コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「六月の君の噓 第十話」 雨だ…。 テレビで、アナウンサーが梅雨入りを宣言する。 中学の時、あれ程に雨を嫌っていたのに…。 今は、嫌いじゃない。 むしろ、雨の季節が無性に切なく感じるよ。 ビニール傘をさして、一人暮らしのアパートの部屋から出る。 大学を卒業してから、サッカーの監督になった俺は、 今でも幼馴染の涼と 同じアパートの隣の部屋に住んでいる。 足が使えなくなってから、八年がたち、 日本代表チームの監督を務めるようになった。 涼は、同じ日本代表選手の一人だ。 あの頃のように、思いっきり走れないのは悔しいが、 サッカーにかかわることが出来て、嬉しい。 東京の街の空を、ビニール傘を通して眺める。 訳もなく、ビニール傘を閉じた。 どんよりと、曇った空から、ぽつりぽつりと降り続ける雨に打たれる。 と、その時。 視界の隅に、黒く美しい髪がちらつく。 思わず、振り返る。 白いワンピースを着た美しい女性が、通り過ぎて行った。 思わず、目で追ってしまう。 どこかで…見覚えが… 「あの…!」 ハッとした。 その女性の薬指には、輝く銀色の指輪があって。 俺は、理由もなく、自分の左手の薬指を掲げる。 すると、その人がふっと笑みを漏らした。 雨はただただ降り続ける。 いつまでも。 どこまでも、降り続ける。