Note 2. 『scream』
目が覚める。
ここは…………どこだろう? やけに暗い室内に、俺はただ首を傾げた。
俺は慌てて後ろを振り返った。 驚きのあまり、心臓が飛び出そうになる。 そこにいたのは、明らかに校則違反であろう桃色のをした青年だった。 気怠そうに机に突っ伏し、こちらを見ている。 俺と同い年くらいだろうか。
発作が起きて、保健室に行こうとして、そのまま気絶して……死にかけた。
ならこの人は、そんな俺を見つけて態々ここまで運んでくれた筈だ。 それなのに、まだ感謝以前に挨拶すらもしていない自分が恥ずかしくて堪らなかった。
そういうと彼は眼をふっと細め、首を振った。
俺は、『そこかよ……』と心の中で悪態を吐きつつも、素直に答える。 彼は思ったよりも、真剣に話を聞いてくれた。 机の上に散乱した透明な瓶が光を反射して、眩い輝きを放つ。
やけに深刻そうな顔で彼は二、三度頷いて、それから口を開いた。
俺は首を傾げる。
そういって、彼はいくつか候補を上げてくれた。 何でも俺の症状は重症な為、早めに対処をしなければかなり危険な状態になるんだそうだ。 今回のように、気絶してしまうこともあるかもしれない。 それが学校などの屋内ならいいにしろ、外だったらもっと大事になる、と。
彼はそう続ける。
そうやって哀しそうに笑って、彼は言った。
__ ”歌を歌う“ 、とかね。
臓器の柔らかい部分を、強く握られたような痛みが走った。 肺が酷く圧迫され、脳髄はイカれたように熱くなる。 なのに、それに反比例するように、肌の表面は凍りついていく。
痛い、痛い、痛い。 何かが、脳を侵食してくる。
白い病室。 揺れる黒。 闇に蝕まれる視界。 誰かの泣き声。 __ そして、あどけない歌声。
これは、誰の記憶?
彼の、悲痛な声がする。
そうやって苦し紛れに返すと、彼は何故か泣きそうな顔になった。 ……あぁ俺ってやっぱり、ダメなヤツだな。 自分に優しくしてくれた人を、こんな顔に変えてしまうなんて。
彼をなるだけ心配させないようにと、俺は深呼吸をし、彼に笑いかけた。 もう大丈夫と、だからもう泣かないでと、伝えるように。 すると彼は安心したように俺の顔を見て、そして安堵の息を漏らした。
そして同時に彼は、何かを決意したようにこう言ったのだ。
その言葉に、悪意も敵意も殺意も、込められてはいなかった。 ただ、何かを求めるような……願望のような言葉。
俺は息を吸う。 そっか、と思う。 視界が、揺らぐ。
そっか、
そう、だったんだ。
そう叫ぶように言うと、彼は何度も頷いて此方を見た。 そして彼も、叫ぶ。決して、忘れまいとするように。
僕達はあの日、確かに……
歌を、歌ってたんだ。
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