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もう一度、

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もう一度、

1 - もう一度、

♥

490

2024年01月30日

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俺には

生き別れの兄弟がいる。

生き別れといっても

親が無理やり引き離しただとか

すごく幼い頃に生き別れた、という わけではない。

俺は“きょうだい児”だった。

弟は重度の発達障害。

親はそれに気づいたのか、

俺と弟を置いてそそくさと 家を出て行った。

当時はなぜ置いていかれたのか 理解できなかった。

当たり前だ。

俺は当時9歳。

弟は4歳。

幼すぎた俺たちが、それを 理解できるわけがなかった。

何の言葉も残さず出て行ったあの日。

外が暗くなってもなお、 帰ってくることを待ち続けていた。

腹を空かせ、風呂にも入らず、 幼すぎる弟と二人で一晩を過ごした。

朝が来ても帰って来ず、 何度夜が訪れても、 親が帰ってくることはなかった。

弟が発達障害であることも 知らなかった俺は、

「ママ、パパ」と泣き続ける弟を見て どうしていいのかわからなかった。

あまりにも弟の泣き声が 大きかったため、通報されたのか、 ある日警察が家にやってきた。

親がいるかどうかを尋ねられ、 いつ出て行ったのかも聞かれた。

そして、親はきっと帰って来ないと 告げられ、しばらく祖父母の家で 暮らすことになった。

祖父母は、初めのうちは優しかった。

温かいご飯を食べさせてくれて、 お風呂にも入れさせてくれた。

学校にも普通に通えたし、 友人関係も良好だった。

でも、弟が小学校に入学してから、 祖父母は変わってしまった。

テストで点を取れず、 教室でも落ち着きのない弟。

そのせいで 担任から呼び出されたりで、 元々は育てるはずではなかったのに、 という気持ちが出てきたのだろう。

それからというもの、俺たちに すごく厳しくなってしまった。

祖父母に対して嫌悪感を抱いた俺は、

中学校を卒業したら、弟を連れて 家を出ることを決心した。

県外の高校を受験するために、 必死で勉強した中学時代。

祖父母に家を出ることを話すと、 その方がありがたい、といった様子で 「勝手にしな」と言われた。

必死に勉強したおかげで、 無事に受験に合格し、 家も祖父母の同意を得て 借りることができた。

弟の転校の手続きも終わって、 バイト先も決まっていて、完璧な 新生活が始まるはずだった。

でも、蓋を開けてみると、 広がっていた世界は まるで想像していないものだった。

定時制を選んだため、朝から 昼にかけて学校に通い、学校が 終わったらそのままバイトに行く。

家に帰ったら家事をして、 少し勉強して。

次の日の3食分の飯を作って。

弟のことも気にかける。

それが俺が想像していた未来。

でも、できなかった。

弟は思った以上に子供だった。

朝は送ってやらないといけないし

帰りも迎えに行かないといけない。

飯も自分では用意できない。

何もできない。

何を考えているのかもわからない。

ああ、こういうことだったのかと

両親や祖父母の気持ちを一瞬にして 理解できてしまった。

祖父母から多少の仕送りはあるが、 到底二人で暮らしていける 金ではないため、

俺は休日返上で二人分の生活費を 稼いでいるというのに。

自分の時間を

限りある時間を無駄にしてまで

俺は

俺は尽くしているのに。

努力も

孤独も

全部

全部

受け入れたのに

我慢してきたのに

どうして

何もかもうまく行かないのだろう。

どうして俺ばかり

苦労しなくてはならないのだろう。

キラキラした高校生活も

普通の学校生活も

俺の理想は

何もかも崩れて

“憧れていたはずの思い出”として

刻まれていくだけなんだ。

そう気がついた頃には、

すでに逃げ出していた。

あの時の両親のように。

あれから弟には会っていない。

少し心に余裕ができた今、 時々ものすごい罪悪感に 襲われることがある。

置いていかれる気持ちを 知っているから。

普通ではない苦しみを 知っているから。

元気にしてるかな、なんて俺が 言えたことじゃないけど、

どうか生きててほしいと願うのは 心から愛していた証拠だろうか。

もう一度会えたら、

ちゃんと話したい、なんて 我儘、通るわけないよな。

ごめん、赤。

おにいちゃん。

俺、ずっと待ってたよ。

帰ってくるかなって。

でも、帰って来なかった。

俺、ちょっとだけだけど おにいさんになったから

俺のせいだってわかったよ。

みんな、俺を避けてるんだって。

悲しかった。

でも、何もできなかった。

俺は障がい者だから。

おともだちに何回も言われた。

「障がい者だ」って。

おにいちゃんにお話したかったな。

悲しかったこと、聞いてほしかった。

嬉しかったこと、聞いてほしかった。

もう一回、会える?

会えないよね、。

障がい者でごめんね。

もう一度会えたら、

お話しようね。

桃にいちゃん。

『もう一度、』

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コメント

2

ユーザー

こんなん泣いちゃうじゃん...🥹‪🥹 兄も弟の気持ちもどっちも分かるから 尚更切ない

ユーザー

兄も弟ももう一人の兄弟に対する申し訳なさでいっぱいで、兄も弟も自分自身に恨みの様なものを持っていることが伝わってきました。 いつかの未来、会って仲直りのようなものが出来たらいいな…

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