天使だと思っていた彼は、実は悪魔だったの…?
ああ懐かしい!この感じ。 いつ戻って来たの?
先週からです。祖母の葬儀で。
そうなんだ~ でもびっくりした~由紀ちゃんに会えるなんて!
小学校卒業以来だよね! 私その小学校で教師やってるんだよ!
校門の前に知らない女の人がずっと立ってるから不審者かなって思って声をかけてみたら、
いきなりノートを取り出して ___私は耳が聞こえないのでこのノートに書いてくださると助かります__って!
由紀ちゃんじゃん!「もしかして…」って確認するとやっぱり由紀ちゃんだったし!懐かしい~~って!
こうやってノートで会話してるのも超懐かしい!!
由紀ちゃん凄く綺麗になったよね!「ミサンガさん」とか一目惚れしそう^^
「ミサンガさん」って言うのは、うちの学校の清掃員。いつも白と黒のミサンガしてるから私はそう呼んでる。
そう言えば私のこと覚えてる?
辻村さんでしたよね。
香織でいいよ~。名字も辻村のまま。旧姓 辻村とか言ってみたい!結婚した~い!!><
まぁ悲しくなるだけだから この話は置いといて。。 じゃあ美鈴(みれい)ちゃんって覚えてる?
はい
まぁ私のことを覚えてたなら当然覚えてるよね。天使みたいな人だもん。
お兄ちゃんは最低だけど。
美鈴さんのお兄さん?
そう。七瀬澄人(すみと)。私達の1コ上。
由紀ちゃんも知ってると思うけど最低な兄なんだよ。見た目は爽やかイケメンだから余計に質(たち)が悪い。
平気でお金を巻き上げるし、些細なことで すぐ手が出るし…ちょっと音を立てただけで うるさいって殴られたんだって。
いつも笑顔を絶やさない美鈴ちゃんは、お兄ちゃんに いじめられてたんだよ。
由紀ちゃんもさ、お兄ちゃんに嫌な目にあわされたでしょ?覚えてない?
図書室で欲しい本があるけど手が届かなくて困ってる由紀ちゃんにお兄ちゃんが しゃしゃり出て来て恩着せがましく本を取ってあげたりしてさ
その時由紀ちゃんは会話用のノートを持って無くて肉声でお礼を言うしか無かったんだけど、 耳が聞こえないから上手く発声出来ないんだよね。
きっとお兄ちゃんは由紀ちゃんが耳が聞こえないのを知ってて本を取ったんだよ。外国人みたいな「ありがとう」を聞くために。
他にも由紀ちゃんの私物隠したり壊したりされてたよね。あれもお兄ちゃんの仕業だよ。最低だよね。
美鈴ちゃんは天使だけど、お兄ちゃんは悪魔だと思う。どうして兄妹でこんなに違うんだろう。
ここまでは由紀ちゃんも知ってるよね。有名な話だもん。
でもまだ続きがあるんだよ。中学進学で町を出て行ったから由紀ちゃんは知らないよね。
美鈴ちゃん今どうなってるか知ってる? 入院してるんだよ。悪魔に階段から突き落とされて全治2ヶ月。
あー思い出しただけで腹立って来た! もうこんな話止めて楽しい話しよう!
由紀ちゃん本当綺麗になったよね!びっくりしちゃった。昔はフリルとかスカートとか一切身につけないから男の子かと思ったもん。
きっと皆もびっくりするよ。皆にも会ってみない? 今 同窓会しようって話が出てるの。
幹事はもちろん美鈴ちゃん!退院したらパーっとやろうって話になってるの。由紀ちゃんも来ない?
私は、あと2~3日したら戻るので…。 美鈴さんによろしく言っておいてください。
美鈴さんが そんな大変なことになっているなんて知りませんでした。 美鈴さんのお兄さんは今どうしていますか?
知らないよそんなの。知りたくもない。 もうあの人の話はいいじゃん。どうして蒸し返すの?
由紀ちゃんだって嫌な思いして来たんでしょ?皆で「可哀想だね」って言ってたんだから。
でも一番可哀想なのは美鈴ちゃんか。
本当あの人は悪魔だよ。
貴方とお話するのは初めてですよね。同じ小学校を卒業したけど接点は無かったので。
訊きたいことって何ですか?どうして貴方とクラスが違う俺に訊きたいんですか?
先程も申し上げた通り、俺と貴方の接点は全く無かった。
俺は4組。貴方は1組。「耳が聞こえない人が1組にいる」と当時は話題になったけど、わざわざ教室2つ分を歩いて見に行こうとは思わなかった。
簡単に言うと興味が無いんです。小学校の時の貴方の顔もよく覚えていません。
それでも良かったら質問してください。役に立つとは思えませんが。
美鈴さんが兄の澄人さんに階段から突き落とされて全治2ヶ月の怪我を負っていると聞きました。
私も小学生の時、澄人さんと面識はありますが私には読書が好きな少年という印象の方が強かったように思うんです。
そこで当時図書委員だった俺に話を聞きたいと言うことですか。 その認識は合ってると思います。
パソコンで筆談しているように、俺はパソコンが恋人です。 七瀬澄人さんは紙が恋人なんじゃないかな。
澄人さんは年上なのでここからは先輩と呼びます。先輩はかなりの読書家だったと思います。
図書カードってあったじゃないですか。貸し借りする時に図書委員から判子を貰う。1枚20冊。
先輩は1ヶ月で2枚目が欲しいって言って来たんです。 実際毎日図書室に来て本を読んでいました。
皆は「最低な兄」として先輩を認識していたけど、俺は「読書家のイケメン」として認識していました。
「妹は天使、兄は悪魔」って言う図式は学年を越えて浸透してたから先輩は孤立してました。友達はいなかったと思います。
ああでも1人例外がいたかな。
1人だけ先輩と親しそうにしている人はいました。男の人です。
静かにしないといけない図書室だから気を遣ってるのか、先輩と男の人の会話はノートで行っていました。
本とかDVDを渡しあってたりしてました。 あとは、
先輩は男の人に切り絵を披露してました。結構上手でしたよ。紙が恋人だって言ったのは そこらへんが理由です。
男の人も先輩に、白と黒のミサンガをあげてました。
二人には定位置がありました。貸し出しカウンターから一番遠い席。カウンターにいる俺に背を向けて男の人が座って向かいに先輩。
先輩の顔は見えました。普通に楽しそうでしたよ。
でもあの顔も接待だったんですかね。皆の言う通り先輩は悪魔で、俺の知らない所で何かやったのか、
突然男の人は図書室に来なくなりました。
1週間経っても1ヶ月経っても…。 何があったんですかね。図書委員の俺より早くあの2人は図書室にいたのに
結局先輩はそのまま卒業して行きました。
先輩は男の人が来なくなっても図書室に通い続けていましたよ。
図書室に人が入って来る度に弾かれたように顔を上げて、違うと分かれば肩を落として読書に戻る___
普通に寂しそうでした。
男の人と一緒にいる時の楽しそうな先輩を見ている時から時々思っていたことがあるんです。
この人は本当に悪魔なのかって。
まぁでも昔から人の顔をあまり見ずに生きて来た俺ですから
周りと考えがズレてるのかもしれません。参考にしない方がいいですよ。
澄人君のことを調べていると聞きました。はじめまして。澄人君の家の隣に住んでいる者です。
「妹は天使、兄は悪魔」。この町ではそれが常識になっていますが貴方は違うようですね。
分かります。 美鈴さんの話を聞きたがる人は沢山いるけど澄人君の話を聞きたがる人はいませんから。
実は私も 違うのではないかと思っています。
何故そう思うのかを、今回手紙にまとめさせて頂きました。お付き合い頂ければと思います。
澄人君の家からは時々怒鳴り声が聞こえて来ていました。明らかに大人の男性の声です。
それに伴って何かが割れる音、壁にぶつかったような音___。
ある仕事帰りのことでした。10時を回っていたと思います。
なんとなく隣の家のベランダを見た私は、声をあげそうになりました。
人が立っていたんです。澄人君でした。
普通 気配とか視線とかでなんとなく人がいるなってことは分かるじゃないですか。
それが無かったんです。本当にびっくりしました。 まるで息を潜めているような感じでした。
とにかく びっくりしたんです。びっくりして固まっていると、澄人君の後ろで家の中に通じる窓が開きました。
家の中から低い声がボソボソと聞こえて来ました。恐らく中に入れと言ったのでしょう。澄人君は足音を立てずに家に入って行きました。
きっと音を立てないようにするのがあの少年の癖になっているんだと思います。
何故か?殴られるからじゃないですか。 あの家では 「ちょっと音を立てたら うるさいって殴られる」んですよ。
妹の美鈴さんが散々そう言っていたのを貴方もご存知ですよね?
美鈴さんの言っていることは半分は本当で半分は嘘なのではないかと考えています。
澄人君の母親が再婚して現在の家庭を築いていることはご存知ですか?
母親は澄人君を生んですぐ旦那さんに捨てられたそうです。乱暴な言い方をすれば望まない妊娠だったんです。
そしてこの町に引っ越して来て、再婚しました。
そして美鈴さんが生まれました。今度は、変な言い方ですけど「望んでいた妊娠」です。
ちゃんと準備をして生んだ美鈴さんの方が可愛いく見えるんでしょうね。子供に罪は無いのに。
美鈴さんは大切に育てられたと思います。私は一度だって美鈴さんがベランダに出されているのを見たことはありません。
あからさまに えこひいきされたら性格だってねじ曲がると思います。
果たして兄と妹、どちらが悪魔なのでしょうか。
もう回りくどい言い方は止めます。
私が言いたいのはただ1つ。 澄人君は悪魔なんかじゃない
___と、私は勝手ながらそう思っています。 長々とお付き合い頂き有難う御座いました。
拝啓、と書くのは堅苦しいから抜きにします。
私と貴方は友達だったから。 私は友達だと思ってます。
まずは、お礼を言わせてください。
頭のおかしい女だと思われたはずです。 「三田村 由紀です」と書かれたメモ用紙と共にいきなり手紙を押し付けて。
それでも受け取ってくれたこと、そして封を切りこの文章を読んでくれたこと、本当にありがとうございます。
貴方のことは白と黒のミサンガを見た時から気づいていました。 昔私があげたミサンガです。
小学校の清掃員をされていたんですね。「ミサンガさん」と呼ばれているのはご存知ですか。
貴方は、耳が聞こえない男の人のようだった私のことを覚えていないかもしれないけど 私は覚えています。
「ミサンガさん」、いえ七瀬澄人さん。お久しぶりです。
小学生の時、本やDVDを貸し借りした三田村 由紀です。
私は前の学校でいじめに遭った経験から、クラスに馴染めず心が落ち着く場所は図書室しかありませんでした。
欲しい本に手が届かず困っていると、貴方が取ってくれましたね。
私の下手くそな「ありがとう」を聞いても貴方は笑わなかった。眉をひそめることもしなかった。
笑っていたのは香織さんと美鈴さんだってことも分かってます。
私がノートに書いている間も焦らさずに待ってくれたし、貸してくれたDVDは全部字幕付きでした。
天使のような人だと思いました。
密かに好意を寄せていたんですよ。
当時の私はフリルとかスカートは一切身につけなかったから、貴方には男の人だと思われてましたけど。
だから美鈴さんに真剣な顔で忠告された時はショックでした。 「お兄ちゃんは悪魔なんだよ」
そんなわけない!って思いたかったけど、私は目からしか情報を得ることが出来ないから
私がノートを書いている間も「早くしろよ」と小声で言っていたのかもしれない___丁度その時身の回りの物をよく隠されてたから
私もう分からなくなって、図書室に行かなくなりました。
それでもこの町を出てからもずっと、貴方のことが忘れられませんでした。
この町に戻って来た時も、気になったのは同級生の近況ではなく貴方のことでした。
あの時 勝手に距離を置いてしまったことを後悔しています。貴方のことが好きだったのに。
今なら言える。 貴方は悪魔なんかじゃない。私の天使です。
私はまた、きっと、絶対、この町に戻って来ます。
澄人くんさえ良ければ、またオススメの本やDVDを教えてください。 三田村 由紀
追伸 次戻って来た際はミサンガを持参したいと思います。お揃いにしたらカップルに見えるかな?なんて。
「今度 同窓会開くんだけどお金貸して。どうせ予定無いでしょ」
階段を下りようとした僕に、丁度階段を上って来た妹が 事も無げに言った。
「友達ゼロ人間でしょ。 あ、1人だけいたんだっけ?耳が聞こえない人」
「はみ出し者コンビが図書室でイチャイチャイチャイチャ。馬鹿じゃないの?」
「特別なナニカを期待した?ちょっと私がカマかけたら あっさり避けられたくせに」
「ちょっと考えたらおかしいって分かるじゃない。あんな鵜呑みにする?」
「私物を隠したりしたのも本当は私なのに、本当馬鹿。オレオレ詐欺にでも引っ掛かるんじゃないの?」
「あ、耳が聞こえないから電話が来ても分からないか。____何?怒ってるの?」
「手を出す?出してもいいけど悪者になるのは あんただから」
「この町では私が天使であんたが、悪魔_____
「その瞬間」の時は覚えてない。 気づいたら妹は救急車で運ばれていた。
とんでもないことをした自覚はある。だけど後悔はしていない。
僕の唯一の友達を悪く言われたのが堪えられなかったから。
僕が天使だなんてとんでもない。
貴方こそ僕の天使でした。
恥ずかしい話ですが、ずっと貴方のことを男だと思っていました。 由紀(ゆうき)くん だと思っていたんです。
どうして男の人相手に こんなに一喜一憂するのか ずっと不思議だったけど簡単なことでしたね。
「恋」とか「両想い」とか僕には一生無縁だと思っていたけど、そんなこと無かったですね。
由紀くん、いえ由紀さんにオススメしたい本やDVDはたくさんあります。
切り絵もあの時より上手くなりました。早く披露したい。貴方が一番好きだと言ってくれた天使とか。
貴方が戻って来る日を楽しみに待っています。 七瀬澄人
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コメント
7件
天使も悪魔も人の感じ方、 考え方次第ですがこれは酷い… 「望まれた天使」は「望まれなかった子」 を「悪魔」にして、なんだか自分自身が 悪魔に成り果ててしまったような… 解釈が意味不明ですが、 自業自得なんて思ってしまいました。 周りに負けず、お互いの気持ちを 手紙で伝えあったふたりは素敵です✨ 心を揺さぶられるような切ないお話でした。 ブックマーク失礼します!
影で馬鹿にしつつ、いけしゃあしゃあといい人ヅラする友達に寒気を感じつつ、二人が真実に気づけたことに救われた気分になりました!
どうしたのか、気が付いたら泣いていました() 非リア弟さんの文章って、スっと入ってきていつの間にか泣かされてるんですよ(褒めてます) 今回もめちゃくちゃ泣かされました(褒めてます)