ふわりと、まるで遊ぶように風が吹く
何もかも包み込んでしまうような、平和な春風
季節はすっかり”春”に移り変っていた
花びらが淡いピンク色を日常に撒き散らし、少しでも暖かに寄り添った
桜の木が沢山生えている道を、三人は歩いていた
どうせならと寄り道して赤ちゃんとブラックの二人が歩いていた所を、すまない先生がついて来ていたのだ
わぁっ、と小さな声を漏らして、無邪気な小さな子供のように見上げている
ブラック
赤ちゃん
赤ちゃん
赤ちゃん
すまない先生
すまない先生は赤ちゃんの何気ない一言に笑い
赤ちゃんはへへへ、と照れたように頭を軽くかいた
それをブラックはまるで保護者のように目を細めて見つめていた
すまない先生
ブラック
赤ちゃん
ブラック
すまない先生
「アハハッ!!」
弾けるような笑い声だ
───天高く飛んでいくような。
しばらくの間笑った後、ゼェゼェと息を整えて、すまない先生は空を見上げた
ふと、何気ない事だった
すまない先生
ふわりと、春風が重い空気を彼らに運ぶ
二人は無言で、そっと頷いた
”あれから”……もう、上手く説明しなくても、伝わるだろう
何よりも、たったの一晩の事だけれど、強く熱く焼き付いている、あの出来事を。
そんな中、ブラックが口を開いた
ブラック
赤ちゃん
赤ちゃん
すまない先生
すまない先生はポツリとこぼす
二人が顔を見合わせていたのに対して、先生は一人だけ明後日の方向を見ていた
先生は二人に顔を向け、微笑んだ
すまない先生
すまない先生
すまない先生
すまない先生
すまない先生
ブラック
赤ちゃん
赤ちゃんはうんぬんと唸りながら腕を組むと、突然「あっ!!」と叫ぶ
赤ちゃん
赤ちゃん
赤ちゃん
すまない先生
すまない先生
ブラック
ブラック
ブラック
すまない先生
すまない先生は目を瞑り、静かに頷いた
赤ちゃんは会話を聞きつつ、桜に視線を向け続けていた
ふと、桜でピンクに染まった瞳で彼は呟く
赤ちゃん
ブラック
赤ちゃん
そう問いかける赤ちゃんだが、二人はピンと来ないのかけげんそうにしている
赤ちゃんは続ける
赤ちゃん
赤ちゃん
赤ちゃん
赤ちゃん
赤ちゃんはそっと言葉を切る。
すまない先生がギュッと拳を握り締めていたのに気付いたからだ
赤ちゃんが声をかける前に、すまない先生が自ら呟く
風の赴くままに揺さぶられ、このまま遠くに行ってしまいそうな、散るピンクの花弁を目で追いながら。
すまない先生
すまない先生
すまない先生
赤ちゃん
ブラック
言葉が詰まって出てこない。 喉の奥で勝手に引っかかっている様。
寂しげな沈黙が走り、知って知らずか花びらが宙を舞っている
ふわりと跳ねるように動いて、彼らの肌を掠めた
ふと、ブラックは手を伸ばし、飛んでいた一枚を手の中に収めた
両手を使い、閉じ込めるようにしていたが…指の隙間から器用にするりと抜け出てしまった
「あ、」と言わんばかりの顔で、ブラックは目を見開き、首を動きに合わせて動かした
二人も知らぬ間にブラックと同じようにしていた
チラリチラリと、上へ舞い上がって行く桜の花びら
見上げると空を覆い隠すようなピンク色の花々。
その隙間を掻い潜るように、爪の先程の大きさの花びらは飛んだ
折り重なっている桜の隙間から除く、青い空へと。
その後、その花びらの姿は見えなくなった
すまない先生
すまない先生はどこまでも青く高い空へ向かって手を伸ばす
すまない先生
すまない先生
すまない先生
すまない先生は満面の笑みを宙に向けた
すまない先生
まるで空気に染み渡るような声だった
くるっと二人の方を振り向くと、すまない先生は全く同じ…満面の笑みを向けた
すまない先生
すまない先生
ブラック
赤ちゃん
二人も同じく満面の笑みだった
ある歩道に、明るく笑い合う姿がキラキラと浮かんでいた
守れる事なら守りたかった
できることならそばにいて欲しかった
でも、もう無理なんだ
だったら………… 少しでも、君達の意志を紡いで行くよ
忘れる事なんて無い。
もっといい未来にする事もできたかも知れない
けれど____これが最善の選択だと信じて。
持ち運んで、抱えていくよ
ありがとう───
───ごめんね
心の底から、本当に、ありがとう。
そういえば、こんな歌詞を前に聞いたっけ……。
いつも周りを見渡すと
暖かな笑顔がそこに
どんなに辛い道のりも
支え合うことで乗り越えてきた
僕らの 生きてきた道は
きっと
素晴らしいものだろう
僕らにはいつだって
帰る場所がある
空高く舞い上がる
希望抱き 明日へ向かい
羽ばたこう
夢も思いも大切に
育ててくれたこの場所を
忘れた事は無いから
いつだって前へ 進めるんだ
静かに
流れる波音
オレンジ色した
優しい空
僕らは一人じゃない
誇り高き大地
ここにある幸せを
離さない
忘れないよ
いつまでも
空高く舞い上がる
希望抱き
明日へ向かい
はばたこう
風が、豊かに舞い上がった
運命【サダメ】の裏表
ー[完]ー