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こにしがいなくなってから、 学校は妙に静かだった。 いや。 本当はいつも通りなのかもしれない。 笑い声もある。 授業もある。 部活の声も聞こえる。 ただ。 僕の世界だけが、 透明な膜を一枚挟んだみたいに遠かった。
教師
担任が僕を呼ぶ。 放課後の教室。 窓の外は曇り空。
教師
はせがわ
担任は困った顔をした。
教師
仲良かった。 その言葉だけで、 胃が重くなる。 僕は曖昧に頷いた。 担任は少し迷ってから言う。
教師
はせがわ
嘘だった。 眠れていないわけじゃない。 むしろ。 眠るのが怖かった。
その夜。 僕は夢を見た。 暗い。 雨。 川の匂い。 空気が冷たい。 息が白い。 遠くで、 誰かが笑っている。 こにしだった。 制服姿。 濡れた髪。 橋の欄干へ座って、 僕を見ている。 まるで、 あの日の続きみたいに。 僕は喉を押さえる。 声が出ない。 こにしは笑う。 いつもの、 軽い笑い方。
こにし
こにし
僕は後ずさりした。 橋が軋む。 こにしは欄干から降りる。 靴から水が落ちる。 おかしい。 川へ落ちたはずなのに。 制服が濡れすぎている。 足元から、 黒い水が広がっていく。 こにしは少し首を傾げる。
こにし
その瞬間。 僕の肺へ一気に水が流れ込んだみたいになる。 息ができない。 苦しい。 喉が焼ける。 こにしがゆっくり近づいてくる。
こにし
違う。 違う。 自分は, こにしの顔が、 ぐしゃりと歪んだ。 まるで水面みたいに。 その奥から。 かやまの声がする。
かやま
こにしが笑う。 でももう、 こにしの顔じゃなかった。
かやま
僕は叫ぼうとした。 でも。 肺の中が水でいっぱいで、 声が出ない。 苦しい。 冷たい。 怖い。 そして。 橋の下から、 誰かが僕の足を掴んだ。
僕は飛び起きた。 荒い呼吸。 汗。 暗い部屋。 喉が痛い。 僕は咳き込んだ。 本当に溺れた後みたいだった。 時計を見る。 午前3時40分。 その時。 携帯が震えた。 僕の心臓が止まりかける。 画面。 かやま。 僕は数秒固まったまま、 通話を押した。
はせがわ
かやまは少し黙ってから言った。
かやま
僕の呼吸が止まる。 部屋が急に寒くなる。
はせがわ
かやま
僕は何も言えない。 沈黙。 ノイズ。 かやまの静かな呼吸音。 それからかやまがぽつりと言う。
かやま
僕は唇を噛んだ。 怖い。 かやまが怖い。 でも。 電話を切ったら、 もっと怖くなる気がした。 かやまが小さく言う。
かやま
はせがわ
少し沈黙。 それから。
かやま
僕の呼吸が止まる。 頭の奥で、 何かが軋む音がした。