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主
主
翌夜。 えとは再び人間界に降りていた。
淡い霧が立ち込める墓地を歩き、鎌を構える。
死神にとっては、ただの仕事のひとつに過ぎないはずだった。
だが——。
ゆあん
軽やかな声とともに、赤い瞳が闇を照らす。
振り返ったえとの視線の先に、黒髪に赤メッシュを揺らすゆあんが立っていた。
えと
呆れた声を返すと、ゆあんは悪びれることもなく笑う。
ゆあん
えと
えとは冷ややかに言い放つ。だがゆあんは、まるで聞き流すように歩み寄ってきた。
ゆあん
えと
えとは思わず目を見開いた。オレンジ色の髪と、光を受けてきらめく綺麗な瞳が、戸惑いに揺れる。
死神はただ魂を刈り取る存在。そこに優しさも哀れみもいらない。
そう言い聞かせてきたはずだった。
えと
ゆあん
赤い瞳の奥に宿る真っ直ぐな光。その強さに、えとは一瞬言葉を失う。
互いに背負う役割は真逆。決して交わってはならない。
それでも、彼の視線に心が揺れてしまうのはなぜだろう。
えと
えとは吐き捨てるように言って、再び仕事へと向き直った。
だがその胸の奥で、小さな火が灯っていることに気づいてしまう。
——彼と話すのは、少しだけ楽しい。
夜の闇の中、死神と天使というあり得ない組み合わせが、静かに距離を縮め始めていた。
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