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何とか言ってあげないと…矢城は何も悪くない
真
真
矢城は無表情で真を見た後、ふっと目を閉じた
再び目を開き、彼女に歩み寄る
矢城
抑揚のない静かな声だった
真
矢城
帽子の影にある瞳は黒く染まっている
彼女の言葉さえも吸い込んでしまうような、虚空のような色
矢城
矢城
淡々と、迷いなく言葉を落とす
かすかにノイズが聞こえた
矢城
矢城
真
彼は真を通り過ぎて走り出した
「だから僕は、少しでもみんなの…」
真
真は彼の行った通路を走った
わずかに足が遅れる
曲がり角に差し掛かり、彼の姿を探すも見当たらなかった
代わりに、遠ざかる足音だけが聞こえる
真
彼も自分も、この世界のことはわからない
彼女は再び走り出した。こちらの方面に出口はないはずだ。まだ本部内にいる
真
通路には彼女の声とヒールブーツの音が響き始めた
–医務室–
「各員に通達。16時45分、第三部隊所属訓練兵•矢城勇也が所在不明。第三部隊員は直ちに捜索に当たれ。繰り返す––」
美羽
第二部隊員
第二部隊員
どういうこと?不明って、どうして?
わたしは思わず治療の手をとめた。真から繰り返される要請が幻聴であることを祈る
ちがう、本物だ
第二部隊員
美羽
反射で礼をして、手袋を外す。みんなからの視線がいたい
わたしがもっと強ければ勇くんは無理せずに済んだんだ
「もうあの頃の僕じゃないんだから」
…わたし、正しいこと言ってたのに。もっと強く引き止められれば−
頭を強く振る。涙を流す暇があったら、動くべきだ
廊下に出たところで行くあてはない
美羽
彼のことはわたしが1番知ってる。そう思いたかった
エントランス、アーカイブ室、総隊長室、カフェテリア、仮眠室…
どこに行っても人はいるだろう
どうしても彼のあのときがフラッシュバックしてしまう
耳を塞いだ
美羽
美羽
美羽
楽に?
美羽
全身から血の気が引いた
急な方向転換に足を滑らす
階段までが、遠い。自分の心臓の音が大きい
この一歩のせいで間に合わなかったら?
夢の中みたいに走るのが遅く感じた
–屋上–
階段を駆け上って、わたしは雪さんに借りた鍵で屋上の扉の施錠を外す
重い鉄扉は耳につき刺さるような音を立てて軋んだ
美羽
鉄柵の前に立つ人影に呼びかける
勇くんは、普段と変わらずゆっくりと振り向いた
驚いたような、けれどどこか安心したような顔だった
ゆっくりと彼に歩み寄る
矢城
美羽
美羽
矢城
彼は力無くほほえんだ…ように見えた
美羽
矢城
矢城
声が反響しない
夢だと錯覚しちゃうほど、体が重い
生ぬるい夏の風。頭上に広がる青空は絵のように平面的だ
矢城
矢城
予想外の言葉に驚いて、わたしは「えっ」と声を漏らす
矢城
矢城
ちゃんとした笑顔
ちゃんとした、良い子の笑顔
美羽
矢城
矢城
その瞬間、彼は鉄柵に手をかけた
乗り越えようと思えば、わたしでも乗り越えられる高さ
その下に広がるのはコンクリートの地面だ
美羽
わたしは咄嗟に彼の手首を掴んだ
手は鉄柵から離れない
美羽
美羽
自然と溢れた言葉だった
目が熱くなる。紙に水を垂らしたみたいに世界がぼんやりとにじむ
彼は振り返らない
矢城
目は隠れて見えない。代わりに、薄く引きつった口角だけ見えた
一瞬、鉄柵を握る彼の手の力が緩んだ
その隙にわたしは彼をぐっと引き寄せる
思いのほか、容易く彼はバランスを崩した
美羽
まだ戻って来れる。帰れる
わたしは彼の手を握って、彼の顔を真正面から見る
それまで気がつかなかった
手が異様に冷たくて、瞳が深い青で–
影が、濃いことに
気づいたら彼のひくい声にはノイズがのっていた
矢城
矢城
ど ろ り
ここにいちゃだめだ
直感でそう思って彼の手を離した
けれど、遅かった
世界が白黒になる
息が凍ってしまうような冷気
聞き覚えのあるチャイム
矢城
矢城
矢城
わたしに向けられたものは、弓矢
ただ一つ聞こえたのは、心臓の音
17:00。屋上にて第三部隊所属訓練兵•矢城勇也の影化を確認。同時刻同位置にいた第三部隊及び第二部隊所属訓練兵•園崎美羽は既に結界に取り込まれた模様
ーBAD ENDー