君の初恋泥棒

気づいたら、野原は消えていて

辺りは真っ暗で

水中にいるみたいにふわふわと体が不思議な感覚に包まれる

でも不思議と苦しくは無い

水中に反響しながらふと、誰かの声が聞こえた

起きて

○○

誰の声だろ

多分、知ってる人だ

○○

私の名前を呼んでる？

声を出そうにも、水の中だから喋れないんだ

心地よいリズムでゆりかごのように水が揺れる

まだ眠いよ

だけど

○○、起きて

段々と声は大きくなってくる

○○

なーに？多分その声、 英でしょ？笑

早く、起きて

あと５分だけ それとももう 遅刻ギリ？

○○

もう、分かったって

もう起きるから

ねぇ、○○

何？

俺──

目が覚めると、君が眉を下げて笑っていた

私の体は君の両腕に包まれていて

私の手にはちゃんと渡すはずだった紙袋が握られたままだった

その言葉を聞いたら、君は気づいたんだと分かった

ついさっき約束したばかりの君

君が正門にいたのは、私を待っていてくれたからだったんだね

未来は変わった

私は、ﾀﾋななかった

おかしいなぁ

伝えたいこと沢山あったはずなのに

なんか、変な気持ち

気持ちがいっぱいっぱいで

何を言っていいのかわからない

久々に聞いた気がした

君が私を名前で呼んでくれたのを

君のその笑顔が眩しくて

言われていることを素直に信じていいのか分からなくて

でもそれ以上に嬉しくて

涙が溢れて止まらなかった

英は私の持っていた紙袋を指さす

私は涙が出すぎて喋れなくて首だけブンブン縦に振る

こんなに幸せでいいのかな

死なずに済んで、君と両思いだなんて

返事はしたものの、やっぱり嬉しさで涙は止まらない

まさかの国見からの甘々な言葉が逆に涙を引っ込めた

君は少し照れたように頬をピンクにする

私のゆでダコよりは全然マシだけど

遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた

疲れたけど、元気だ

君と笑い合えるこの時間が終わらないで欲しい

いや、終わらないよね

これから思い出沢山作るんだから

数日後

病院に行くも、私たちに大した問題はなし

かすり傷や擦り傷で済んだ

運転手の方も怪我はしたものの命に別状はなくて、一日入院したあとすっかり元気になったそうだ

結局、あの現象がなんだったのか、未だに私たちには分からない

でも確かに私達は自分たちの運命を不思議な形で変えた

どんな現象であったにせよ、感謝してもしきれない

沢山すれ違って

噛み合わなくて

辛い思いも沢山したけど

結局

君の初恋泥棒は私で

私の初恋泥棒は君だった

4年間も遠回りしちゃったけど

私は今、幸せです

𝑭𝒊𝒏.