主
主
人間界の夜は、静かで残酷だ。
えとは再び、鎌を手に一人の老人の最期を見届けていた。
苦しみから解放された魂は光となり、空へと昇っていく。
死神にとっては慣れた光景。
——そのはずだった。
ゆあん
背後から聞こえた声に、えとは肩を揺らした。
振り返れば、やはりそこにゆあんが立っている。
赤い瞳が真っ直ぐにこちらを射抜いていた。
えと
ゆあん
ゆあんは気楽に言うが、その視線には真剣さが宿っていた。
えとは視線を逸らし、淡々と告げる。
えと
ゆあん
ゆあんは一歩、彼女に近づいた。
ゆあん
えとは息をのむ。
彼に見つめられると、胸の奥の繊細な部分を覗かれてしまう気がする。
死神として隠してきた心の弱さ。
誰にも知られたくなかった本当の自分。
えと
ゆあん
ゆあんは屈託なく笑った。
ゆあん
えと
否定しかけた声が、震えていた。
ゆあんは彼女の答えを待たずに空を仰ぐ。
ゆあん
えとは思わず、その横顔を見つめてしまった。
黒髪に走る赤メッシュが月明かりに映え、赤い瞳が夜空を映して輝いている。
——その眩しさが、えとの胸の奥を温かくしていく。
えと
小さく呟いたその声は、どこか柔らかかった。
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