愛のままに

愛する人が死んだ

厳密に言えば、行方不明だ

山に登り、雪崩に巻き込まれ帰ってこなくなった

君は今、どこにいますか？

この日

1年待ち続けた彼を忘れ

新たな恋に進む決断をした

僕には記憶が無い

目を覚ますと病室にいた

雪山で雪崩に巻き込まれたのを奇跡的に救助されたらしい

しかし、身元を証明できるものを雪崩で紛失してしまい

自分の素性がわからないままだった

僕は誰なのか

2年経ってもわからずじまいだった

彼は私を本当に愛してくれる

だから愛した人の死をやっと受け止め始めた

一瞬、患者さんの中に

死んだ筈の元カレがいた気がした

散歩でもしよう

と院内を歩きまわる事にした

奥の方にいる看護師に

どこか見覚えがあった

彼女も僕を見て驚いたような気がした

きっと彼女は知り合いの筈だ

病室の方へと向かった時

彼がいた

死んでいなかったのだ

また山に行くの？

うん、サークルの仲間とね

気をつけてね

大丈夫だよ！

愛してる

全てを思い出した

俺は愛する人を抱きしめようとした

けれど

伸ばした腕は振り払われた

公也に会えたら

もう一度、抱き着いて

キスをする、そう思っていた

けれど反射的に避けた

これが、答えだ

呆然とした表情の

「愛した人」

彼は離れていった

彼女も同じように俺を愛してくれている

そんな勘違いをしていた

こんなとこなら記憶を取り戻さず

新しい人間に生まれ変われば良かった

2年後

タイミング悪く、定期検診に来ていた公也が近寄ってくる

これが私達が交わした最後の言葉