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次に気づいた時。 僕は地面へ座り込んでいた。 雨が降っている。 息が白い。 橋の下から、 濁った水の音が聞こえた。 頭が痛い。 ひどい耳鳴り。 目の前で、 かやまが震えていた。 何か言っている。 でも聞こえない。 僕はゆっくり顔を上げる。 橋の欄干。 雨。 暗い川。 そして。 こにしがいなかった。 僕の呼吸が止まる。
はせがわ
喉が張りつく。 かやまが僕の肩を掴む。 冷たい手。
かやま
声が震えてる。
かやま
意味が分からない。 結はふらつきながら立ち上がる。 橋の端へ近づく。 下。 黒い川。 激しい流れ。 何かが 一瞬だけ見えた気がした。 僕の肺が潰れそうになる。
はせがわ
かやまの顔が真っ青だった。
かやま
そこまで言って、 かやまは黙る。 僕の頭の中で、 さっきまでの光景が途切れ途切れに蘇る。 こにしの声。 『お前、 そいつといると壊れるよ。』
かやまの震えた手。 怒鳴り声。 誰かが誰かを掴む感触。 雨。 滑る足。 そして。 水音。 僕は急に吐き気を覚えた。 橋の端へしゃがみ込み、 胃液を吐く。 苦しい。 息が吸えない。 肺へ雨水が入ってくるみたいだった。
かやまが近く
かやま
僕は反射的にかやまの手を振り払った。 その瞬間。 かやまの顔が壊れそうに歪む。 僕はそれを見てしまう。 怖かった。 でも。 同時に。 置いていかれた子供みたいな顔だと思った。 そのせいで、 僕は完全には拒絶できなかった。 最悪だった。
遠くでサイレンが鳴る。 誰かが通報したのかもしれない。 僕の頭が真っ白になる。 警察。 事情聴取。 学校。 親。 全部が一気に現実になる。 かやまが小さく言った。
かやま
僕は顔を上げる。 かやまは震えていた。
かやま
僕の胸がぐちゃぐちゃになる。 かやまは壊れてる。 普通じゃない。 なのに。 今にも消えそうな顔をされると、 見捨てられなかった。 僕は唇を噛んだ。 頭の奥で、 知らない感覚が広がっていく。 逃げたい。 でも。 かやまを一人にしたくない。 その二つが混ざる。 サイレンが近づく。 かやまが掠れた声で言う。
かやま
僕は答えられない。 答えられないはずなのに。 かやまが一歩下がった瞬間。 僕は反射的に、 かやまの腕を掴んでいた。 かやまが目を見開く。 自分自身も驚いていた。 何で掴んだのか分からない。 でも。 離したら、 本当に終わる気がした。 僕は震える声で言う。
はせがわ
その瞬間。 かやまが泣きそうに笑った。
その夜から。 僕の呼吸はずっと浅かった。 学校へ行っても、 何も現実感がない。 教師の声。 クラスメイトの笑い声。 全部遠い。 こにしは行方不明になった。 警察が学校へ来た。 聞き込み。 クラス中がざわつく。 僕は何も覚えていないふりをした。 かやまも学校へ来なかった。 なのに。 僕はずっと、 かやまの気配を感じていた。 廊下。 窓際。 帰り道。 どこにいても。
夜。 僕は眠れず、 部屋で座っていた。 時計は二時を過ぎている。 雨はまだ止まない。 その時。 携帯が震えた。 かやま。 僕の喉が詰まる。 通話を押す。 数秒、 互いに何も言わない。
それからかやまが、 小さく言った。
かやま
僕は目を閉じる。 かやまの声が震えている。
かやま
僕の胸が痛む。 苦しい。 全部壊れてる。 もう戻れない。 なのに。 かやまの声を聞いた瞬間だけ、 少し呼吸ができる気がした。