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午前7時。
まだ朝の空気がひんやりしている時間帯。
茉莉咲月希(まつりさつき)は、いつものように白衣を羽織り、
髪をきゅっとまとめて玄関を出た。
誰が見ても「仕事のできる真面目なお医者さん」———それが、彼女の“表の顔”。
だが、スマホの通知をチェックした瞬間、目が輝いた。
茉莉咲月希
玄関前で一瞬フリーズ。
画面の中でクールな表情を見せる嘉郎真爽の姿に、心の中で黄色い歓声を上げる。
周囲に人がいないことを確認して、こっそりスクショを3枚。
さらにBeRealを開き、推しグッズがさりげなく写る角度で投稿した。
茉莉咲月希
病院に着くと、咲月希はいつもの冷静な医者モードに切り替わる。
研修医や看護師に的確に指示を出し、診察室では落ち着いた声で患者に接する。
誰も、彼女が夜な夜なSYNKの動画をリピートしている“超オタク”だとは思わないだろう。
昼休み、屋上。
同僚で友人の平井涼乃(ひらいすずの)がジュースを片手にやってきた。
平井涼乃
茉莉咲月希
平井涼乃
二人はフェンスにもたれながら、オタクトークで盛り上がる。
咲月希は真爽の最新プリクラ写真の話をし、涼乃は別のアイドルの話を始める。
推しは違えど、「一緒に推し活をする友人」がいるこの時間は、
咲月希にとってかけがえのないひとときだった。
午後の診察が終わると、ふとテレビのニュースが流れた。
アナウンサー
アナウンサー
アナウンサー
咲月希は手を止めて、ニュース映像を見つめた。
ステージの上で堂々とパフォーマンスする真爽。
いつも通り、クールで輝いている。
……でも、映像の最後。
ほんの一瞬だけ、真爽が咳き込み、スタッフに支えられるシーンが映った。
茉莉咲月希
その違和感は、ほんの一瞬だった。
けれど、医者としての咲月希の目が、確かにそれを捉えていた———。