認識されるようになったか 答えは簡単さ。死とは忘れられてしまうものだからだ 人は死について語りたがらない。何故なら、死んだら終わりなのだから 終わってしまったものの話をしても虚しいだけだ。ましてや人の生死に関わることなど尚更だ だから人々は話題を避けてきた。避けて避けられて、いつしか忘れ去られてしまったんだ これが私なりの死についての見解だよ 君の解釈を聞いてみたいな。聞かせてくれるかい?…………うん。ありがとう。君の答えはとても素敵だったよ それこそ、思わず拍手を送ってしまいたいくらいに そう言ってもらえると嬉しいな。僕の考えが少しでも役に立てたなら良かったよ 僕なんかの意見でも、何かの役に立つ事があるんならいくらでも話すけど……
そうだなぁ……。まず、お前らの中に、死の恐怖を克服している奴がいるか?俺はいないと思うね。いや、俺自身がそうだったからわかるんだ。死ぬことは怖いし、死にたくない。だが、同時に誰もがいつか必ず訪れる終わりだ。だからって怖くなくなるわけじゃないけどさ。それなら、せめて楽に終わりたいじゃないか。それに、いつ来るかもわからない明日なんか待てるかよ! あー……まぁなんだ。つまり何が言いたかったのかっていうと、俺は、自分が生きていることに感謝してんだよ。
そんな訳で、お別れの時間です。
じゃあ、またどこかで会えることを祈っているぜ。
これは、とある男が見た夢の話。彼が体験した出来事ではなく、あくまで夢の出来事。ただの夢の話。
その日は、よく晴れていた。雲一つ無い快晴で、とても気持ちの良い朝を迎えられるだろうと思っていた。
実際、その日の目覚めはとても良かった。いつものように寝ぼけ眼を擦って起き上がると、カーテンを開けて朝日を浴びながら伸びをする。そうしてベッドの上で背筋を伸ばしていると、自然とあくびが出た。
今日はいい一日になりそうだ――そんな予感を感じつつ部屋を出て階段を下りると、リビングからはテレビの音が聞こえてきた。どうやら父さんは既に起きている

この世界で根付く意識もなく

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