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語彙力の塊って存在するんだ…尊敬してしまう…
語彙力でできてるんです?
語彙力の塊すんぎ
世界がまだ、理性を信じていた頃。
いや、信じている“ふり”をしていた頃。
一つの経済思想が 他を呑み込もうとしていた時代に、 彼らは出会った。
冷たく乾いた風が ベルリンの石畳を撫でる。
その風は、ユーラシアの果てシベリアから吹きつけてきたのだろうか。
否。もっと熱く、もっと濃厚な何かが、 そこにはあった。
“彼”は、鉄と血でできていた。
秩序を重んじ、混沌を憎み、 すべてを効率と美学で統べる大国。
ナチス・ドイツ
もう一方の“彼”は、雪よりも冷たく、 炎よりも熱く燃え盛っていた。
民衆の名を借りて独裁を敷き、 言葉を武器に国を染める強国。
ソビエト連邦
ふたりは敵同士だった。
それは運命であり、歴史の必然だった。
……にもかかわらず、 彼らは、手を取ってしまった。
1939年
モロトフ=リッベントロップ 条約
日名:独ソ不可侵条約
それは「不可侵」と書いて 「誘惑」と読む、 彼らの最初の接触だった。
ベッドの上で交わされたのは条文か、 それとも……。
ナチス
ナチス
ナチス
「その怪物にしか 埋められない空白が、 私の中にある。」
世界が震えたのは、 戦争の足音だけではなかった。
──そして、誰も知らない。
互いを「最も憎むべき存在」と 呼びながら、
二人は心の奥底で、 同じ夜の闇を見つめていたことを
言葉にはしない。
立場が、それを許さない。
だが確かに、目だけが知っていた。
あの夜、視線が交差したその一瞬。
一片の風花が、 鉄と血に舞い込んだ。
戦争よりも、密やかに。 革命よりも、深く。
それは、 世界で最も危険な 「恋」だった。
誰も知らぬ もう一つの歴史が、 今──幕を開ける。