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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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シンヤ

免許どんな感じ?

ハヅキ

今日で座学が終わったとこ

ハヅキ

まだまだかな

シンヤ

次から実技か

ハヅキ

そそ

ハヅキ

明日
エアロックの確認の仕方と

ハヅキ

エンジンの掛け方の練習だって

シンヤ

本当にまだまだだな笑

ハヅキ

だから言ったじゃん笑

シンヤ

まあ

シンヤ

合法的に免許取れる歳に
なっただけマシだよな

ハヅキ

ほんとにね

ハヅキ

長かった気もするけど

ハヅキ

あの時から比べれば

ハヅキ

もうちょっとだ

シンヤ

だな

シンヤ

なにより

シンヤ

ハヅキが今回で
合格出来たとしたら

シンヤ

計画がだいぶ進むしな

ハヅキ

そだね

ハヅキ

ハヅキ

…でも

シンヤ

ん?

ハヅキ

…本当に後悔しない?

ハヅキ

犯罪なんだよ?

ハヅキ

地球に行くのって

シンヤ

何を今さら

シンヤ

ここにいるよりはいいだろ?

シンヤ

…それとも

シンヤ

ここにいたい?

ハヅキ

絶対やだ

シンヤ

だろ?

ハヅキ

言われてみれば

ハヅキ

本当に今さらだったね笑

シンヤ

不安になる気持ちは
分かるけどさ笑

ハヅキ

ごめん笑

シンヤ

シンヤ

抜け出そう

シンヤ

2人で

ハヅキ

うん

ハヅキ

約束っ

シンヤ

早く行きたいよな

ハヅキ

絶対良いとこだよね

シンヤ

でも重力がヤバいらしい

ハヅキ

ここの6倍だっけ?

シンヤ

そうそう

シンヤ

ただでさえちっこいハヅキの身長が

シンヤ

さらに縮むな笑

ハヅキ

ははははっ笑

ハヅキ

ねー笑

ハヅキ

1発殴らせてよ?

〝月面コロニー〟

ここはそう呼ばれている

俺とハヅキが 生まれ育った場所

水も食糧も空気も設備も

完璧に自給自足できていて

治安も秩序も狂いない

人口1200万程度の俺たちの家だ

〝人類の夢見た理想郷〟

とも言われていて

確かに不自由をしたことは ほとんどない

じゃあ何故

〝理想郷〟とまで呼ばれたこの場所を

抜け出そうだなんて考えたか

それは この場所が持つ

秘密主義のせいだ

例えば目の前にある地球

あっちにも人は住んでいるし

今まで歩んできた歴史と 作ってきた文明がある

それに興味を持つのも同じ人類なら

さほど不思議じゃないだろう?

少なくとも

俺は知りたかった

だがこのコロニーは

その歴史を

隠蔽しようとする

図書館にある資料ですら

一部の情報は黒マーカーで 塗りつぶされているし

パソコンのデータベースも同様に

一部の関連ワードには異常な程の アクセス規制が掛かっていた

こういうところだ

秘密主義で、どこか息苦しくて

大人達がコソコソしているこの場所が

俺たちは嫌いだった

だから

決めた

シンヤ

2人が宇宙船を
扱えるようになったら

ハヅキ

ここから抜け出そう

その後のことなんて

さほど考えもせずに

«コロニー B-5棟 常設スクール»

[5限目 生活応用学]

先生

まあ当然ですが、

先生

宇宙空間には空気がありません

先生

だからもし、
コロニーの天窓や

先生

外部と接している部分に
穴が空いた場合

先生

どうなると思いますか?

先生

分かる人

ユウヤ

はい

ユウヤ

空気圧の差の生じから

ユウヤ

内部空間の空気が
外へ一気に流れ込みます

ユウヤ

つまり

ユウヤ

人間を含めた

ユウヤ

室内にあるものは全て
外へ放り出されます

先生

正解

先生

よく勉強していますね

先生

じゃあその場合の対処方法を…

先生

シンヤさん、
答えてください

シンヤ

…ぐがっ

ハヅキ

(ちょっと…!!
シンヤ指されてるよ!!)

ハヅキ

(この!!)

シンヤ

ふぐっ!!

シンヤ

…痛った!!

シンヤ

お前デコピンは無しだろ…!

ハヅキ

(起こしただけ有難く思え!)

先生

シンヤさん?

シンヤ

あっ…

シンヤ

えぇー…

シンヤ

隔離ゲート横、又は

シンヤ

近くに設置されている
ジェル状密閉剤で

シンヤ

穴を隙間なく塞いだのち、
周囲の人間へ避難警告。

シンヤ

全員の退避を確認し、

シンヤ

事故発生エリアを
隔離ゲートで封鎖。

シンヤ

…ですかね?

シンヤ

(教科書マル暗記)

先生

…正解

先生

(この子毎回寝てるのになんで当たるのかしら…(ꐦ°᷄д°᷅))

先生

(今度は問答無用でチョークぶん投げてやろう…)

先生

まぁただ

先生

密閉剤も耐久力はそんなにありません

先生

あくまで応急処置ですので

先生

すぐ管理部に連絡してくださいね

ジリリリリリ

先生

さて…

先生

本日の授業は終了です

先生

各自、明日までにレポートを終わらせてくるように

ハヅキ

駄目じゃん!

ハヅキ

いつも寝てちゃさ

シンヤ

だって教科書に
全部書いてあんじゃん

シンヤ

授業なんて二度手間だろ?

俺たちは住居エリアへと続いている

水平型エスカレーターの上で 他愛のない話を駄べっていた

左横には強化ガラスで出来た 曲面を描く透明な壁があって

青い地球が一望出来る

特に授業終わりのこの時間は

太陽の角度も丁度いいらしく

地球が 綺麗なコバルトブルーに輝いた

シンヤ

(〝コレ〟だけは)

シンヤ

(コロニーでしか
見れないんだろうな…)

ハヅキ

…先生の言ってることも
さっぱりだしさ

ハヅキ

だいたいユウヤ君も凄くない?

ハヅキ

よくあんな迷わず答えら…

ハヅキ

ハヅキ

…ね〜、聞いてる?

シンヤ

…ん?

シンヤ

あぁー

シンヤ

それはハヅキが
ポンコツのせいだな

ハヅキ

はぁ!?

ハヅキ

絶対話聞いてなかったよね!?

シンヤ

聞いてた聞いてた

ハヅキ

じゃあ尚更ぶっ飛ばす

シンヤ

うそうそ笑

シンヤ

冗談だって笑

ハヅキ

もー…

ハヅキ

ほんと、シンヤって
そーいうとこあるよね

ハヅキ

ほっ…!

ハヅキはエスカレーターの上で 軽くジャンプをすると

体育座りのように身体を丸めながら クルクルと宙を舞った

ハヅキ

私、これやるのだけは好き笑

ハヅキ

重力が弱っちーここでしか出来ないよね笑

ハヅキが回転しながら にこにこと微笑む

シンヤ

よく酔わないよなー

シンヤ

そんなクルクル回転してさ…

シンヤ

あー見てるだけで
気持ち悪くなってきた…

ハヅキ

シンヤはそんな
酔いやすいのに

ハヅキ

よく宇宙船の
免許取れたよね笑

シンヤ

あれは気合いと根性で
どうにかなるんだよ

シンヤ

でもそのクルクルは最悪

ハヅキ

弱っちーやつー笑

ハヅキ

あっ

ハヅキ

もう家着いちゃった

彼女は宙を舞いながら ガラスの壁をトッ…っと少し蹴ると

そのまま流れるように カードキーで家の鍵を開けた

ハヅキ

また明日ね👋🏻

シンヤ

あいよー✋🏻

シンヤ

ただいまっ

父さん

おう

家に帰ると

この時間にしては珍しく 親父がいて

ダイニングテーブルで飯を食べていた

シンヤ

あれ、今日仕事は?

父さん

さっき戻って来た

父さん

まぁこれ食べ終わったら
また出るんだけどよ

シンヤ

珍しいじゃん

父さん

最近機器の不調が多くてな

父さん

特に船関係のが

父さん

いい大人の技師達が
総出であたふたよ

シンヤ

そりゃ大変だ笑

父さん

先週の太陽フレアが
原因だとは思うんだけどな

シンヤ

あー…

シンヤ

あの時停電凄かったもんね

親父はエンジニアをしていて

身近な家電から宇宙船まで

色々な物をメンテナンスしたり 修理したりするのが仕事らしい

仕事仲間の技師たちには

〝ボス〟とか〝オヤジ〟 って呼ばれてるし

多分ちょっと偉いんだと思う

色々不器用でやかましいけど

男手ひとつで俺を育ててくれて

本当に感謝してる

父さん

んんっ!?

父さん

やばい、もう行かないと!

スプーンで食器の料理を 一気にガツガツと掻き込む

シンヤ

あら、お疲れさん

父さん

今日は前みたいに無理しないで先に寝てな?

父さん

行ってくる!!

親父は洗い場にトレーを放り投げると

バタバタと慌ただしく外へ出て行った

シンヤ

頑張ってな〜

シンヤ

感謝してる

けど

俺の見えないところで 柄にもなく泣いていたり

夜遅くまで頭を抱えて 仕事じゃない何かに没頭していたり

親父も俺に何かを隠してる

大きな何かを

それに

俺と話していても

〝俺に〟話していない気がする

言葉にするとなんか変に思えるし

何言ってるか分からないと思うけど

そんな気がしてしまうんだ

この奇妙な居づらさも

コロニーを抜け出そうと考えた 理由の一つなのかもしれない

シンヤ

ってぇー…

シンヤ

普通チョーク投げるか?

ハヅキ

まぁシンヤが悪いよね笑

シンヤ

ったくよー…

シンヤ

あ、そうだハヅキ

シンヤ

これ

ハヅキ

なに?

授業終わりの教室で

シンヤが私に何か差し出してきた

よく見ると

それは、よれによれまくった しわくちゃの茶封筒

軽く横に振ると ジャラジャラ音がする

シンヤ

中見てみ?

ハヅキ

え、なんかこわいんだけど笑

手のひらで受ける様にして

封筒の中の物を出してみた

ハヅキ

ん?

ハヅキ

植物の種…?

ハヅキ

え、これめちゃくちゃ
レアなんじゃないの?!

ハヅキ

どこからこんなもの…

シンヤ

植木鉢で育ててた
植物とか野菜から!

シンヤ

試行錯誤しながら

シンヤ

コツコツ集めてたんよ

ハヅキ

よくやるよ…笑

シンヤ

苗も何個か枯らしちゃったし

シンヤ

めっちゃ大変だった笑

ハヅキ

でもこれどーするの?

シンヤ

地球に着いたら
植えてみようぜ笑

シンヤ

地球って大地からでも
植物が育つらしいし

シンヤ

俺たちの畑とか作ったら

シンヤ

めっちゃくちゃ
楽しそうじゃない?笑

ハヅキ

おーいいねー!

ハヅキ

やろやろ笑

ユウヤ

2人ともなんか楽しそうだな

ハヅキ

!?

シンヤ

ゆ、ユウヤ…

ユウヤ

何やってんの?

ハヅキ

えっと…

ハヅキ

し…シンヤが植物の種を
集めてるって話してたの

シンヤ

そうそう!!

ユウヤ

ふーん…

ユウヤ

ま、いいや

ユウヤ

ていうか用件は別なんだよ

ユウヤ

シンヤ今日暇?

シンヤ

まあ忙しくはないかな

シンヤ

どうした?

ユウヤ

ちょっと見せたいものがある

ユウヤ

多分めちゃくちゃ喜ぶと思う

シンヤ

え、なんだよそれ!笑

ハヅキ

あー…
私先に帰ってるね?

ハヅキ

なんか水差しちゃ悪いし

ハヅキ

この後教習もあるし!

シンヤ

あぁ、ごめんな!

ユウヤ

じゃあね

ハヅキ

ほーい

«管理エリア行き エスカレーターにて»

シンヤ

で、

シンヤ

見せたいものってなに?

ユウヤ

アトランティス号って

ユウヤ

知ってる?

シンヤ

アトランティス…?

シンヤ

シンヤ

…あっ

シンヤ

もしかして、

シンヤ

スペースシャトルか?

ユウヤ

さすが首席

ユウヤ

それだよ

シンヤ

え、だって40年前に
地球で解体されたんだろ?

シンヤ

記念館に展示するだけでも

シンヤ

維持費が馬鹿にならないって

シンヤ

図書館のPCデータベースで見たぞ

ユウヤ

もう情報化社会になって一世紀経つんだよ?

ユウヤ

情報操作を舐め過ぎ

ユウヤ

真実なんていくらでも
偽装出来るんだよ

シンヤ

じゃあ解体は嘘?

ユウヤ

そゆこと

シンヤ

マジかよ…

シンヤ

でも、

シンヤ

それが今から見れると!

シンヤ

最高じゃん…

ユウヤ

言ったでしょ?
めちゃくちゃ喜ぶって

シンヤ

いやぁ〜

シンヤ

まぢテンション爆上げですよ!

ユウヤ

シンヤ

なんだよ?

ユウヤ

…シンヤってたまに
アホの子っぽくなるよね

ユウヤ

(なんて言えない)

シンヤ

それ多分かっこが逆だわ

人気の少ない管理エリア

その真っ白な廊下の突き当たりで

ユウヤがバッグをゴソゴソ探っている

シンヤ

大丈夫か?

ユウヤ

うん

ユウヤ

…あった

ユウヤ

このカードキーで

横の四角いカードリーダーに カードをかざすと

『関係者以外の使用厳禁』と書かれた 重々しいエレベーターのドアが

ピピーッと高い音と共に

いとも簡単に開いた

シンヤ

うわ、本当に開けられんのか

シンヤ

すげーなそのカードキー

ユウヤ

プログラムをちょっと
いじった

ユウヤ

多分なんでも開けられるよ

シンヤ

お前やるな…

シンヤ

てか意外とワルだな笑

ユウヤ

長年こんな無機質な
ところにいたらさ

ユウヤ

誰だって少しは
荒むんじゃない?

ユウヤ

ちょっと悪戯したくなるよね

シンヤ

人って
見かけによらないもんだな

ユウヤ

まあね

ユウヤ

ほら

ユウヤ

見つかる前に早く乗ろうよ

シンヤ

おけおけ

ユウヤ

えっと

ユウヤ

B25階

ユウヤ

だったかな

ユウヤは だった〝かな〟と言いつつも

迷わずそのボタンを押した

そのままゆっくりドアが閉まると

エレベーター内が少し薄暗くなる

シンヤ

結構潜るんだな?

ユウヤ

情報操作までして隠すものだよ?

ユウヤ

そりゃ人目のつかない所に置くよ

シンヤ

まあ確かに

ユウヤ

シンヤ

この閉塞感と薄暗さのせいだろうか

何か話そうとしたけれど

開こうとする口が少し重たかった

ユウヤ

ユウヤ

シンヤってさ

シンヤ

え?

ユウヤ

ハヅキさんのこと

ユウヤ

好きなの?

シンヤ

なんだよいきなり…笑

ユウヤ

いつも2人でいるからさ

ユウヤ

そうなのかなって

シンヤ

んー…

シンヤ

まぁ…

ユウヤ

まぁ?

シンヤ

好き…かな

ユウヤ

ユウヤ

そっか

シンヤ

へんな反応するなよ!笑

シンヤ

恥ずかしくなるだろ!!笑

ユウヤ

あ、着いたよ

シンヤ

うわ暗っ!!

ユウヤ

ホントだ

ドアが開くと

先の見えない真っ暗な廊下が 奥へと続いた

シンヤ

電気電気…

カチカチ…

シンヤ

あれ、つかない

ユウヤ

壊れてるのかな?

シンヤ

あーもしかして

シンヤ

この間の太陽フレアのせいかも

シンヤ

親父がそのせいで機器の
調子が悪いって言ってたわ

ユウヤ

なるほどね

ユウヤ

修理が間に合ってないんだ

ユウヤ

ここあまり使わないみたいだし

シンヤ

どーすっかな…

ユウヤ

ま、ライト持ってるんだけどね

シンヤ

ほんっと抜かりねーな…

カチッ…

ユウヤ

これでもちょっと暗いね

シンヤ

まぁ無いよりはマシだな

シンヤ

先、進もうぜ

ユウヤ

うん

静かにゆっくり歩み始めると

俺たち2人の足音が

黒く暗い廊下の奥に 吸い込まれていく

カツ…

コツ…

カツ…

コツ…

ユウヤ

ユウヤ

なんかヘンだな

シンヤ

何が?

ユウヤ

前来た時と少し違うような
気がする

シンヤ

怖いこと言うなよ…笑

シンヤ

フロア間違えた?

ユウヤ

かもしれない

ユウヤ

でも気のせいかもしれないし

ユウヤ

もうちょっと進んでみよ

シンヤ

合ってればどの辺にあんの?

ユウヤ

あそこ

ユウヤがライトの光で 左奥側のドアを照らした

シンヤ

後ホントに数歩だったな笑

タッタッタッ…と ドアの目の前まで走る

シンヤ

…あー、でもさユウヤ

シンヤ

ここ停電してるし、

シンヤ

しかも基本電子ロックだし、

シンヤ

ドア開かないんじゃない…?

ユウヤ

ユウヤ

…いや

ユウヤ

ここだけ
予備電源入ってるみたい

シンヤ

ユウヤがカードを手にして

ゆっくりとカードリーダーに近付けた

ピピーッ

シンヤ

開いた…

ドアが音を立てて開く

室内もかなり暗かったけど

目の前にはビニールのノレンの様な ものが見えた

シンヤ

(衛生室…?)

ユウヤ

シンヤ

ユウヤ

ここ絶対違うフロアだ

ユウヤ

前こんなの無かったし

シンヤ

じゃあ…戻るか?

シンヤ

…っ

シンヤ

でもなぁ…

先が気になってしまう

シンヤ

…なぁ

シンヤ

少し

シンヤ

見ていかね?

ユウヤ

ユウヤ

僕達って

ユウヤ

やっぱりちょっと似てるよね

ユウヤがずんずん中に進んで行く

シンヤ

そうこなくちゃ笑

びらびらとしたノレンをくぐると

またさらに目の前に ガラス張りの部屋が見えた

シンヤ

中は…

目を凝視してみるけれど

シンヤ

暗くてよく見えねーな…

ユウヤ

シンヤこっち

ユウヤの見つけた右奥のドアから

ゆっくりと

慎重に

中に進んでいくと

人感センサーに反応したのだろうか

ブゥン…という音と共に

室内が

ブラックライトに照らされた

シンヤ

!?

ユウヤ

コレって…

ユウヤ

人…?

シンヤ

なん…だよコレ…

部屋の中央には

直径1メートル程の

透明な液体で満たされた 円柱カプセルがあって

中には胎児から生後3ヶ月くらいの 子供が入っている

そして部屋の側面には

白装束を着せられた

10代から20代くらいの男女達が

まるでハンガーに掛けられた 洗濯物の様に

壁面に吊るされていた

よく見ると

壁面の一部には 『Body』と書かれている

シンヤ

人体実験してるのか…?

ユウヤ

これ見ちゃヤバいやつかも

シンヤ

本当に…

シンヤ

何が人類の理想郷だよ…

ユウヤ

シンヤ?

シンヤ

…なぁ

シンヤ

ユウヤも行こう

ユウヤ

どこに?

シンヤ

地球

ユウヤ

マジで?

シンヤ

こんな所にいられるかよ

シンヤ

いるもん用意したら

シンヤ

18時に俺ん家前集合な!

シンヤ

急げよ!!

ユウヤ

分かった!

水平型エスカレーターの上を全力で 駆けていく

シンヤ

甘かった…

シンヤ

免許取ったらだなんて
言ってる場合じゃなかった…!

シンヤ

こんなところ…

シンヤ

とっとと
逃げ出してやる…!!

シンヤ

通話終了

通話
00:00

シンヤ

ハヅキ聞こえるか!?

ハヅキ

お、シンヤじゃん〜

ハヅキ

ねー聞いてよ
さっき実技教習でさ…

シンヤ

いいから荷物まとめて
早く俺ん家に来て!!

ハヅキ

え、なんで?

シンヤ

早く!!

ハヅキ

わ、分かった…!

シンヤ

通話終了

通話
00:12

シンヤ

よし…!

シンヤ

あとは俺の準備だけ…!!

カードキーで玄関を開けて

リビングまでドタドタ走っていくと

父さん

シンヤ

父さん

…どこ行ってたんだ?

親父がリビングテーブルで 小物の修理作業をしていた

シンヤ

親父…

父さん

汗だくじゃねーか

父さん

大丈夫か?

シンヤ

な、なぁ親父…

シンヤ

一緒に​──

父さん

どこまで見た

シンヤ

…え?

父さん

どこまで見た

父さん

地下で

親父は

ゆっくりと立ち上がると

今まで見たことない様な

感情を消した冷たい目つきで

俺を

見た

父さん

答えろ

シンヤ

嘘…だろ…

シンヤ

嘘だ…!

シンヤ

嘘だ嘘だ嘘だ!!!

父さん

シンヤ!!!

考えるよりも先に 身体が動いていた

荷物も持たずに玄関を飛び出す

ハヅキ

あっ…

ユウヤ

シンヤ…?

シンヤ

二人共!

シンヤ

行くぞ!!

ハヅキ

はぁはぁ…!!

ハヅキ

シンヤどういうこと!?

シンヤ

コロニーの奴ら

シンヤ

地下で人体実験してたんだ

ユウヤ

ヤバかったよね

ハヅキ

え、ちょっ…

ハヅキ

全然状況が
飲み込めないんだけど…

ブヅンッ

ビィィィー!!ビィィィー!!!

ハヅキ

わわっ!
なになに!?

廊下の照明が一度全部落ちると

甲高い警告音と共に 真っ赤なライトに切り替わった

シンヤ

ヤバい…

ユウヤ

警備隊が来るね

シンヤ

急ごう…!!

«3番整備エリア 搬出ゲート前»

警報がなったせいだろうか

整備エリアには人ひとりいなかった

なんにしても

こちらにとっては都合がいい

ハヅキ

どの船…!?

シンヤ

アレだ!

エリアの左奥にある

トビウオを連想させる形の 小型宇宙船

ユウヤ

第5世代の船?

シンヤ

あれなら30分で地球に着く!

ハヅキ

行こ行こ!!

走ってデッキまで行き

船のロックを外して荷物を放り投げる

シンヤ

ハヅキ早く乗って!

シンヤ

ついでに
エンジン掛けられるか?!

ハヅキ

今日実技でやった!!

ハヅキ

任せて!!

シンヤ

ユウヤも早く!

ユウヤ

シンヤ

ユウヤ

宇宙服忘れてる

船の中に宇宙服も放り込まれる

シンヤ

さんきゅッ…

シンヤ

ん?

シンヤ

2着しかないぞ?

ユウヤ

ユウヤ

僕はいいや

シンヤ

何言ってんだよ!?

ユウヤ

誰かがあのゲート
手動で操作しなきゃいけないし

ユウヤ

それに

ユウヤ

足止めも必要でしょ?

シンヤ

お前はどうするんだよ

ユウヤ

僕が抜かりないこと

ユウヤ

知ってるでしょ?

ユウヤ

ちゃんと時間稼ぐから

ユウヤ

行って

シンヤ

ふざけんなって!

シンヤ

無理に決まってんだろ!!

ユウヤ

ハヅキさんのことっ!!

ユウヤ

ちゃんと守ってあげて?

ユウヤ

頼むよ

シンヤ

まさか

シンヤ

お前…

ユウヤ

さようなら

ユウヤはそう放つと

外から船のロックを掛けた

シンヤ

ユウヤ!!

シンヤ

…っ

シンヤ

ちくしょう…

ハヅキ

ユウヤくんは?

シンヤ

…あいつは来ない

シンヤ

シンヤ

…行こう

ハヅキ

え、あ…

ハヅキ

うん…

船がゲートに向かって 少しずつ前進する

ハヅキ

あっ

ハヅキ

ユウヤくん…

船のフロントガラスから

ゲート操作盤を弄るユウヤが見えた

俺たちに気が付くと

ユウヤ

👍🏻

無表情で

あいつに似合わないグーをした

外に空気が漏れるのを防ぐために

ゲートは二重構造になっている

その一枚目のゲートが開いて

船が完全に二枚の間に入ると

そのまま1枚目のゲートが閉まった

ユウヤの姿も

見えなくなる

ハヅキ

ユウヤくん無事かな…

シンヤ

そう願うしかない…

数秒おいて

2枚目のゲートも ゆっくりと開いていく

目の前には

あれ程遠く感じた地球が見えた

ハヅキ

わぁ…

〝備えあれば憂いなし〟

それが僕のモットーであったけれど

今の僕には

あろう事か

その備えがなかった

ユウヤ

『僕が抜かりないこと、
知ってるでしょ?』

ユウヤ

なーんてこと言って

ユウヤ

かっこつけちゃったなぁ

警備部隊員

おいお前!

警備部隊員

そこを動くな!!

ガチガチの装備に身を包んだ 警備隊達が

僕に銃口を向けてくる

ユウヤ

わぁー

ユウヤ

こりゃキツイなぁ…

ユウヤ

これしかないな

ユウヤ

ねぇ、お巡りさん

ユウヤ

空気圧差は…

ユウヤ

ご存知ですよね?

警備部隊員

おい!
制御盤に触るな!!

僕は2枚目のゲートを開けたまま

ユウヤ

悪いんだけど

ユウヤ

あの子が好きなんだ

1枚目のゲートも開いた

シンヤ

あと10分…

シンヤ

もう少しで大気圏突入だな

ハヅキ

運転任せちゃってごめんね

シンヤ

いいって

シンヤ

今のうちに宇宙服着とけ?

ハヅキ

うんっ

ハヅキ

でも…

ハヅキ

本当に脱出しちゃったね…笑

シンヤ

だな笑

ハヅキ

ハヅキ

まぁ…

ハヅキ

なんか…

ハヅキ

思ってたのと違ったな…

シンヤ

コロニーから離れることか?

ハヅキ

うん

ハヅキ

もっとこう

ハヅキ

明るさというか…

ハヅキ

希望を持って
出れるのかと思ってた…

ハヅキ

いい場所で暮らせるんだって

シンヤ

まぁな…

シンヤ

地球について
あれこれ考えてる時が

シンヤ

1番楽しかったかもな笑

ハヅキ

うん…笑

ビーッ

ビーッ

ハヅキ

なんの音?

シンヤ

これは…

シンヤ

っ…!!

船の電子見取り図を見ると

この船の右翼部分で

赤いランプが点滅していた

【DANGER】

こんな分かりやすい警告が あるだろうか

シンヤ

機器の不調…

シンヤ

修理途中だったんだ…

ハヅキ

どゆこと…?

シンヤ

大気圏で空中分解する

ハヅキ

えぇ!?

シンヤ

でも

シンヤ

もう地球の重力圏内だから

シンヤ

引っ張られて
引き返せないし…

ハヅキ

どーするの!?

シンヤ

シンヤ

船の後ろにある脱出ポッドに

シンヤ

何か入ってるかも

シンヤ

ちょっと探してみて?

ハヅキ

分かった…!!

ハヅキ

うーんと…

ハヅキ

3週間分の非常食と…

ハヅキ

水と…

バタンっ

ハヅキ

え?

ハヅキ

ちょっとシンヤ

ハヅキ

ふざけてる場合じゃないでしょ笑

ハヅキ

扉開けてよ笑

シンヤ

ごめんな

ハヅキ

シンヤ…?

シンヤ

脱出ポッドは一人乗り

シンヤ

どっちが残るかって考えれば

シンヤ

まぁ俺だろうな

シンヤ

ハヅキだけでも行ってくれ

ハヅキ

はぁ!?

ハヅキ

ちょっと何言ってんの!!

ハヅキ

開けてってば!!

ハヅキ

まだ何か案が…

シンヤ

…ない

シンヤ

言えば、
これが案だ

ハヅキ

ねぇ…止めてよ

ハヅキ

畑作るんでしょ…?

ハヅキ

二人で一緒に色々
見て回るんじゃなかったの?

シンヤ

すまねー

シンヤ

畑はハヅキに任せた笑

ハヅキ

…いや

ハヅキ

いやいやいやいやっっ!!!

ハヅキ

開けて!開けてよ!!!

ハヅキ

アホ!ポンコツっ!!

ハヅキ

この馬鹿っ!!!

ハヅキ

ばか…ばかっ…

シンヤ

水やり

シンヤ

サボるなよな…?

シンヤ

お前…飽き性なんだから笑

ハヅキ

シンっ​───

シンヤの残った船から

ポッドは だんだんと離れていく

ハヅキ

うわああああっっっ!!!

ハヅキ

シンヤっ!シンヤっっ!!

大気圏に突入すると 船の周りが燃えるように赤くなって

跡形もなく

散り散りに消えていった

ハヅキ

あっ…

ポッドが

ガタガタと大きく揺れ始める

身体にかかるGが強くなってきて

私は

ゆっくりと意識をなくしていった

ゴムを焦がした様な 嫌な焦げ臭さと

大気中の微量な有害物質の検知 を知らせる甲高い警報で

私は目を覚ました

ハヅキ

うぅ…

ハヅキ

最悪っ…

宇宙服を着ているのになんで 臭うのかと思えば

ヘルメットの前面ガラスが割れていた

ハヅキ

どおりでくさいわけだ…

ハヅキ

着いた…の…?

ポッドの扉は黒焦げなうえに 半分割れるように壊れていて

思いっきり蹴っ飛ばすと 私の力でも残りの扉が吹っ飛んだ

ハヅキ

はぁ…はぁ…

這いつくばって

ポッドから抜け出す

ハヅキ

身体おっんも…

ハヅキ

重力6倍って本当だったんだ…

ハヅキ

でも…見れる…

ハヅキ

地球って…どんな…

重い身体を踏ん張らせながら

プルプルと直立する

ハヅキ

…え

私の目の前に映ったのは

シンヤと2人で話していたような

高層ビルがそびえ立ち

人々が行き交う文明の星ではなかった

ハヅキ

これが…地球…?

存在した建物たちは

吹き荒れる砂嵐に埋もれ

自然をかたどった木々たちは

黒い炭のように成り果てていた

もちろん人なんて影すらもない

ハヅキ

あてもなく、とぼとぼと

かつてコンクリートジャングル と呼ばせた

ビルたちの廃墟の間を 縫って歩いてゆく

一度

ふと、視線の向いた 埋もれていた表示板には

『Tokyo』と書かれていた

ハヅキ

ここが都心…?

文明はとっくに滅んでたんだ

そんなことも知らずに

私たちは…

ハヅキ

あぁ…

ハヅキ

身体が…辛い…

ハヅキ

もう…

ハヅキ

ダメ…

ハヅキ

シン…ヤ…

トサッ…

……

ぃ…

………

ぉい

………

おい!!

生きてるか!?

ハヅキ

ぅ…

水…飲めるか…?

ハヅキ

んくっ…

ハヅキ

くっ…くっ…くっ…

ハヅキ

はぁはぁ…!!

ハヅキ

生き…

ハヅキ

返った…!!

ハヅキ

ありがとうござ…

ハヅキ

っ…!?

おいおい…!

嘘だろ…!?

髪と髭が伸びて

少し大人っぽくなった?

背も少し大きく…

でも

間違うはずがない

目の前のその人は

紛れもなく

ハヅキ

シンヤ…!?

シンヤ

ハ…ヅキ…

シンヤ

お前…

シンヤ

なんでここに…?

シンヤ

まさか空から…

ハヅキ

うそっ…

ハヅキ

本当にシンヤ…??

ハヅキ

なんで…

守りたい虚偽

消したい真実

正しい勘違い

間違えた確信

それはきっと

割と身近に

存在する

この作品はいかがでしたか?

2,111

コメント

32

ユーザー

読ませていただきました!!! とっても面白く、長いはずなのにあっとゆう間に読み切ってしまいました🙌 考察いたしましたが、めちゃくちゃ長くなった為にTwitterに掲載しております🙏 またお時間ある時に是非、お目通しを🙄

ユーザー

この話を読んだのはこれで3度目、です…。 8月頃に出されたストーリーを現在10月後半に差し掛かっても読んでるとは もう少しで依存症かも。😶 やっぱ何度読んでも難しい…シンヤはなんで生きてたんだろう? やはりもっと読む他ないですね

ユーザー

わんだふるおさん 再度ありがとうございます( ;∀;) 考察までして頂いて本当に嬉しいです。 これからもどうぞよろしくお願いします🙏🏻

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