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平野タツキ

つかれた~

平野タツキ

電話応対、メールのやりとり、取引先や顧客のリスト、部署間の細々した雑用……

平野タツキ

覚えること多くて頭がパンクしそうです

兵頭和正

社会人一年目なんだからしょうがないよ。

兵頭和正

慣れれば少しは楽になるから

兵頭和正

今はがんばりどき

平野タツキ

そんなものですか~

兵頭和正

うんうん。そんなものそんなもの。

平野タツキ

それにしてもまさか兵頭さんから、飲みの誘いをいただくとは思いませんでした。

兵頭和正

え?なんで?

平野タツキ

嫌われてると思ってたから

兵頭和正

ええっ?

平野タツキ

兵頭さん仕事中は声めっちゃ低いんですもん

平野タツキ

寝起きの声みたい。2オクターブくらい低い

兵頭和正

いやいや

平野タツキ

ほんとですって

平野タツキ

真顔で「は?」って言われたとき怖くてしょうがなかった

平野タツキ

それが飲みの場ではこんなにフレンドリーな男になるし……

兵頭和正

いや普通にしてるだけなんだけど

平野タツキ

いやいや
そんなわけない

兵頭和正

仕事は仕事。プライベートはプライベート。

兵頭和正

分けるタイプなの、オレは

平野タツキ

じゃあこれ、プライベートなんだ

兵頭和正

うん?

平野タツキ

なんで疑問系

兵頭和正

冗談だよ

平野タツキ

笑えません

兵頭和正

そういえば平野くん

平野タツキ

はい

兵頭和正

毎回こうしてオレに付き合ってくれるけども、もっと遊びに行かないの?

平野タツキ

遊びたいですけど、友だちはみんな忙しいみたいで

兵頭和正

家族は?

平野タツキ

オレ地方の田舎出身なので、大型連休くらいしか帰省できませんし

兵頭和正

恋人は?

平野タツキ

いません

兵頭和正

さみしい独り身なのか

平野タツキ

そういうのパワハラになりますよ。今の時代

兵頭和正

これは失敬

兵頭和正

でも今はプライベートだから

平野タツキ

まったく。都合のいい

平野タツキ

ーー兵頭さんはいないんですか

兵頭和正

え?

平野タツキ

カノジョ

兵頭和正

いるよ

平野タツキ

でしょうね

平野タツキ

そんな気はしました

平野タツキ

いかにもモテそうな顔つきですもん

兵頭和正

写真見る?

平野タツキ

えっ

兵頭和正

ほら

平野タツキ

ーー。

平野タツキ

ーーって犬じゃないですか

兵頭和正

可愛いだろ

兵頭和正

メロンちゃん。ぼくの世界一の彼女

平野タツキ

そりゃ可愛いですけど

平野タツキ

……ってことは

平野タツキ

結局先輩もさみしい独り身なんじゃないですか

兵頭和正

きゃーパワハラ

平野タツキ

なにが、きゃーだよ

女性

あのーちょっといいですか

平野タツキ

え?

女性

連絡先交換してもらえませんか?

平野タツキ

ええっ

平野タツキ

も、もちろん!

女性

あ、あなたじゃなくて……

女性

そっちの……

兵頭和正

ん?

兵頭和正

オレ?

女性

さっきから見てたんですけど、

女性

すごくイケメンですよね。タイプです

平野タツキ

ぎゃ、逆ナン

平野タツキ

よかったじゃないですか先輩
これで寒い冬が抜けられますよ!

兵頭和正

……たしかに

兵頭和正

ほどよく美人で、目もきれい。

兵頭和正

身長も高すぎず低すぎず。髪も毛先までしっかり整えている

兵頭和正

タイプだ。

平野タツキ

おお!

平野タツキ

(兵頭さんがこんな人を褒めるなんて……)

平野タツキ

(もしかして女の人には弱いタイプなのか?)

兵頭和正

ーーだけど、あなたのことは好きになれそうにない

女性

えっ

平野タツキ

えっ

兵頭和正

今、食事してるんだよね。

兵頭和正

可愛い後輩と

兵頭和正

一日の中で、オレの唯一の癒やしの時間

兵頭和正

それをジャマした人間は、どんなに美人でドタイプでもムリ

女性

っ!

平野タツキ

(行っちゃった…)

平野タツキ

……

平野タツキ

ーー先輩

兵頭和正

さて、続けようか。

平野タツキ

先輩

兵頭和正

なに?

平野タツキ

なに?ーーじゃないですよ!

平野タツキ

あんなきつく怒らなくたっていいじゃないですか

兵頭和正

怒ってない

兵頭和正

ふつうだよ、ふつう

平野タツキ

ぜったい「ふつう」じゃない!

平野タツキ

例の低い声出てたし

平野タツキ

完全にイラッとしてましたよね

兵頭和正

してないって

平野タツキ

してました!

兵頭和正

……ああ、なに

兵頭和正

そんなに彼女のこと、ほしかったの?

平野タツキ

はあ?!

平野タツキ

そんなわけないでしょ

兵頭和正

追いかけてきなよ。

兵頭和正

やさしく。慰めるみたいに

兵頭和正

連絡先の一つくらい教えてくれるかもよ

平野タツキ

平野タツキ

いくら恋愛に飢えてたとしても、そんなことしません

兵頭和正

ふーん。そうなんだ

兵頭和正

さっきは声かけられて
嬉しそうだったけど。

平野タツキ

……

平野タツキ

それ以上続けるなら、本気で怒りますよ

兵頭和正

こわいこわい

平野タツキ

(この人は…)

兵頭和正

前から思ってたんだけど

平野タツキ

はい

兵頭和正

平野くんってさー

兵頭和正

ーー経験あるの?

ガタッ

平野タツキ

……帰ります

兵頭和正

おいおい
そんなに過敏に反応しなくたって

兵頭和正

べつに冷やかしなんかしないって

平野タツキ

今はそういう話する気分じゃないんです

平野タツキ

つか

平野タツキ

そういう話するなら
二度と誘わないでください

平野タツキ

さよなら

兵頭和正

座りなさい

平野タツキ

ああ。ここは僕が払います。

平野タツキ

では

兵頭和正

座って

平野タツキ

いやです!

兵頭和正

座れ

平野タツキ

………!

平野タツキ

(腕を…!)

平野タツキ

はなしてください!

兵頭和正

言われなくとも、きみとは今日が最後の食事のつもりだったよ

平野タツキ

え……

兵頭和正

昨日、社長に呼び出されてな

兵頭和正

本社に行くことになったんだ

平野タツキ

……!

兵頭和正

向こうのトラブルで人員が不足したらしく急遽決まった

平野タツキ

そんな……

兵頭和正

認めるよ

兵頭和正

さっき怒ったこと

兵頭和正

今日はきみと食事を楽しみたかった。

兵頭和正

最後だからな

平野タツキ

……

兵頭和正

……

兵頭和正

じつはーー

兵頭和正

きみを初めて飲みに誘ったあの日、

兵頭和正

恋人が出ていったんだ

平野タツキ

え……

兵頭和正

8年付き合って、5年一緒に住んでいた。最愛の恋人

兵頭和正

新しい男ができたとかで。
散々もめた挙げ句に家を飛び出した

兵頭和正

なんにせよ、オレは朝から機嫌が悪くてね

兵頭和正

プライベートも仕事も分けてる余裕さえなかった

兵頭和正

それで職場で君に当たった

兵頭和正

新入社員のなかで一番可愛げがあって、飲み込みも早くて、

兵頭和正

当たりやすかったから

兵頭和正

けどすぐに、「やってしまった」と思った

兵頭和正

だから反省した

兵頭和正

食事でもおごろうと思った。

兵頭和正

これが案外楽しくて

兵頭和正

……「案外」じゃないな。

兵頭和正

本当に楽しくて

兵頭和正

きみといると、あいつを忘れられる

兵頭和正

ーーいや、

兵頭和正

君といるのが何よりも楽しい

平野タツキ

……

平野タツキ

……意味わかんないてす

平野タツキ

それってどういう

兵頭和正

君が好きだ

兵頭和正

恋愛対象として

兵頭和正

ーーああでも

兵頭和正

ときどき子犬みたいに見えるから
庇護欲もあるかも

平野タツキ

ちょっと待ってください!

平野タツキ

オレ、男ですよ!!

兵頭和正

出て行った恋人

兵頭和正

彼も『男』だよ

平野タツキ

え……

平野タツキ

……

平野タツキ

つまり……

平野タツキ

……ゲイってこと

兵頭和正

そうなるね

平野タツキ

……

平野タツキ

…うそだ

兵頭和正

うそじゃない

兵頭和正

うちには君以外にも、3人新入社員がいる

兵頭和正

その中で僕が
飲みに誘っているのは君だけだ

平野タツキ

それは兵頭さんが
僕の担当みたいなものだから

兵頭和正

むろん、それもある

兵頭和正

だけどオレが、他人と深く交流するのを嫌うことは、君も知ってるだろ?

兵頭和正

さっきの女性もそうだ。

平野タツキ

……

平野タツキ

………

平野タツキ

……めちゃくちゃだ

平野タツキ

こんなタイミングでそんなことを言うなんて……

兵頭和正

それは自覚してる

平野タツキ

……

平野タツキ

……あーもう……

平野タツキ

マジ意味わかんない

平野タツキ

(好き?)

平野タツキ

(兵頭さんが……オレを?)

平野タツキ

や、無理でしょ

平野タツキ

オレは男なんて無理

平野タツキ

ぜったい……

平野タツキ

……どう考えても……無理

兵頭和正

……

兵頭和正

なら最後の思い出として、
今晩だけ酒に付き合ってくれ

平野タツキ

……

兵頭和正

あるいは

兵頭和正

一夜でもいいけどね

平野タツキ

っ!

兵頭和正

そんな睨まなくたっていいだろ

兵頭和正

最後くらい好きに言わせてくれたってさ

平野タツキ

いい加減にしてください!

平野タツキ

こっちはさっきからあんたに怒ってんのに

平野タツキ

本社に異動?

平野タツキ

恋人に振られた?

平野タツキ

マジずるい

平野タツキ

そんなことで俺が同情するとでも
思ってんですか

兵頭和正

なら帰ればいい

平野タツキ

兵頭和正

オレはもう少しここで飲んでくからさ

兵頭和正

ーーああ、そうだ。

兵頭和正

君の気が済むなら

兵頭和正

オレがゲイだってことも
ふれ回ってくれてかまわないよ

兵頭和正

じゃあ

ガタッ

兵頭和正

平野タツキ

すみません、ビール追加で

平野タツキ

あと焼酎も。ロックで

兵頭和正

平野くん……

平野タツキ

触らないでください

平野タツキ

その件についてはまだ保留です

平野タツキ

オレは単に飲み仲間として付き合うだけですから

兵頭和正

平野くん……

平野タツキ

だから触るなって!

平野タツキ

ここからはプライベートです。
従順な部下だと思ってもらっても困る

平野タツキ

ほら、酒が来ましたよ

平野タツキ

ーーはい、これはあんたのぶん

平野タツキ

さっさと帰りたいので、
さっさと酔い潰れてください

平野タツキ

乾杯

兵頭和正

……乾杯

平野タツキ

……

兵頭和正

……平野くん、

平野タツキ

……

兵頭和正

ーーあのね平野くん、

平野タツキ

……

兵頭和正

っていうのはウソ

平野タツキ

……は?

兵頭和正

ウソです。

平野タツキ

は?

兵頭和正

だから

兵頭和正

本社に行くことも、恋人が出てったってこともーー

兵頭和正

ぜーんぶウソ

平野タツキ

はああああ!?

兵頭和正

だってー

兵頭和正

平野くん、急に「帰る」とか言い出すんだもん

兵頭和正

せっかく飲みに来たのにさ

平野タツキ

ふ、ふざけん…

兵頭和正

でもこんなに本気にするとは思わなかったなー

兵頭和正

僕が君のこと好きだって

兵頭和正

好き…。あはは

兵頭和正

ごめんなー期待させて

平野タツキ

してない!

兵頭和正

飲もうよ

兵頭和正

焼酎でもウイスキーでも、なんでも付き合ってくれるんでしょ

兵頭和正

プライベートとして

平野タツキ

いや……

兵頭和正

ほらほら飲んで飲んで

平野タツキ

勝手に注がないでください!

兵頭和正

いーじゃん、いーじゃん

平野タツキ

っ!

兵頭和正

かわいいな

平野タツキ

は…

兵頭和正

いーやなんでも

兵頭和正

(かわいい?)

兵頭和正

(ま、メロンちゃんを愛でる気持ちと同じだろうけど)

兵頭和正

(たぶん)

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