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枝派を掻き分け 俺はただ前へと駆けていた
呼吸は荒く、肺が焼けるように熱い
────だが、足は止まらない
止めてしまえば……
取り返しのつかないものを 失う予感があった
思い返せば…… あの時から『兆し』はあった
リンゴ王国の兵たちの視線は どこか“怯え”を孕んでいた
剣は刃こぼれを残したまま 鎧には手入れの跡がなく まるで…… 戦の準備を放棄しているかのように…
王城の広間から消えていた 将校たちの影も ただの怠慢ではなかった────
────全ては バナナ王国を狙った布石だった
歯を噛み締めんばかりに力が入る
悔しさが胸を焼き尽くすが 今さら悔恨に価値は無い
間に合わなければ それすらも、ただの贅沢になる
次第に 森を吹き抜ける風が変わった
草木の青い臭いは掻き消され
代わりに鼻を突くのは ────鉄錆と焦げた布の匂い
遠くから微かに響くのは 地鳴りか、それとも呻き声が
その度に、心臓が早鐘を打ち 血が逆流するような焦燥に襲われる
森を抜けた瞬間 視界を支配したのは、地獄の光景だった
バナナ王国の城門は無残に砕かれ
厚い木戸は杭のように裂けて地に転がり 鉄の装飾は四方に捻じ曲がっていた
黒煙がまだ燻り 空気は灰を含んで重く、灰を浸す
大通りへと続く道は 瓦礫と血で、ぬかるんでいた
人影が、散らばっている
倒れ込む者 壁に凭れかかり喘ぐ者────
皆、衣は裂け 傷だらけで血を滴らせていた
その顔に刻まれていたのは “痛み”より、圧倒的な“恐怖”……
呻き声が絶えず響き 血の気配と共に
王国全体を 呪いのように覆っていた
……だが 不思議な程に、死者は出ていなかった
胸の奥で、小さな熱が灯る
────それは 僅かな救いのようなものだった
だが、次の瞬間
視線の先に広がったものが それを丸ごと呑み込んでいった
王城の隙間から 濃い闇が立ち昇っていた
───────ただの煙じゃない
空気そのものを腐らせ 光を殺すような……不吉で重苦しい“何か”
耳の奥で囁くような 低い声が混じっている気がした
────────間違いない
王弟リン・ゴメス そして、暗黒魔道士ラマンダーだ
焦燥と共に 喉の奥に冷たいものがせり上ってくる
まるで、この国全てが 暗黒に呑まれかけているような────
そんな圧倒的な絶望が 眼前に広がっていた