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いやもう、この回は本当に胸が痛かったです……。転生体の「なんで泣くんだろう」っていう戸惑いと、それでも溢れて止まらない涙が、読んでるこっちまで苦しくなりました。オリジナルの「いるまが死んじゃう」って必死な言葉も、自分じゃどうにもできないもどかしさも、全部刺さる。そして最後の「ごめんなさい」……あの一言に、全てが詰まってる気がしました。切なすぎる。
待ってろいるま
俺が絶対に
助けてやるから
大地を踏みしめ
駆け出す
瞬刻
俺は硬い地面に突っ伏していた
コンクリート床に擦れた頬から血が滲む
痛い
ここは心の中だというのに
現実の彼の視界だけでは飽き足らず
その感触までをも再現しているらしい
ギシ
後ろ手に拘束された腕からあがる悲鳴
暇72
鈍い痛みに思わず顔を歪める俺を
黒い影が見下ろす
人間
しかも一人ではない
軽く見積もっても10人
いや
俺を羽交い締めにしている連中数名を含めると もっと多い
宝石のように輝く紅い瞳に
ダークブロンドのサラサラな髪
殴りかかる俺の行く手を阻んだのは
十数名にも及ぶ“暇なつ”だった
揃いも揃って死んだ目をする彼らに
とてつもない嫌悪感を感じる
反吐が出る
コツ…コツ…コツ…
暇72(転生体)
そんな台詞と共に 嫌悪感の塊に割って入ってきたのは
先より一層冷徹な空気を纏い
殺気立った視線を投げつける
数秒前まで怒鳴り合っていた転生体の俺だった
暇72(転生体)
暇72(転生体)
暇72(転生体)
暇72(転生体)
右腕を前へ突き出し
そこにある見えない何かを掴むように
ぐっと手に力を込める彼
暇72
突如
締め上げられた腕に激痛が走った
ミシッ……ミシッ、…ギシ
彼の力が
俺を押さえつけている“暇なつ”を通して ダイレクトに伝わってくる
暇72
容赦なく加え続けられるそれに
腕の筋繊維は限界を迎え___
ベキベキッ__、ゴリッ
暇72
バキン
圧壊した
暇72
声にならない絶叫
暇72(転生体)
暇72(転生体)
本体の身体能力の限界……
そうだ
人間の腕をへし折るほど
俺の握力は強くない
心の中だから、ってか
何でもありかよ
くそが
暇72(転生体)
僅かに眉をひそめた彼が問う
怪訝な、しかし冷徹さを孕んだ眼差し
俺はそれに対抗するように
より一層彼を睨みつけた
暇72(転生体)
暇72(転生体)
………そう、かもな
諦めたほうが楽
言われずとも分かっている
今しがたへし折られた腕
拘束により身動きの取れない体
そんな俺を見下ろす無数のコピー体
完全なるアウェイ
勝てるわけがない
____、でも
暇72
キッと彼を見据える
男に二言は無い
俺は確かに誓った
いるまを助けると
誰が諦めるか
暇72(転生体)
腹が立つ
俺は今
無性に腹を立てている
目の前に突伏する、俺と瓜二つのこの男
此奴は誰の許可を得たわけでもなく
他人(俺)の世界にずかずかと入り込んだ挙句
偉そうに命令まで寄越しやがる下衆だ
紫頭と戦うのを止めろ、だ??
勘弁しろよ
オリジナルと彼奴(紫頭)の関係なんざ 知るかっつーの
ただでさえ
自分が転生体だった事実を受け止めんので 精一杯だってのに
あー……ッくそ
手足を拘束して
腕も折った
お前は何も出来はしない
そう分からせたはずなのに___
暇72
何故まだ
そんな顔をしていられる
何故まだ
お前の瞳はそんなにも燃えている
何故…まだ………
____
彼奴、なのか……?
猛攻から必死に逃げ惑う紫頭を 視界の端で捉える
ああ、嫌だ
またこの目
誰が見ようと明らかな劣勢
武器も持てず
ただ逃げることしかできない弱者
なのに__
未だ熱を失わない黄色の瞳
オリジナル暇72の目と同じものを感じるそれは
「死にたくない」
そう言っていた
ああ
本当に
腹が立つ
止めろ
そんな目で俺を見るな
そんな目で見られたら俺は
腹立たしさでどうにかなりそうなんだよ
………やばい
腹立たしいを通り越して吐き気が………ぉぇ
くそ
何なんだ?!
何が俺をこうも動揺させる?
あの目か?!
あの目のせいなのか?!
一体何故?!
何故あんな目ごときで
俺の心が、魂が
こうも苦しめられなければならないんだ?!
気持ち悪い
気持ち悪いッ
気持ち悪い!!!
………ぁ
そうだ
「殺せばいいじゃないか」
暇72(転生体)
暇72(転生体)
暇72
突如漏れ出た不気味な笑い声に
オリジナルがビクッと肩を震わせる
頭を抱え まるで悪魔のような高笑いを発する俺は
なるほど確かに
気でも狂ったのかと そう思われてもおかしくない
だが今の俺には
そんなことどうでもよかった
ははっ
なんで気付かなかったんだろう
彼奴(紫頭)を殺せば彼奴の目から熱が消える
そうしたら
「彼奴を助けたい」という 目的を見失った此奴(オリジナル)の目からも
熱は消える
なんだ
こんなにも簡単な話だったのか
暇72(転生体)
暇72(転生体)
ひとしきり笑って落ち着きを取り戻した俺は
突伏するオリジナルを見下し
冷たく言い放った
暇72(転生体)
暇72(転生体)
暇72(転生体)
暇72
コンクリート床にへたり込む紫頭
痙攣する足
体力も筋力も
とうに限界を迎えていたのだろう
よくここまで逃げ回ったものだ
辛かったろう
苦しかったろう
安心しろ
すぐ楽にしてやるから
彼の眼前に右腕を突き出し
詠唱を始める
半径5km圏内の万物を一瞬にして蒸発させる 古(いにしえ)の大魔法
魔力消費量が桁違いなこの魔法は
魔法使い数百人を犠牲に発現する代物だ
魔力(MP)値がゼロになると死ぬこの世界では
一種の禁忌魔法とされている
が
俺には関係ない
溢れんばかりの底なしの魔力
物心ついたときから 大量の魔力を手にしていた俺にとっては
大魔法の1発や2発
訳ない
やがて生まれる眩(まばゆ)い光
暇72
心の空間にこだまする一つの声
こちらを睨みつけて ジタバタと芋虫のように藻掻く彼の様子は
実に滑稽であった
徐々に強くなる魔法陣の美しき光が
紫頭の表情(かお)を隠す
暇72
暇72
暇72
暇72
暇72
暇72
暇72
暇72
うるっせーなー
キャンキャン鳴くなっつーの
そこで黙って見てろよ
あの瞳の燃えるような熱が消え逝くさまを
きっと笑えるぜ?
暇72
暇72
暇72(転生体)
暇72(転生体)
バキン
暇72
彼の残ったもう一本の腕を容赦なくへし折る
小さく響くうめき声
これで黙らなかったら次は足かな
詠唱は最終段階に突入した
あと数秒もすれば
この魔法は発現される
紫頭は骨すら残さず消し飛ぶだろう
ああ
これでようやく
この腹立たしさ、吐き気から
解放される……!
は?
突如
どこからか発せられたあたたかな低音に
俺の鼓膜が震える
脳裏に浮かぶのは
あの紫頭の黄色い瞳
気持ち悪い
気持ち悪いッ
止めろ
そんな声で俺を呼ぶな
吐き気がする
なのに
何故
こんなにも
泣き出してしまいたくなるんだ??
教えてくれ
いるま
ぽた
暇72(転生体)
コンクリート床を濡らすひと粒の雫
なに、これ
その雫の正体を理解するのに
俺は数十秒を要した
泣いているのか
俺は
そう自覚した途端
待ってましたと言わんばかりに
とめどなく流れる涙
なんで?
なんでッ???
拭っても拭っても溢れるそれは
俺の目を徐々に赤く染め上げた
くそっ
なんで泣く
俺は別に悲しくなんかないのに
俺は“いるま”なんて知らねえ!!!
なのに
………ッ
この身体が!
彼奴を覚えてるとでも言うのかよッ!!!
暇72(転生体)
殺せない
気付けば俺は
膝から崩れ落ちていた
速まる鼓動
熱くなる目頭
対象的にどんどん冷えていく指先
胸の奥がきゅうと痛む
暇72
ふわっ
暇72(転生体)
不意に持ち上がる体に驚いて目を見開くと
殺気だった赤色の瞳が俺を射抜いた
なんで動けんだ?
さっきまで此奴は
俺が作り出した大量のコピー体に 押さえつけられていたはずだ
それに___
少し視線を落とす
そこには
俺の胸ぐらを乱暴に鷲掴む 傷一つない両腕があった
なんで治ってんだよ
ぽた
暇72(転生体)
もー今度は何___
頭上から降ってきた生温かいなにか
心底面倒くさげに首を上げる
暇72(転生体)
呆気にとられた
こちらを射殺さんばかりに睨みつける赤い瞳
そんな殺意のこもった眼差しとは裏腹に
彼の頬を透明な液体がつたっていた
泣いていたのだ
彼の目からは
大粒の涙が零れ落ちていた
俺とおんなじだ
そういうことか
俺は今のこの状況を
唐突に理解した
胸ぐらをつかんで離さない此奴
オリジナルの暇なつ
正確に言うと
俺の心の中で眠っていたかつての暇なつの記憶
それが今
俺=転生体暇なつへの精神干渉を開始したんだ
俺の中に
彼の思考や感情が雪崩込んでくる
彼が怒れば俺も腹が立ってくるし
彼が悲しめば俺は涙を流す
だから今泣いているのは俺じゃない
彼=オリジナルの記憶が泣いているんだ
自我こそ別々のものを持っているが
俺とオリジナルは一つになりつつあるのだ
そう考えると
今のこの状況全てに説明がつく
精神干渉により
俺だけでなく、オリジナルの暇なつも この空間を操れるようになった
だから彼は
負傷した両腕を治すことも
彼を縛っていた俺のコピー体どもから 抜け出すことも出来たのだ
おい
おい
暇72
暇72(転生体)
オリジナルの呼びかけが
考えにふけっていた俺を現実世界へと引き戻す
暇72
暇72
暇72
胸ぐらを掴む手に力がこもる
必死なんだ
彼は本気で
いるまを助けようとしているんだ
彼の感情が流れ込んできている今だから分かる
彼にとっているまは
命に変えても守りたいと思えるほど
大切な人なんだ
彼は
いるまのことが_____
暇72(転生体)
暇72(転生体)
暇72
暇72(転生体)
暇72
暇72(転生体)
暇72
暇72(転生体)
涙目で必死に懇願する彼
そんな彼を目の前にした俺は
眉をひそめ
歯を食いしばって
彼から目を逸らした
暇72
暇72
暇72
俺だって___ッ
俺だって殺したくないッ!!!
喉につかえて出てこない言葉
俺はそれを
心のなかで叫んだ
殺したくなんてないよッ
いるまの顔を思い浮かべるだけで
こんなにも胸が苦しくなるのに
まともな呼吸ができなくなるのに
____でも
もうどうしようもないんだッ
だって………
もうじき
この体は………、ッ
ざざーーー……
ぶつん
ああ、………
もう
来てしまったのか
暇72
オリジナルの戸惑った声が
空間いっぱいに広がる
無理もない
怒って
殴り合って
泣いて
今までのそんな出来事が
全て嘘だったんじゃないかと思えるくらい
世界は真っ白に逆戻りしていた
暇72
暇72
焦った様子で詰め寄る目の前の男
血の気の引いていく顔に
額をつたう冷や汗
震える指先
すげーな
正直関心した
こんなわけの分からない状況下であっても
彼が一番に心配するのは
自分じゃなくて
いるまなんだな
どんだけ俺に愛されてんだ、なあ?
いるま
暇72
暇72(転生体)
いるま、は………ッ
「わからない」
それが
今の俺が出せる最大限の答えだった
周囲が白に戻ったあのときから
いるまと戦っていた本物の俺の体が動かない
いや
俺の意思で動かすことができない といったほうが正しいだろう
それどころか
目も見えない
耳も聞こえない
鼻もきかない
感触も分からない
ついさっき聞こえた、ぶつん、という音
あの瞬間をもって
俺の魂と肉体は完全に分離してしまったのだ
上の命令は絶対
逆らえば
組織を裏切ったと判断する
裏切り者には死を
物心ついたときから
そう言われて育ってきた
それが俺の全てだった
たくさん殺した
同僚
部下
上官
どんな立場であろうと
命令に逆らったものに情(なさけ)はかけない
俺に下されていたのは
帝国資料館に忍び込んだネズミを駆除せよ
そんな命令
が
俺はそのネズミを、いるまを殺せなかった
組織の命令に
逆らってしまったのだ
だから俺は殺される
裏切り者として処罰される
しかし
残念ながら俺はまだ死んでいない
魂と肉体を切り離されただけである
何故か
………大方予想はつく
いくら俺が命令に逆らった裏切り者だとしても
目の前にいる瀕死のネズミを
組織が見逃すはずがない
今頃俺の体は
組織の者に操られて
いるまを殺しにかかっているのだろう
止めたい
たとえ俺が死ぬことになっても
いるまを殺すことだけはしたくない
嫌だ
いやだ いやだ いやだ!!!
殺したくないッ
……何度そう願っても
もう俺は
自分の体を動かせない
俺は
なにもできない
暇72
必死な顔で
肩をぐわんぐわんと揺すってくるオリジナル
そんな彼に
俺は
たった一言
こう言うしかなかった
ごめんなさい
#dzr社
memi(めみ)
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memi(めみ)
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