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隣の席の君へ

10 - 好き

2025年08月15日

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夜の住宅街は静かだった。 街灯の下、二人の影が並んで伸びている。

颯真の家の前に着くと、彼は立ち止まって振り返る。

颯真

…ここまででいい。ありがとな

大翔は、頷きかけて、でも足を止めたまま動けなかった。

大翔

…なあ、颯真

颯真

ん?

大翔

…もうちょっとだけ、ここにいてもええ?

颯真は、少しだけ眉をひそめる。

颯真

…なんだよ、急に

大翔は、言葉を探すように視線を泳がせて、それからゆっくりと一歩近づく。

大翔

…俺、今…お前のこと、めっちゃ好きやと思う

颯真の目が、わずかに揺れる。

颯真

…は?

大翔

昨日からずっと考えてて、今日一緒にいて、たこ焼き食って、漫画読んで…

大翔

帰るって言われた瞬間、心臓がギュッてなって

大翔は、言葉を止めて、そっと颯真の肩に手を添える。

大翔

…ごめん、ちょっとだけ

そのまま、ゆっくりと颯真を抱きしめる。 戸惑った颯真は、動けずに立ち尽くす。

大翔は、そっと肩に頭を埋めるようにして、低い声で言う。

大翔

…お前が隣にいると、俺、ちゃんと生きてる気がする

沈黙が流れる。夜風が、ふたりの間を優しく通り抜ける。

颯真は、何も言わずに立っていた。 でも、颯真の手が、ゆっくりと大翔の背中に触れた。

颯真

…バカだな

大翔

せやな。でも、バカでもええ。お前が、俺のこと見てくれるなら

二人は、しばらくそのまま動かなかった。 夜の静けさが、二人の鼓動だけを包んでいた。

大翔の腕の中で、颯真はしばらく黙っていた。 肩に感じる体温、耳元に届く呼吸。 全部が、今までとは違っていた。

やがて、颯真がゆっくりと体を離す。大翔の腕が、自然とほどける。 二人の距離は、ほんの数十センチ。でも、空気は濃密だった。

颯真は、少しだけ目を伏せてから、静かに口を開く。

颯真

…それって、告白?

大翔は、目を見て、迷いなく頷いた。

大翔

うん。俺、颯真のことが好きや

その言葉は、まっすぐで、飾り気がなかった。 でも、だからこそ、颯真の胸に深く届いた。

颯真は、目をそらさずに大翔を見つめる。 その瞳の奥に、揺れと、少しの光が混じっていた。

颯真

…俺、そういうの…よくわかんねぇけど

大翔

うん

颯真

でも、お前といると…落ち着く。楽しい。安心する

大翔

それでええと思う

少し沈黙が流れる。でも、二人の間には、もう迷いはなかった

颯真は、少しだけ笑って、言った。

颯真

…じゃあ、俺なりに、受け取るよ

大翔は、目を見開いて、それから嬉しそうに笑った。

大翔

…ほんまに?

颯真

…ああ。まっすぐだから…お前の言葉、信じられる

二人は、並んで立ったまま、夜の空を見上げた。 星が、少しだけ顔を出していた。

夜風が、ふたりの間を静かに通り抜ける。 告白の余韻が、まだ肌に残っているような感覚。 颯真は、玄関の前に立ったまま、少しだけ顔をそむけていた。 大翔は、隣で黙ってその背中を見ている。

沈黙が続いたあと、颯真がぽつりと口を開く。

颯真

…俺たち、付き合うことになったんだよな

その言葉は、確認というより、呟きに近かった。大翔はすぐに頷く。

大翔

うん。俺は、そう思ってる

颯真は、少しだけ目を伏せて、ため息のような息を吐く。

颯真

…なんか、変な感じだな

大翔

変って?

颯真

…昨日まで、ただの友達だったのに。今は…お前のこと、ちょっと意識してる

大翔は、嬉しそうに笑う。

大翔

俺は、昨日からずっと意識してたけどな

颯真

…バカか

大翔

せやな。でも、俺の彼氏がそう言うなら、バカでもええわ

颯真は、目を見開いて、大翔を見つめる。

颯真

…彼氏って、言うなよ

大翔

なんで?事実やん

颯真

…まだ慣れてねぇんだよ

大翔は、少しだけ笑って、颯真の肩を軽く叩く。

大翔

じゃあ、ゆっくり慣れていこ。俺は、急がへんし

颯真は、玄関のドアに手をかけながら、ぼそりと呟く。

颯真

…ありがとな

大翔

こちらこそ

ドアが開く。 二人の関係は、今まさに開き始めたばかりだった。

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