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走り去った女子の背を見つめ、中也は鞄のポケットへと手紙を入れた。

中原 中也

ったく…俺は太宰教諭へのポストかよ…

呆れ顔で再び歩き出す中也。

ふ、と中也は自身の胸に嫌な空気が流れるのを感じた。

中原 中也

…?

しかし其れは一瞬の事で、直ぐに心中は何時もの調子に戻る。

中原 中也

なん、だ…今の…

少しもやもやした気を抱え乍らも、保健室へと辿り着いた。

扉を三、四回ノックする。

中原 中也

失礼します…

太宰 治

あ、中原君

何かパソコンで作業をして居たらしい太宰が入口側を向く。

太宰 治

櫛持って行ったの気付いた?

中原 中也

はい…済みません

そう云って中也は櫛を太宰へ手渡す。

太宰 治

別に謝んなくて良いけどさ

太宰は笑みを浮かべ、再び机に向かった。

怒って居ないような其の声に、少し中也が安心する。

中原 中也

あ…

中原 中也

そう云えば、之

太宰 治

中也は鞄から先刻の封書を取り出し、見せる。

中原 中也

琴音…って奴から太宰教諭に、と

太宰 治

嗚呼…そうか、有り難う

中也の言葉に太宰は少し困った様な、曖昧な笑みを浮かべた。

太宰 治

其処に置いといてくれ給え

其の何時もは見ない複雑な表情に中也が首を傾げる。

中原 中也

教諭…其奴の事、苦手なんですか?

太宰 治

…うーん…

太宰 治

何方かと云うと、好きな女子の方が居ないんだよな…

中也が瞠目する。太宰が女子と話す時には何時でも笑顔で居た。

太宰 治

ふふっ、何?そんなに驚いて

あくまで〝養護教諭〟として話してるだけ___

そう太宰は語った。

中原 中也

(あ…あの女子は太宰教諭の恋愛対象じゃ無いんだ…)

変にほっとした自分に驚く。

先刻から何だか可笑しい。

頭から無理矢理其の事を追払い、寝具に腰掛ける。

また他愛の無い_例えば自殺の事_などを話し始めた太宰へと向き直した。

そんなこんなで、今日も一日の学校生活が終わった。

6分の5は保健室で過ごしたわけだが。

中原 中也

ふ…っ

軽く伸びをし、私物の自転車に乗る。

その時。

中原 中也

通話終了

通話
00:00

中也の携帯が鳴った。

中也は普段絶対に見せない様な冷たい目で、電話をとる。

中原 中也

…もしもし

 

甲258

中原 中也

 

客が入った

中原 中也

暗号キー

 

18609

中原 中也

今日か

 

済まないな、今日だ

中原 中也

了承

最低限の会話。

それが終わるとすぐさま中也は通話終了釦を押す。

中原 中也

ポケットに携帯を仕舞うと、自転車を走らせた。

中原 中也

…さて、と

今日の仕事だ。

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