シャブシャブ　獄中自叙伝

毎年、いくら
暖冬だといっても

やはり刑務所の中は寒い

皆、かならず
しもやけになる

眠る時も
違反にはなるが
首回りを
使っていないメリヤス下着を
巻いて寝ている

就寝中は規則で
顔が確認できるくらいに
布団をかけることに
なっているが

寒くて、皆
頭まで布団をかぶっている

大体、耳にしもやけが
出来るくらいだから

その寒さは
想像できるだろう

もし夜中に
布団を頭まで
かぶっていると
容赦なく叩き起こされる

やっと眠れたのに
起こされて

あぁ～
もう寝てたのに～
とすねれば

それで文句を云えば
担当抗弁　取られて
懲罰行きや

何が一番
日本の刑務所で辛いか

それは冬だな

３月の下旬まで続く

工場の構造も古く
すきま風が
びゅーびゅー吹いて

小便もいく度も
行きたくなる

行かせてくれるが

必ず担当から
注意を受ける
厳しいところだ

冬場の
夕食についていうと

夕飯は
はじめに点呼をしてから
食べ始めるまでに
約30分くらいかかる

食事は配膳されているため
食べ物はしっかり冷えてしまう

たまにだが
肉料理がでても

房内で配る前に
冷えてしまい
肉の脂で固まってしまう

白鳥の湖って
呼ばれるほど

皿の中は
真っ白いラードの湖や

名古屋刑務所で
きしめんがよくでたが

麺は平べったくて薄い

名古屋独自の麺文化

ソウルフードのひとつ

名刑できしめんが
冬場にでた場合は
凍結注意や

お椀の中で
汁はしっかり
表面から氷っている

箸で何度も突かないと
穴は開かない

氷面下で
きしめんが
遊泳してる感じ

ワカサギ釣りみたいに
穴をあけて
うどんを箸で釣るんや

口の中が
レンチン代わりやで

口内温度で
人肌の程度のきしめんに
なるはずだが

頭の方が先に
キーンして
きしめん頭痛が
受刑者を襲う

キーンキーンと
頭の中をさまよい
こだましてくる

きしめんを前に
おでこ、こめみを
押さえて込む受刑者多数

食感はボソボソというか
粉っぽくもっさりしてる

ツルツルっとはいかず
シャリシャリっとしてる

でも誰も
文句を云わないわ

あれはあれで
ああいう食い物と認識すれば
結構イケルんやで

モタ工場に
地元が名古屋の奴が居て


娑婆に出たら
名古屋の立ち食いきしめん
食ってみろって云われて

先日な
関西のお友達と会うのに
名古屋に立ち寄り

組織の人間ちゃうで～

俺、今年の夏までは
仮釈放中やから
ええ子ちゃんや

立ち食いきしめんは
行ったけど

麺の上で悶えるかつおぶしの
ピロピロと踊る感じと
ネギのハーモニーが絶品やった

一緒に関西に行った男で
前科が人殺しの奴が

店内のかつおぶしを見て
あんなに硬いんやから
人ぐらいぶっ殺せるし

殺したあとに
うどんの上に削りまくって
乗せてしまえば凶気も消える

こいつ絶対に
かつおぶし殺人事件で
再犯するわ