島田
定年まぢかの島田は、ため息まじりにつぶやいた。持病の腰痛に加え、右足のひざにも変な痛みが走ったのだ…
その時、遠くで 雷 の音が聞こえた。
島田
島田は立て付けの悪い気の扉を、ガタガタと言わせて開き、地下の宿直室を出て一階に上がった。
洞窟のような暗い廊下がまっすぐ伸び、窓の外では大きな銀杏の木が風にゆさゆさと揺れている。
誰もいない深夜の運動場には、雨が激しく叩きつけていた。稲妻が光り、島田の猫背の影が壁にくっきりと写し出された。
ギシギシと木の床をきしませて、廊下を歩いていくと、壁に飾ってある生徒たちの絵が光りに照らされて、不気味に輝いて見えた…
なぜなぜ子供たちは夜の学校を恐れるのだろうか… ふと、島田はそんなことを考えた。
一つは昼間、あれほどにぎやかだったのが、夜になるとまったくの無人となり、その差が激しすぎるからだ。昼間のにぎわいが、壁や天井にしみ込んでいる。それが夜になり、何かの気配となってあたりに漂っている。
そしてもう一つの理由は、音楽室、理科室、美術室、保健室などの一種独特な空間のせいである。しかもその空間の中には、人体模型やホルマリンづけの標本、古びたピアノ、石膏でできた人の顔などがある。
想像力ゆたかな子供達はそこに大人では見えないものを見、聞き、感じ、さまざまな怖い話を作り出すのだ。
そんな事を考えていると、ふいに、誰かの声が、廊下の奥から聞こえたような気がした…
島田
雨の音がますます激しくなり、校舎の中に反響して、ゴオーゴオーと聞こえている。職員室にたどりつき、電気をつけると,なんとなくほっとした。その時、
リリーンリリーン☎️
目の前の黒電話が突然大きな音でなりだした。島田は腰を抜かすほどにおどろき、おもわず机にしがみついた。
リリーンリリーン☎️
島田
島田は受話器に手を伸ばした。その瞬間、窓の外がオレンジ色に輝き、同時に生木を裂くようなバリバリという強烈な雷鳴がとどろいた。雨音が激しくなり、煌が風の海に没していくような錯覚が覚える。
心臓がちぢみ上がって受話器を落としそうになり、あわてて耳元に持っていった。
島田
島田の声はうわずっていた。しかし、電話の向こうからは声がしなかった。ただ何か恐ろしい気配がした。受話器の中に吸い込まれていきそうだ。
島田
たまらず、島田は叫んだ。すると、
メリー
女の子の可愛らしい声がかすかに聞こえた。
島田
メリー
今度ははっきりと聞こえた。何だか笑っているようだ。
島田
メリー
島田
だが電話は切れていた。島田はぶつぶつとつぶやき、受話器を置いた 。
そして、また、
リリーンリリーン☎️
今度は隣の席の電話が鳴り響いた。島田はその電話に吸い寄せれるように飛びついた。
島田
メリー
島田
メリー
そこで電話は切れた。 花壇の前……。 実際にかけよりカーテンのすきまから花壇の方に目をやったが、誰もいなかった。 花壇の中央に立てられた二宮金次郎の銅像が、稲妻の光を浴びて気味悪く輝いていた。
少し雨の勢いが弱まっている。 誰かのいたずら電話だろうと考えていると、気分も落ち着いた。多分、うちの生徒だ。何年生だろう。まさか、クラスの子では……。 すると、
リリーンリリーン☎️
すぐ脇の電話がなった。島田は腹をたてながら受話器を取った。
島田
メリー
島田
メリー
ぶつり,と電話は切れた。
島田
島田はゆっくりと職員室の開いた扉を振り返った。またもや大きな雷の音が鳴り,一瞬蛍光灯のあかりが切れ,すぐにパッとついた。
悲鳴をあげそうになるのをこらえ、おそるおそる廊下に首を出してのぞいてみた。 そして、
リリーンリリーン☎️
今度は廊下の奥にからけたましい電話の音が聞こえてきた。玄関協の公衆電話だ。 ギシギシと床をきしませながら小走りでかけていった。
島田
島田は怒った声で受話器を取った。
メリー
島田
メリー
島田
メリー
島田
メリー
島田
島田は思わず黙りこんだ。全身に鳥肌が立つ受話器をちぎった手が震えた。 そのままゆっくりゆっくりと首を後ろにねじっていく。何かいる。窓の外が青白く輝き、窓が割れるほどの大きな雷がなった。
島田は焦点が合わなくなった目を背後に向けた。何かがいる。
その時、学校中の電話がいっせいになりだした。 島田は悲鳴をあげ、受話器を落とした。 そして彼が見たものは……。
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