緑 。
……やっぱ、クラスじゃ全然違うよな
カフェで横に座りながら、ふと盛れた俺の言葉に、橙が目を細めた。
橙 。
何が
緑 。
お前の雰囲気。
緑 。
学校じゃ"氷の女王"みたいなのに、ここじゃ……ただのスイーツ好きの猫好き
橙 。
ただの、って失礼じゃね?
緑 。
いい意味で、ね?
彼女は肩をすくめながら、フォークでベリータルトをすくう。
今日はクリームの上にいちごとブルーベリーがたっぷりのった、見た目も可愛い一皿だった。
橙 。
……好きなの。こういうの
緑 。
見ればわかる
橙 。
黙れ
ぷいっと横をむく彼女は、口元が緩んでいて、本当に可愛いと思った。
緑 。
橙ってさ、なんで学校であんな感じなの?
橙 。
"あんな"って?
緑 。
……怖い、って思われてるの、知ってるだろ
彼女は視線を落とし、テーブルの縁を指でなぞった。
橙 。
……最初だけだったんだよ、別に。
橙 。
中学のとき、ちょっとムカつくことがあって
緑 。
それって、噂の"男子三人ボコった"事件?
橙 。
はあ……話盛られてんのは知ってたけど、三人になってんのか
橙はため息をついたあと、少し笑った。
橙 。
一人。言いがかりつけてきた男子を、ちょっと黙らせただけ。
橙 。
そしたら"ヤバいやつ"って勝手に広まって、今更否定しても余計面倒で……
緑 。
……だから、怖いキャラのまま?
橙 。
うん。
橙 。
何も言わなきゃ、誰も近寄ってこないし、楽
その言葉に、少しだけ胸が傷んだ。
緑 。
でも、寂しくない?
彼女は目を小さく見開いたあと、すぐに逸らした。
橙 。
……別に。もう慣れたし
その強がりが、本当は一番、彼女自身を苦しめてるんじゃないかと思った。
だから俺は言った。
緑 。
俺は、今の橙の方が、ずっといいと思うけどな
沈黙が落ちた。
猫が俺の膝に乗り、にゃあと鳴く。
その音に紛れて、彼女がぽつりと呟いた。
橙 。
……じゃあ、お前だけは知ってて
その一言が、まるで秘密の鍵みたいに心に残った。







