病院からはその日のうちに帰宅し、次の日には仕事に復帰していた。 スタジオに入ると若井は心配して、まだ休んでた方がいいとぼくを帰らそうとしてきたけど、抑制剤が効いてるおかげで昨日もよく眠る事が出来たし、ここ数年で一番元気そうなぼくを見て、渋々納得してくれた。
それから2.3日は問題なく過ごせていたけど、リミットの1週間目が近づくにつれ、また眠ることが出来なくなり始め、体調が悪いと感じる日が多くなっていた。
藤澤
大森
そして、ついに涼ちゃんと約束した日に…
藤澤
ね?とぼくを安心させるように涼ちゃんがニコッと笑う。
そう、事前に涼ちゃんとはNG行為やSafewordを話し合っていた。 NG行為は、基本的に性的行為に関する事全般。 本当は性的なものがあった方が満足感が高いと言われているけど、流石に友達とそういう事は出来ないし、やりたくないし、やらせたくもない。 後は、痛いのも嫌だと伝えてると、元貴にそんな事しないよ〜と笑われてしまった。
藤澤
大森
事前に決めたSafewordは無難に『Red』にした。 止まれ=赤信号と言うイメージでよく使われてるらしい。 SubがSafewordを発した場合、Domは行為を止めなければいけないけど、Safewordそのものに拘束力はないので、そこはお互いの信頼関係が試されるものになる。
藤澤
涼ちゃんの普段の印象は柔らかい雰囲気のお兄さんって感じだから、涼ちゃんがDomをするイメージが全然湧かなかったけど、涼ちゃんが開始を告げた瞬間、纏っている雰囲気が変わり、ぼくの中にある本能がザワついたのが分かった。
藤澤
涼ちゃんの口からいつもよりも少し低い声でCommandが発せられた瞬間、背中ゾクゾクして、無意識のうちに座っていたソファーから降りて床にぺたんと座っていた。
藤澤
何が起きたのが自分でも分からず、戸惑っていると、頭の上から褒める言葉が聞こえて来て、その瞬間何にも変え難い喜び、高揚感に全身が震えた。
大森
心臓がドキドキして、本能がもっと命令して欲しい、もっと褒めて欲しいと叫んでいる気がした。 だが、それと同時に頭のどこかに自分の事を俯瞰で見てる自分も居て、不思議な感覚に陥る。
藤澤
ぼくは涼ちゃんの命令通り、涼ちゃんの目を見る。 命令されて嬉しいぼくと、なんでこんな事してるんだろうっていうぼくがせめぎ合う。
藤澤
でも、褒められる度、命令される度に、徐々に命令されたい、褒められたいという欲が俯瞰してるぼくを隅に追いやっているのを感じた。
藤澤
ぼくは、涼ちゃんの命令通りその場に立つが、ずっと見つめ合ってるのが恥ずかしくて少し目を逸らしてしまった。
藤澤
ぼくの目線が逸れたのを逃さなかった涼ちゃんは、少し強めにCommandを発した。 すると、その瞬間、身体がビクンっと跳ね、全身がゾクゾクした。 身体が、心が、喜んでる… こんなのぼくじゃない、ぼくじゃないのに…
藤澤
涼ちゃんから目が離せない。 もっと褒めて欲しい。 言う事聞くから。 お願い、もっと。
藤澤
涼ちゃんはそう命令して、自分の横をポンポンと叩いた。
僕は吸い寄せられるように、涼ちゃんを見つめたまま、指定された場所に座る。
藤澤
涼ちゃんは言葉で褒めながら、上手に命令を聞けてるぼくの頭をポンポンと撫でてくれた。
大森
嬉しくて堪らないけど、それが恥ずかしくて、ぼくはぐっと下唇を噛んだ。
藤澤
ぼくは黙ってコクコクと上下に頭を振る。
藤澤
大森
藤澤
大森
藤澤
涼ちゃんはまたぼくの頭を撫でると、優しくニコッと笑ってくれた。
藤澤
涼ちゃんの提案にぼくは直ぐに同意した。 心臓がドキドキしっぱなしで、正直、これ以上は耐えられそうになかったからだ。
藤澤
そう言って、手を広げる涼ちゃんはいつもの涼ちゃんに戻っていて、さっきまでのDomとSubの雰囲気もなくなっていた。
大森
命令されている訳じゃないから、普通に拒否も出来ている。 ぼくはハグをしようとする涼ちゃんから少し距離を取った。
藤澤
確かにそうなんだけど、改められるとなんか恥ずかしいと言うか…
藤澤
少し悲しそうな顔で、ぼくのせいで辛くなって欲しくないよ、と言う、意外と演技派な涼ちゃんにぼくは負けて、おずおずと涼ちゃんに近寄り涼ちゃんの背中に腕を回した。
藤澤
大森
藤澤
涼ちゃんはぼくを色んな言葉で褒めながら、ぼくをギュッと抱きしめたり、頭を撫でてくれたりした。 最初は急に甘やかされ始めたのがむず痒くて恥ずかしかったけど、徐々に心地よく、心が満たされる感じがして、いつの間にか涼ちゃんの腕の中で寝てしまっていた。
朝起きると、涼ちゃんが運んでくれたのか、きちんとベッドに寝ていて、スマホを見ると涼ちゃんから一通連絡が入っていた。
そっか… 当たり前だけど、この1回で終わる訳じゃないんだよね。 抑制剤が効かない限り、実際にPlayをして欲求を解消するしかないんだ…
ぼくは、涼ちゃんに迷惑を掛けて申し訳ないと言う気持ちの奥に、次のPlayを待ち望んでいる気持ちに気付き、本能にはやっぱり逆らえないんだと、複雑な気持ちになった。
コメント
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ちょっとおもしろ過ぎて頭抱えてます🤦♀️ 読んでて楽しすぎます!!! 色んなジャンルの小説かけるのすごい😳 もう最近2980さんの小説読むのが日課になってます😌