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光のクラゲが霧のように解け 俺の周囲から消えていく
床に横たわるりんご国王の唇から 漸く、紫色の気配が抜け
浅かった呼吸も わずかに深くなった
間に合った ────でも、まだ終わりじゃない
振り返らずに告げ 俺はインベントリから護符を取り出す
小刀で指先を裂くと 黒く濁った血が、ドロリと重く垂れた
それは毒そのもののように冷たく 護符の文様へと吸い込まれる度に
淡い光が不気味に揺らめいていた
ふぅ、と小さく息を吐き 静かに祝詞を紡いでいく
キンッと空気が軋むように震え 冷気が足元から這い上がってくる
黒い血を核に 光の粒が国王の輪郭を形作り
やがて同じ衣、同じ傷色 同じ苦悶を浮かべた顔がそこに現れた
分身はそのまま玉座の横に伏し 動かぬ身体で毒の残滓を纏ったまま
死人のように、沈黙した
……これで、敵の目を欺ける
俺は静かに立ち上がり
まだ毒の温もりを宿した小刀を 袖にしまい込んだ
王城の裏手から闇に紛れ、森の中を走る
息を整えてる暇は、無い
背中の国王は微かに息をしているが その温もりが逆に焦りを煽る
落ち葉を踏みしめる音 枝が頬をかすめる感覚────
全てが、やけに鮮明に響いた
木々の合間に、苔むした屋根が覗いた
窓は割れ 扉は斜めに傾いているが
外敵の目からは隠れやすい
ギィ……と軋む扉を押し開け 山小屋の中へと運び込んだ
外の風音が遠のき 小屋の中には俺と爽
そして、浅く息をする 国王だけが残されていた
息を整えつつ、国王をベッドに横たえる
──解毒は済んだ だが、衰弱が激しい
爽が眉を寄せながら、問いかける その言葉に、俺は短く頷いた
爽の瞳がわずかに揺れるが 弱々しくも真剣なその目に、信頼が滲んだ
窓から差し込む細い陽光が 国王の蒼白な顔を照らす
俺は一瞬だけその額に手を置き 扉へと歩を進めた
キィ…と、木の扉が軋む音が やけに大きく響いた
まるで「戻れ」と 囁かれているように感じて
俺は後ろを振り返った
小屋の中で光に包まれるその姿が
ほんの、一瞬
遠い記憶の「守りたい誰か」 と重なって見えた
────それでも俺は その幻を胸の奥に押し込み
床板の軋む音を 最小限に抑えて扉を閉めた