あぁ…もう…。 イライラする…。
学校で話しかけてくんなよ…! ユンギ先生にも 多分色々バレたし。 そもそも、あの野郎… なんで僕のベッドの上にいたんだよ…っ。
自分のクラスの教室の戸を開けると 授業中にも関わらず遠慮なく入る。
相変わらず、教室内は終わってる。 定年間近の教師が淡々と進める授業を聞いてる奴なんて 一人もいない。
空席が疎らに目立つ中、 スマホをいじってたり イヤホンを耳につけて動画を見てたり メイクしてたり、机に突っ伏して寝てる人がほとんどだ。 まぁ、普段は僕もその中のひとりなんだけど。
2-E、学年の中で色々問題ある生徒の寄せ集めクラス。 どちらかと言えば 教師に見放された生徒…の方が正しいかも。
僕の机の横にかけてある鞄を掴むと 後ろの席のヒョヌが声を掛けてきた。
ヒョヌ
ホソク
ヒョヌ
ホソク
ヒョヌは見た目は派手で怖い印象持たれがちなんだけど 本当は優しい子なんだ。
ヒョヌに手を振ってから教室を出る。 ヒョヌのおかげで、むしゃくしゃしてた気分が 少しだけ落ち着いた。
口うるさい教師に見つからないように注意しながら 学校を出ると、 ある場所へ向かった。
途中、煙草が吸いたくなったけど 我慢、我慢だ。 煙草の煙が服に付いちゃうと 今から会いに行く子に毒だから。
平日の真昼間。 学校で勉強してるはずの男子高生が こんな場所にいるのがおかしいのか 行き交う人の視線を背中に感じつつ エレベーターのボタンを押す。
目的の5階に着いてエレベーターから降りると ナースステーションに声掛けをしてから ある部屋に向かった。
503号室。 入り口にはあの子の名札が掲示されている。
ホソク
僕は一度、深呼吸をしてから 両頬を軽くペチンと叩いた。 笑顔、笑顔。 あの子の前では暗い顔をしちゃいけない。
大袈裟な笑顔を自分の顔に貼り付けてから その扉を開けた。
ホソク
グク
僕を見て満面の笑顔を見せたのは 弟のジョングギだ。
ジョングギのいるベッドの近くまで寄ると 漫画を読んでたのか ベッドサイドテーブルに数冊の漫画が積んであった。
ホソク
グク
ホソク
ジョングギの頭をぽんぽんと撫でると 嬉しそうにこの子は笑った。
抗がん剤治療のせいで 髪の抜けてしまった頭を保護するために ジョングギは常に帽子を被っている。
まぁ、ジョングギは髪があってもなくても どっちでも可愛いんだけどね。 良いことなのかは分からないけど 今では、この姿にすっかり見慣れてしまった。
ホソク
手に持っていたコンビニの袋を掲げる。 林檎が食べたい、と言ったから 剥いてあげることにした。
えっと、まな板と果物ナイフ… 床頭台の引き出しだっけ。
引き出しを開けてまさぐると 思った通り、奥の方にケースに入れられたナイフと 小さなまな板が押し込まれていた。
グク
椅子をベッドの近くまで寄せて座ると ナイフと林檎を手に持ち皮を剥き始める。
ホソク
我ながらシャッシャと手際の良い音が手元から鳴っている。 皮を切らさないように集中しつつ、ジョングギの言葉に返事を返した。
グク
ホソク
ぽとっ、とまな板の上に皮が切れて落ちた。
え…?
顔を上げると、ジョングギが寂しそうな… いや、泣きそうな表情をしている。
ホソク
グク
ホソク
グク
そんなに…。
ナイフを持つ手に力が入った。
ジョングギ、まだ6歳で。 ただでさえ、ひとりで…こんなに小さな身体で 治療に耐えてるっていうのに…。
ジョングギの病気がわかった途端 ころっと態度変えやがって…。
グク
ホソク
怒りで満ち溢れる心の中を隠すように 精一杯の笑顔をジョングギに見せた。
ホソク
グク
ホソク
ジョングギが喜ぶなら。 少しの苦痛なんて耐えれる。
その気持ちで、今日は家に帰ることに決めた。
ホソク
ジョングギに向けて言った言葉は 自分への暗示でもあった。
ホソク(幼少期)
小学六年生に進級して、少し経った頃。
僕は夜、ひとりで寝るのが怖くて 向かいにあるナムジュンの部屋を訪れた。
ナムジュンはベッドの上に寝っ転がって ファッションかスポーツかなんかの雑誌を読んでいた。
ナム(幼少期)
ホソク(幼少期)
ナム(幼少期)
僕の言葉にナムジュンは含み笑いと共にそう答えた。 体を起こすとベッドの脇に座って 隣をぽんぽんと叩くから 僕もそこに座った。
なんか理由でもあるの?と聞かれたから 僕は答えた。
ホソク(幼少期)
ナム(幼少期)
ホソク(幼少期)
ナム(幼少期)
ホソク(幼少期)
ナム(幼少期)
ナム(幼少期)
ホソク(幼少期)
ナム(幼少期)
ホソク(幼少期)
僕はその言葉を信じた。
肩を抱くのも、 耳元で話すのも 自分の心臓が激しく脈打つ事にも 何の疑問も抱かなかった。
暗闇の中で 僕はナムジュンの腕に抱かれながら眠りについた。 ナムジュンという存在は こんなにも安心感を与えてくれるものなんだと その頃の僕は思い込んでた。
この家に帰るのは久しぶりだ。 最近はずっとジンヒョンん家に泊まりっぱなしだったから。
車もあるし、電気も付いてる。 二人とも今の時間なら帰宅してるはずだ。
ホソク
吸おうと思った煙草が すでに限界まで短くなってることに気づいて、 地面に吸い殻を捨てると靴でじりじりと踏み潰した。
公道でポイ捨てしてる訳じゃないんだから 別にいいや。
玄関のドアロックにパスワードを入力すると ピピピッと電子音が鳴り解錠される。
憂鬱な気持ちと共に、ドアノブに手を掛けた。
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