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苦手な先輩は今日もギターを弾く

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苦手な先輩は今日もギターを弾く

1 - 苦手な先輩は今日もギターを弾く

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2024年02月19日

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友里恵

はぁ…疲れた…

私は重い学生カバンを肩にかけながら帰路を歩く。

友里恵

…今日は災難だったな…。

友里恵

テスト中に筆箱全部落として隣の友達に迷惑かけるし…

友里恵

もう最悪…

友里恵

え?

私が角を曲がると男性が角に座り込み何かを探していた。

友里恵

あの…だ、大丈夫ですか…?

男性

あぁ…ちょっとコンタクト落としてさ…メガネも無いし…困ったよ…

友里恵

え…大丈夫ですか?手伝いますよ!

男性

あぁ…助かるよ。

私は地面を見つめる。すると、夕日に反射して石ころに紛れて何かが輝く。

友里恵

これ…コンタクトレンズ…?

私は男性に声をかける。

友里恵

あの…ここにコンタクトありますよ!

男性

え!ほんと!

男性は私の指さすところを見つめる。コンタクトを拾って直接男性に渡すのもアリだが、他人が身につける物を直接触るのは衛生的にも良くないからだ。

男性

コンタクトあったよ!ありがとう!

友里恵

それならよかったです!私はこれで!

男性

私は男性に軽く頭を下げ去っていく。

友里恵

さ、帰ろー。

私は人助けしたのもあって少し気分はよかった。私は自分の住む団地の階段を登り自分の家の鍵を開け自分の部屋に入る。

友里恵

ふぅ…疲れた…

私は制服のままベッドに横になる。

友里恵

あっ、お母さんからLINEしてる。

友里恵

『最近少し大変だけど皆とは仲良くやってるよ』っと。

私はそう送信しスマホを閉じ机の上に置く。

友里恵

…東京に憧れたって理由だけで地元から離れた大学に進学したけど…私…選択間違ったかも…

私はベッドから起き上がり机に置かれたアルバムを手に取る。

友里恵

優美…私…この道を選んでよかったのかな…

優美とは私の地元の高校での親友だ。私は地元を離れたが故に優美とは当分会ってない。

友里恵

はぁ〜

‪”‬ぼふっ‪”‬とベッドに背中から倒れる。

友里恵

東京って…いろいろ難しいな…

その時、‪”‬ムッームッー‪”‬とスマホが机の上で振動する。私はスマホを手に取り起動する。

友里恵

…?北宮先輩…?

北宮先輩とは私が所属している吹奏楽部の先輩だ。正直…私はこの先輩が苦手だ。

私にだけあたり強いし音程がズレただけで怒られる…。私の吹奏楽部は部活LINEを部員全員が繋いでいる。

北宮先輩は私と家も近いということもあり強制的に個人LINEも繋げられた。かと言って先輩も私とLINEする気など1mmもなく滅多にLINEなど来ないのだが…

友里恵

どうしたんだろ…あ、もしかして前吹奏楽部の演奏練習をした時に私だけ音程がズレてたから…その事を今更…

私は正直LINEを開きたくなかった。けど、無視すればその事でまた言われる…。私はしぶしぶLINEを開く。

個人LINE

翔吾

おい。鶴谷

友里恵

な…なんですか…

友里恵

もしかして、あの時の演奏練習の事ですか?

翔吾

いや、違う。

友里恵

えっ…?

私は先輩が私のミスを責める事に連絡してきたとばかり思っていたが故に予想が外れたことに少し安心する。

友里恵

なら…なんですか?

翔吾

いや…今日帰りにお前を見かけたんだが…お前の後ろを付ける変なおっさんがいてよ…お前の背後をジロジロ見てたから…知り合いか?

友里恵

えっ…変なおじさん…?

翔吾

あぁ。少し小太りでビニール袋を下げてたな。

翔吾

帰りに誰かと接したか?

私は先輩にそう聞かれ帰りに起きた出来事を思い返す。

友里恵

あっ…そういえば、道端でコンタクトを探してる男性に話をかけました。

翔吾

コンタクト…?

友里恵

はい。男性は視力が悪くコンタクトを探すのに困っていたので…

翔吾

その男性…太っていたか?

私は先輩の言葉にあの時の男性の容姿を思い浮かべる。

友里恵

いえ…確かに歳は少しとっていましたが…小太りではなくビニール袋も持ってませんでした…。

翔吾

そうか。

翔吾

念の為に…玄関の戸締りはしとけよ?

友里恵

えっ…北宮先輩…私の事を心配してくれてるんですか?

翔吾

当たり前だろ。部活の後輩だからな。

友里恵

でも…北宮先輩…

翔吾

なんだ?

私はキーボードを動かす指が止まる。

友里恵

いえ…なんでもありません…。

翔吾

まぁいい。とりあえず、戸締りはちゃんとしろ。分かったな?

友里恵

は、はい…

翔吾

俺、今からダチとギター弾きに行っから。一応なんかあったら連絡してくれ。

友里恵

わかりました…

翔吾

じゃあな。

そういい北宮先輩はLINEを後にする。私もLINEを閉じる。

私はスマホを閉じる。

友里恵

変なおじさん…

私は急いで玄関に向かい鍵をしめチェーンをする。

友里恵

ふぅ…大丈夫…私…大丈夫だから…

自分に言い聞かせるように何度も呟く。

私は台所にいき昨日の夜ご飯のあまりのカレーを電子レンジで温め直す。

電子レンジの稼働音が部屋に響く。

私は炊飯器からご飯を茶碗に盛る。同時に電子レンジから‪”‬チーン‪”‬と音がする。私はカレーを取り出し机にご飯とカレーを置く。

しかし、私の頭の中である言葉が引っかかっていた。

翔吾

『あたり前だろ。部活の後輩だからな。』

北宮先輩のその言葉が私の頭の中を巡る。

友里恵

北宮先輩でも…あんな事言うんだ…ちょっと意外…

私はスプーンを手に取りカレーを口に運ぶ。

友里恵

(モグモグ…)

友里恵

部屋に沈黙が走る。

私はサッとカレーを食べ終え食器を流しに運ぶ。

その時、玄関で‪”‬ガサっ‪”‬という音がする。私はその音に驚きこの場に膠着する。

友里恵

えっ…

私はゆっくり玄関に向かう。するとドアのポストに封筒が入っていた。

友里恵

えっ…もしかしてガス料金の請求書…?

私はスっと封筒を取る。

友里恵

これ…水道でも電気代でもガス料金の請求書じゃない…

封筒にはデカデカと‪”‬友里恵 様‪”‬っと書かれている。

友里恵

なにこれ…誰かのイタズラ…?

私は封筒を持ったままベッドに座る。

友里恵

どうしよ…中身見る前に…念の為に先輩に…

私はスマホを取りLINEを開く。

個人LINE

友里恵

あの!北宮先輩!

しばらくして既読がつき返信される。

翔吾

なんだ…。今、ちょうど演奏してる最中なんだが…

友里恵

すみません…ちょっと先輩に相談したくって!

翔吾

なんかあったのか…?

友里恵

はい…少し…

翔吾

分かった。バンド仲間に中断を言うから少し待ってろ。

友里恵

はい…!

しばらくして再び先輩が返信を送ってくる。

翔吾

で、どうした?

友里恵

それが…急に玄関から変な封筒が届いて…

翔吾

封筒…?

翔吾

写真送れるか?

友里恵

は、はい…

私は封筒を撮影しLINEに送る。

翔吾

なんだこれ?封筒のど真ん中にお前の名前がやけにデカく書かれてんな…

友里恵

はい…まだ中は見てません…。

翔吾

そうか。今俺がいる状態で開けれるか?

友里恵

は、はい。開けれます

私はLINEを開いたまま机にスマホをおき封筒を開封する。中には1枚の紙が入っていた。

友里恵

紙が入ってます。

翔吾

白紙か?

友里恵

いえ…ノートのページを引きちぎったような紙です。あ、中に何か書いてます…。

翔吾

私は紙を開き中に書かれた文章を読む。文章を読んだ瞬間、私は全身が凍りつく。

翔吾

おい!鶴谷!大丈夫か!

友里恵

あぁ…すみません…

翔吾

中にはなんって書いてある…

友里恵

太いマジックで…‪”‬いつも見てるよ‪”‬って書かれてます…。

翔吾

それは…

友里恵

先輩…私…

翔吾

落ち着け。封筒の中はそれだけか?

私は先輩にそう言われ封筒の中を探る。すると1枚の写真が出てくる。写真は私が通学している背後のようだった。写真を見た瞬間、恐怖と不安が私を襲う。

友里恵

先輩…私のしゃ、写真が…

翔吾

どんな写真だ…

友里恵

通学している私の背後のようです…

翔吾

盗撮か…

友里恵

先輩…!私…どうすれば!

翔吾

警察…と言いたいが…今外に出るのは危険だな…分かった。今からお前ん家向かう。絶対外に出るなよ。

友里恵

は、はい…!

私は勇気のある先輩の言葉に少し安否を覚える。

いつもあんなに嫌っていた先輩が、今やとても頼りになるように感じる。

友里恵

先輩…

先輩とLINEが途切れて30分が経過した。

友里恵

先輩…遅いな…

その時、ドアがノックされる。

友里恵

えっ!?

ドア越しから声が聞こえる。

翔吾

鶴谷!俺だ!北宮だ!

友里恵

北宮先輩っ…!

私は急いで玄関に向かいドアを開ける。そこにはギターを背負ったいつもの先輩の姿があった。

翔吾

よかった…無事だったか…

友里恵

先輩っ…

翔吾

とりあえず…玄関まで失礼するよ。

友里恵

どうぞ…!

私は先輩を玄関に向かい入れドアを閉める。

翔吾

さて…その、お前の背後を撮られた写真を見せてくれ。

友里恵

あぁ…これです。

私はポケットから写真を取り出し先輩に見せる。

翔吾

うわぁ…マジの盗撮かよ…

友里恵

先輩…これからどうしたら…

翔吾

さっきもLINEで言ったが…今日外に出るのは危険だ。俺も来る時この団地の駐車場に怪しい車を見てな…

友里恵

怪しい車…

翔吾

あぁ…。黒のバンだ。暗くてよく見えなかったけど…ナンバーが東京ナンバーじゃなかったな。

翔吾

この団地にそんな黒のバン乗ってる人いるか?

友里恵

いえ…見たことないです…

翔吾

…そうか…だとしたら…危ないだろうな…

友里恵

私は先輩の言葉に立ち尽くす。

翔吾

あの後、一応学校にも連絡を入れておいた。お前も親はもちろん頼れる人には知らせておけよ。

友里恵

は、はい!

翔吾

俺はもう帰るよ。長居をすると怪しまれる。

友里恵

分かりました…気をつけてくださいね…

翔吾

それは俺のセリフだ…。気を付けろよ。

私は勇気ある先輩の言葉に頷く。先輩はゆっくりドアを開け家を出る。

私は安心したのかその場に座り込む。私の事を使えない部員としか思っていない先輩が私の為にここまでしてくれる事に私は先輩に対して初めて感謝の気持ちが浮き出てきた。

私は立ち上がる。そしてノートのページと写真を封筒に戻す。

友里恵

警察に話す時に…証拠としてとっておこ…

私は帰りに助けたあの男性の顔が頭を巡る。

友里恵

あの人が…。でも、太ってなかったしビニール袋も持ってなかった…

友里恵

友里恵

今日は戸締りしてもう寝よう…。お母さんにはLINEしとこ…

私は脱衣場に向かいシャワーを浴びる。

温かいお湯が私の体にかかってくる。

友里恵

ふぅ…

私はシャワーのお湯に頭を当てながら俯く。

友里恵

私…やっぱり東京に来るんじゃなかったな…

その時、玄関の方でドアが開く音がする。

友里恵

えっ!?

玄関から足音がし、やがて足音は脱衣場に近ずいてくる。私は風呂場の鍵を閉める。

扉の窓からは大きい人影が見える。

友里恵

いやっ…

私は恐怖のあまりにその場に座り込む。

人影は風呂場の扉に何かを貼って遠ざかっていく。そして足音は遠ざかっていき玄関からドアを開けて出ていく。

友里恵

はぁ…はぁ…

私はあまりの恐怖に体が動かなかった。

友里恵

…もういや…

私はしばらくその場に座り込んでいた。しばらくしてソッと立ち上がりゆっくり風呂場を出る。

風呂場を出てサッとパジャマを着る。私が風呂場の扉を見ると、紙が貼られていた。

友里恵

なにこれ…

紙には‪”‬君は綺麗だ。どこにいても‪”‬と書かれていた。

私は脱衣場から出る。

私は脱衣場を出て玄関に向かう。玄関の鍵は何故か開いており無理やりチェーンが切られていた。

友里恵

…これ…

私は再び玄関の鍵を閉めて机に置いてあったスマホを取る。

友里恵

誰に…誰に連絡すれば…

友里恵

警察…?それともお母さん…?でもお母さん…地元だから今からは来れない…

友里恵

先…輩…?

私は思った。警察や両親に連絡するよりも事情が分かっている先輩に連絡すれば一番手っ取り早いのではないかと。

私は直ぐに個人LINEを開く。

今はともかく、誰かにそばにいて欲しい…

友里恵

先輩!

しばらくすると既読がつく。

翔吾

鶴谷…今夜中の11時だぞ…なんかあったのか…?

友里恵

実は…その…

私は風呂場でおこった出来事を先輩に話す。

翔吾

家に入って来て…風呂場に貼り紙をして出ていったと…

友里恵

はい…鍵も開けられていて…チェーンも切られたので…

翔吾

それは…まずいな…お前、必要な物だけまとめてろ!

友里恵

えっ…

翔吾

今晩は俺ん家に泊めてやるよ。チェーンも破壊され…鍵も開けれるなら…いつ襲われるか分からないだろ。

翔吾

保険証とか身分証とか…個人情報を明かすようなものは全部まとめろ。俺が車でお前ん家の前に行くから。

友里恵

は、はい!

私は先輩の言われた通り保険証や身分証をカバンに積める。

友里恵

これと…あとこれ…

私は必要な書類を全てカバンに詰め終え机に置いた写真を見る。

友里恵

優美…

写真は高校の修学旅行で撮った私と優美の写真だった。私は写真をカバンに入れる。

その時、外から車のクラクションがする。

友里恵

!?…もしかして先輩…?

私はソッと玄関に向かいドアを開け周りを見渡す。通路には誰もいない。

通路を走り急いで階段を駆け下りる。駐車場には白いセダンの横に立つパジャマ姿の先輩がいた。

私は白のセダンの横に立つ先輩に向かって走る。

友里恵

先輩!!

翔吾

鶴谷!無事だったか!

友里恵

先輩…

私は安心しきり目から涙を流す。私の頬に涙が流れる感覚が伝わってくる。

翔吾

鶴谷…怖かったろ…。今回は一線を超えたな…。とりあえず車に乗ってくれ。

友里恵

はい!

私は先輩のセダンの助手席に乗る。

先輩は運転席に座り車をバックさせ団地の駐車場を出る。

翔吾

…で、親には知らせたのか?

友里恵

はい…一応…でも、既読にはなってなくて…

翔吾

そうか…。とりあえず今から警察署による。そこで警察に明かそう。

友里恵

はい。

私は太ももにおいた自分のバックを‪”‬ぎゅっ‪”‬と握る。

翔吾

…保険証とかは持ってきたか?

友里恵

はい。身分証は全て持ってきました。

翔吾

そうか…よかった。

友里恵

あの…

翔吾

ん?

友里恵

先輩って…車持ってたんですね…

翔吾

あぁ…。免許は先月取ったばっか。車は親父が新しい車乗るからってナンバーの更新だけして俺にくれた。

友里恵

そうなんですね…

翔吾

友里恵

あの…

翔吾

あの…が多いな…どうした?

友里恵

先輩って…なんで私に強く当たるんですか…?

友里恵

部活の時…他の子のミスはあまり怒らないのに私には倍怒ってますよね…私…そんなにダメですか…?

翔吾

…お前には脂質がある…なのにお前はその脂質を生かそうとしない…。

友里恵

脂質…

翔吾

俺も高校の時…先輩に脂質を生かす気ないなら部活やめろって怒鳴られたんだ。んで、俺は部活を辞めた。

友里恵

そんな事が…

翔吾

俺はその時…自分の脂質になんて気づいてなかった。お前と同じように。

友里恵

翔吾

で、大学生になってあの時の先輩の言葉をやっと理解した。俺は脂質に気付かぬうちに脂質を捨てていたって…

翔吾

でも…脂質って言われても…分かんねぇよな。

友里恵

私は先輩の会話に耳を傾けるばかりいた。

翔吾

俺も結局…あの時の先輩と同じようにお前に言っているのかもしれない…けど、俺は脂質に気づいてほしくて言っている。

翔吾

けど、時に言い方がきつく…お前の言うように強く当たっていると感じるのかもな…

友里恵

先輩…

翔吾

あぁ悪い…俺ばっか話して…。お前には才能がある。それは大切にしてくれ。

友里恵

は…はいっ…!

私は顔を赤くしていた。

先輩は車を右折させ警察署に止める。

翔吾

俺はここで待っておく。お前は警官におこった事を説明してこい。封筒と貼り紙は持ってきたか?

友里恵

あっ…はい!

翔吾

よし。ここで待ってるから安心して行ってこい。

友里恵

分かりました。

私は車を降りて警察署の中に入る。

私は勢いよく警察署の中にはいる。私を見た警察官は私に駆け寄る。

警察官

あの…大丈夫ですか…?

友里恵

はぁ…はぁ…あの…

警察官

どうかなさいましたか…?

友里恵

私の家に知らない人が勝手に入ってきたり盗撮の写真を送って来るんです…

私は写真と封筒を見せる。

警察官

ストーカーって事ですか…?

友里恵

はい…おそらく…

警察官

お姉さんの住む自宅の住所分かりますか?

友里恵

都内の○△丁目の団地です…

警察官

なるほど…分かりました。周囲に警察官の警備を貼りるよう要請します。お姉さん今夜は大丈夫ですか?

友里恵

大丈夫です。友人の家に泊めてもらうので。

警察官

了解しました。一応、お姉さんの自宅の中も調べさせてもらいますね。あと、念の為に電話番号をお教えいただけますか?

私は警察に電話番号を教える。

警察官

了解です。ありがとうごさいます。お任せ下さい。

友里恵

お願いします。

私は警察官に深々と頭を下げ警察署を出る。

私は警察署を出て先輩のセダンに向かい助手席に乗り込む。

翔吾

大丈夫だったか…?

友里恵

はい。証拠を見せたら捜査してくれると…

翔吾

そうか…とりあえず…あとは警察に任せよう。

友里恵

はい…。

翔吾

とりあえず…今日は俺ん家に泊まるんだったな。

友里恵

お、お願いします…

先輩はバックし警察署を出て車を走らせる。

しばらくすると先輩は自分の家にセダンをバックで止める。

翔吾

ふぅ…

友里恵

だ、大丈夫ですか…?

翔吾

あぁ…大丈…!?

その時、車の運転席が開けられ黒いフードを被った男性に先輩は引きずり下ろされる。

友里恵

せ、先輩!?

先輩は片足で運転席を蹴り閉める。

翔吾

鶴川…!運転席から車の鍵を閉めろ!

先輩が車の外からそう言う。私は無我夢中で運転席から車の鍵を閉める。

その時、運転席の窓に黒いフードを被った男性が窓から顔を覗かせる。外が暗く私は男性の顔をよく見ることができなかった。

友里恵

ヒッ…

男性は私の顔を見た後に倒れていた先輩の体に馬乗りになり顔を殴っていた。

友里恵

先輩!先輩!!

私は車の中から叫ぶしかなかった。外ではひたすらに先輩が殴られている。

翔吾

つ、鶴谷…!絶対に…外には出るなよ…!!

やがて男性は殴るのをやめ私の乗っているセダンを蹴ってその場を去っていく。

私は男性が去ったのを見て車からおり先輩に寄り添う。

友里恵

先輩…!

先輩はヨロヨロと立ち上がり咳をする。

翔吾

ゴホゴホ…プッ…

先輩は地面に血を吐く。

友里恵

あの…先輩…

翔吾

…鶴谷…大丈夫だったか…よかった…

友里恵

先輩…ごめんなさい!私のせいで…

翔吾

このくらい問題ない…殴られたことなんて何回もある…

先輩はドアが凹んだ自分の車を見る。

翔吾

あいつ…やってくれたな…

翔吾

でもまぁ…鶴谷の命に変えりゃ別に対して価値のあるもんじゃないしな。

友里恵

私はあまりの罪悪感にその場を動けなかった。

翔吾

さぁ、家に入ろ。いつあいつが戻ってくるか分かんねぇからな。

友里恵

は、はい…

私は先輩に連れられ先輩の家に入る。

友里恵

おじゃまします…。

翔吾

どうぞ…。

先輩は2階に私を案内しある部屋に私を招く。

私は先輩の部屋に入る。

翔吾

まぁ…くつろいでくれよ…つっても…あんな事があったから安心出来ねぇよな…。

友里恵

すみません…

先輩は押し入れから布団を取り出し部屋にしく。

翔吾

今日はここで寝てくれ。

友里恵

は、はい。ありがとうごさいます。

私は敷布団の上に座る。先輩自分のベッドの上に座る。

私は初めて入った先輩の部屋をチラチラと見る。部屋にはギターや有名アーティストのサインが飾られている。

友里恵

先輩って…本当に音楽が好きなんですね…

翔吾

あぁ…。大学出たら本格的にアーティストの道を考えてるからな。

友里恵

そうなんですね…

翔吾

……子守唄代わりになんか引いてやるよ…。

友里恵

えっ…いいんですか…?

翔吾

あぁ。リクエストしてくれ。

友里恵

じゃあ…

友里恵

月の光で…!

翔吾

月の光…?あの確か…韓国映画のエンディングになってたあの曲だよな…

友里恵

はい。多分…

翔吾

あれ…ピアノとバイオリン向けなんだよな…ギターで引けるか…?

先輩はギターを手に取り足を組んで片耳にイヤホンをする。

翔吾

そ、それじゃあ聴いてください…後輩に贈る…月の光…

先輩はギターを弾き始める。本来の月の光とは少しベースは違うが、それでも先輩はギターの良さを活かしてそのベースを上手くカバーしている。

私は黙々と先輩の演奏を聴いていた。

先輩は目で私に何かを促す。

翔吾

友里恵

…?

私が先輩のやる目線の方を見ると、そこにはフルートがあった。私はフルートを手に取る。

先輩はギターを弾きながら私に話す。

翔吾

そのフルート…俺が一度も使ったことない物だ。お前、吹奏楽ではフルートを担当してるだろ?吹いてみてくれよ。

友里恵

えっ…いいんですか…?

翔吾

ぶっちゃけ…俺フルート吹けねぇし…

友里恵

なんですかそれ…

私はフルートを持って先輩の隣に座る。そして先輩のギターのベースにあわせフルートを吹く。

先輩は私のフルートの音色が崩れないように上手くサポートしてくれる。

いつも失敗してばかりのフルートが、何故か今日は上手く吹けている。

やがてゆっくり演奏は止まる。

翔吾

上手いじゃないか…

友里恵

そ、そうですか…?

翔吾

あぁ…それに…楽しそうだったぞ。

友里恵

えっ…

翔吾

吹奏楽部の演奏の時は顔をしかめてガチガチなのに…さっきの演奏ではとても楽しそうに演奏していた。

翔吾

音楽を楽しく演奏する…それがお前の質でありお前のいい所かもな。

友里恵

私の胸の中にあったモヤモヤが、先輩の言葉で一気に晴れた。私はこの時、今までにない感覚におそわれる。

友里恵

…ありがとうごさいます…

翔吾

ん?

友里恵

あぁいえ。なんでもありません。

翔吾

そうか…。もう夜も遅い。お前はもう寝ろ。

友里恵

えっ…先輩は…?

翔吾

俺は起きてるよ…。あいつが戻って来るかもしれないからな。

友里恵

分かりました…。

友里恵

それじゃあ…

翔吾

あぁ。おやすみ

友里恵

はい…

私は敷布団に入り眠りにつく。先輩はベッドの上でギターをメンテナンスしていた。

そして私は完全に眠りに落ちる。

友里恵

うぅ…

私は少し重い体を起こす。

外からは朝日が差し込んでいた。

友里恵

もう朝…?

翔吾

起きたか…。

友里恵

えっ!?先輩!?

翔吾

…なんでそんな驚いてんだよ…

先輩は両手に茶碗を持っていた。

翔吾

ほら、朝飯。よかったな。良く考えれば今日土曜だったわ。

友里恵

は…はぁ…

先輩は茶碗を机におく。

私は茶碗を受け取る。

友里恵

これって…

翔吾

あぁ。卵かけご飯。

友里恵

TKG!?

翔吾

そうだが…

友里恵

先輩って毎日の朝ごはん…

翔吾

卵かけご飯だが…?

友里恵

そ、そうなんですね…

私はご飯の上の卵黄をわりかき混ぜる。

翔吾

今日はとりあえずお前ん家に戻ってみるか。

友里恵

(モグモグ)…あ、はい。

翔吾

ついでに俺も…警察に被害届出しとこ…昨日のアザがまだ痛えからな。

友里恵

私はご飯を食べ終え先輩に茶碗を渡す。

友里恵

ごちそうさまでした。

翔吾

あぁ。

先輩は茶碗を持って部屋を出る。しばらくすると先輩が戻ってくる。

翔吾

ほら、行くぞ。忘れもんすんなよ。

友里恵

は、はい。

私は持ち物をカバンに入れ立つ。そして先輩についていき先輩の家を出る。

先輩と私は車に乗り込む。先輩は車のエンジンをかけバックして車を走らせる。

少し変わった東京の街並みが窓からすぎて見える。

私はカバンから写真を取り出し眺める。

翔吾

…友達か?

友里恵

はい。地元にいる親友です。

翔吾

…そうか…

友里恵

先輩の地元はどこなんですか…?

翔吾

俺の地元は香川だよ。

友里恵

えっ!?香川!?

翔吾

あぁ。

友里恵

東京から香川だと…かなりの距離ですよね…

翔吾

でも、俺はこうやって車持ててるから帰れなくもないだろ?

友里恵

そうですけど…

やがて先輩は車を私の住む団地に止める。しかし、団地の前は警察が立ち入り禁止の警備をしていた。

友里恵

えっ…

翔吾

なんかあったのか…?

先輩は近くの道路の隅に4灯をたき車を止める。

翔吾

歩いて近くまで行くぞ。

友里恵

はい…

先輩は車をおりる。私も車をおり先輩についていく。

先輩が近くにいた警察官に話をかける。

翔吾

何かあったんですか?

警察官

あぁいえ。この団地の4階にすむ女性の部屋が酷く荒らされてまして…

友里恵

それって何号室ですか!

警察官

えっ…確か410号室だったかと…

友里恵

410…それ…私の部屋です…

翔吾

警察官

えっ…てことは…

友里恵

私…鶴谷友里恵です。

警察官

えっ!

友里恵

私の家を見せてください!

警察官

ど、どうぞ!

警察官はテープをあげ私と先輩を中に入れる。

私は警察官に案内され自分の部屋にいく。

友里恵

何…これ…

翔吾

酷い…

警察官

近くの住民に、隣の部屋から凄い物音がすると警察に通報がありまして。近くを警備中だった警察官が向かった時にはこのザマでした…

友里恵

…酷いよ…誰がこんなこと…

翔吾

もしかしたら…昨日のあいつ…

警察官

あいつ…?

翔吾

あぁ。昨日、彼女を僕の家に泊めてあげたんですけど家に着いた途端黒いフードを被った男に車を引きずり下ろされて殴られたんです。

警察官

その男の特徴…覚えてる?

翔吾

はい。少し小太りで歳をとっていて…髪型は少しパーマがかかっていました。

警察官

なるほど…その人物についても警察で調査を行います。

翔吾

お願いします。

友里恵

翔吾

鶴谷…大丈夫か?

友里恵

気持ち悪い…ちょっと外出たい…

翔吾

あぁ。分かった

私は先輩と一緒に外に出る。そして駐車場におりる。

友里恵

うぅ…

翔吾

大丈夫か?

友里恵

はい…少しマシになりました…

私があまりを見渡すと、少し野次馬が集まっていた。その野次馬の中にあの時コンタクトを探していた男性がいた。

友里恵

あの人…

翔吾

えっ…

私は男性に近ずき話をかける。

友里恵

すみません。

男性

あっ…君はあの時コンタクト見つけてくれたお姉さん。

友里恵

あの…なんのつもりですか!

男性

えっ…

私は男性に向かって訴えるように言う。

友里恵

盗撮したり家に入ったり先輩を殴ったり…

男性

えっ…?なんの事…?

友里恵

えっ…

男性

いや…ごめん。なんの話してるのかなーって…

友里恵

いやだってあなた…

翔吾

鶴谷…この人がストーカーっていう明白な証拠はないんだ…落ち着け。

友里恵

…すみません…

男性

ストーカー?

男性

あぁ。そうそう!お姉さんに言いたい事あったんだけど

友里恵

はい…?

男性

あの時、コンタクトを拾ってくれた後君の背後をジロジロ見る変な奴いてさ…教えればよかったんだけど君が素早く去って行くから…

友里恵

変な奴…?

男性

あぁ。黒いフード被っててビニール袋持ってたな。

翔吾

そいつは…

男性

あぁ。すげー嫌な感じだったよ。

友里恵

そうなんですね…疑ってすみませんでした…

私は男性に向かって深々と頭を下げる。

翔吾

あの…そこ事を一応警察に話してもらってもいいですか?

男性

あぁ。分かったよ。

男性は先輩に頷き警察官のところに向かっていく。

友里恵

あの人じゃなかった…

翔吾

そうだな…

翔吾

ん?

その時、先輩は鋭い目線で私後ろを見ていた。

翔吾

鶴谷…後ろ…

友里恵

えっ…

私は後ろを見る。そこには建物の影からこちらを見つめる黒い人影があった。

友里恵

ヒッ…もしかして…

翔吾

鶴谷…逃げるぞ…

先輩は私の手を引きセダンに向かう。

翔吾

乗れ!

友里恵

は、はい!

私は車に乗り込む。先輩は車を勢いよく走らせる。

後ろからは黒のバンが追いかけてきていた。

翔吾

チッ…ついてきてる…

友里恵

うぅ…

先輩は住宅街に車を進める。すると、黒のバンは後ろから消えていた。

翔吾

振り切ったか…!?

その時、十字交差点の角からさっきの黒のバンが先輩の車に向かって横から突っ込んでくる。

車は縁石にあたり止まる。

友里恵

うぅ…

その時、私の助手席のドアが開けられ私は引きずり下ろされる。

私が車から引きずり下ろされると外には黒いフードを被った男が立っていた。

友里恵

(いや…逃げなきゃ…)

しかし、あまりの恐怖に私は体が動かなかった。

翔吾

彼女に…手を出すな…

車からは片腕を抑え頭から血を流す先輩が降りてくる。

友里恵

(先輩…ダメ…殺される…)

男はポケットからナイフを取り出す。そして先輩を車の車体に押し付ける。

友里恵

(いや…先輩が…)

翔吾

なめんなよ…クソ野郎!

先輩は押し付けていた男を片足で蹴り飛ばす。男は地面に倒れる。その衝撃でフードがめくれる。

友里恵

えっ…

翔吾

やっぱりお前だったか…

そこには私が所属している吹奏楽部の顧問の先生がいた。

先生

チッ…クソ…

友里恵

なんで…先生が…

先生

鶴谷は心配しなくていい。

先生は立ち上がり先輩に向き合う。

先生

お前の事は昔から嫌いだった。北宮

先生

対して演奏が上手いわけでもないのに部員達に怒鳴りつけ無理やりにでもやらせようとする…

先生

とくに俺の鶴谷には怒鳴っていたな…

友里恵

えっ…

先生

鶴谷の演奏は美しく…お前の演奏より遥かに上手なのに…

翔吾

ハハハ…なんだよ先行…。鶴谷の事を恋人とでも思ってんのか?

先生

恋人だが何が悪い…?

友里恵

(いや…違う…)

確かに今まで先生は他の生徒より私に人一倍優しくしてくれた。しかし、先生の恋人になった覚えはない。

先生

だから…北宮…大人しく消えろ

翔吾

おいジジイ。舐めてんじゃねぇぞ?

先生は先輩に向かって突っ込んでくる。先生は先輩の腹部にナイフを突き刺す。

翔吾

ガッ…!

友里恵

先輩!!

翔吾

この野郎…!

先輩は自分の腹部に刺さったナイフを抜き取り先生の脇下に刺す。

先生

うぅ…あぁ!い、いだい!

先生はその場に倒れる。

先輩も車にもたれて座り込む。

先生

鶴谷…こっちに来い…

翔吾

先生

鶴谷!なんでそんな奴の方を見ている!

友里恵

…先生…私はあなたの恋人になった筋合いはありません。

私はキッパリ先生にそういい先輩に向かって走り先輩に寄り添う。

友里恵

先輩!

翔吾

…鶴谷…

友里恵

大丈夫ですか!

翔吾

あぁ…大丈夫…だ。

友里恵

早く救急車を…!

そしてその後、救急車と警察が到着し先生はその場で捕まり先輩と私は病院に搬送された。

先輩と私は病院に搬送され先輩は入院する事になった。

友里恵

大丈夫ですか?先輩?

翔吾

あぁ…少しマシになったよ…それでも入院するはめになったけどな…

友里恵

そうですか…

私は俯き。顔を少ししかめる。

翔吾

ともかく…お前が無事でよかったよ。

友里恵

先輩…

私は笑みを作り先輩に向かって言う。

友里恵

退院したら…またギター弾いてくださいよ!

翔吾

…もちろん。その代わり…

翔吾

お前のフルート付きでな?

友里恵

先輩…。

友里恵

もちろん!

外からは夕日が差し込む。夕日の温かい光が私を照らすのであった。

苦手な先輩は今日もギターを弾く [完]

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コメント

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先輩不器用なだけのただの良いやつじゃねぇか、好き

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