僕は健治。突然だけど、今日はエイプリルフールだし、クラスメイトの伊藤くんにドッキリを仕掛けようと思うんだ。春休み中だからLINEでね。
健治
11時だけど起きてる?
伊藤
お前からのLINEで起こされた
健治
ごめん
伊藤
折角の長期休みだってのによー
健治
でもね、報告があるんだ
伊藤
なんだ?宝くじでも当たったのか?
健治
そう!
伊藤
マジかよ
健治
一等じゃないけどそこそこの額が当たったんだ
伊藤
じゃあ遊び行こうぜ、またお前の奢りで
健治
全部僕の奢りなの?
伊藤
金に余裕あるんだからいいだろ
健治
しょうがないな
伊藤
さっすが俺の友だ!
健治
あとね、君の好きなアーティストのライブチケットも当たったんだよ
伊藤
豪運じゃねぇか
健治
僕はあまり知らないからあげるよ
伊藤
まじでサンキュー
伊藤
お前と友達でよかったぜ
健治
ねえ!
伊藤
どうした?
健治
今お母さんが言ってたんだけど、君の家燃えてるって
伊藤
は?ちょっと見てみる
健治
うん
伊藤
お前、母親に嘘つかれたんじゃねぇの?
健治
えっ
伊藤
家の中に煙なんてねぇし熱くもねぇぞ
健治
うわー、やられたー
伊藤
俺からもちょっといいか?
健治
なに?
伊藤
実はじいちゃんが死んじまって
健治
あの優しそうな?
伊藤
ああ、じいちゃんが今日、、、
健治
それは、、、ご愁傷様です
伊藤
今親父たち、俺以外の家族全員、病院にいるんだ
健治
大変だね
伊藤
なーんてな
伊藤
今日何の日か知ってるか?
健治
エイプリルフール?
伊藤
そう!俺の話はぜーんぶ嘘
伊藤
親父たちは入院してるじいちゃんの見舞いで病院言ってるだけだよ
健治
騙された―
伊藤
中々のもんだろ
健治
まぁ、僕も嘘ついたんだけど
伊藤
やっぱり、今日の話全部嘘だろ
健治
あははははー
伊藤
え
健治
どうかしたの?
伊藤
今お袋から電話あってじいちゃんが死んだって
健治
えっ!嘘じゃなかったの?
伊藤
体にガタは来てたけどこんなに早く死んじまうなんてことありえねえだろ!
健治
そういえば、もう午後だね
伊藤
ああ、お前が”ねぇ!”って送ってきたときからだな
伊藤
って今はそんなことどーでもいいんだよ
健治
エイプリルフールってね、嘘をついていいのは午前までで午後はネタバラシをするんだよ
伊藤
さっきから何言って
そこまで話して僕はスマホをポケットにいれた。スマホからはピロンピロンというLINEの通知音が聞こえてくる。伊藤くんの家からは伊藤くんがドアや窓を叩く音がする。
そんなことしても無駄だよ。君が寝ている間に色々細工したんだから。眠りが深くて助かったよ。おかげで今までの金も取り返せた。
おじいさんが死んだって言ってくれたのはラッキーだったな。手間が省けた。
そんなことを考えながら僕は用意した火種の前に立つ。マッチ箱からマッチを一本取り出して火をつけ、残りは火種と一緒にする。火をつけたマッチを火種の中に放り投げる。
家に帰ろうと伊藤くんの家の背にする。背後からは家の燃える音と叫び声が鳴り響いている。