マヤ
ミキさん、この度はカズヒロとの結婚おめでとう
ミキ
お義母さん!ありがとうございます
ミキ
不束者ですがよろしくお願いいたします
マヤ
本当に不束者よね
ミキ
え?
マヤ
あなた、女のくせに大学も出て、働いてるんでしょう?
ミキ
はい、でも今の時代働いている女性は珍しくないと思いますが…
マヤ
だからこの国はおかしくなったのよ!
マヤ
女が家を出て外で働くだなんて考えられないわ
マヤ
そんな事でどうやって家庭を守るっていうの?
ミキ
それは夫婦で協力し合って一緒に家族を守っていくべきだと思います
マヤ
そんなんでいいわけないでしょ!
マヤ
あんたみたいな女がいるから皆おかしくなっていくのよ
マヤ
女に学なんていらないわ、炊事家事ができればそれでいいのよ!
マヤ
今の女たちは旦那様の3歩後ろを歩くって事すらできないらしいわね!
ミキ
それは、流石に時代錯誤すぎるのでは…
マヤ
アンタ達がおかしいのよ!
マヤ
女のくせに男より仕事して金を稼いで、偉そうにしちゃって!一体何様のつもりなの?
ミキ
偉そうにしているつもりはなかったんですが…
マヤ
黙りなさい!
マヤ
あんたの家事にどこか少しでもミスがあれば即刻カズヒロと離婚してもらいますからね!
ミキ
頑張ります…
~1年後~
マヤ
ミキさん、ちょっといいかしら?
ミキ
どうかされましたかお義母さん?
マヤ
カズヒロに聞いたんだけど、あなたカズヒロよりも収入がいいんですって?
ミキ
ええ、といってもカズくんは自分の夢を叶えた形ですから、収入はさして問題では…
マヤ
カズくん!?
ミキ
はい、いつもカズくんと呼んでます
マヤ
旦那様に向かってどういう口の利き方をしてるの!?
マヤ
カズヒロさん、でしょ!?
ミキ
すみません…
ミキ
ご存知だとは思いますが、カズヒロさんは昔から画家になるのが夢でした
ミキ
今はまだ画家として活動し始めたばかりで認知度がなく収入はちょっと少ないですが
ミキ
私たちの間に収入云々は関係ありませんので大丈夫です
ミキ
その分私が稼げばいいだけですから
マヤ
なんて生意気なの!
ミキ
え?
マヤ
旦那様より稼いでどういうつもり!?
ミキ
でも共働きしないと生活できないので…
マヤ
嫁より収入の低い旦那様なんて、世間からどう見られると思う!?
マヤ
あなたカズヒロに恥をかかせたいわけ!?
ミキ
そういうつもりはありませんでした…
ミキ
少しでもカズヒロさんの支えになれればと思って…
マヤ
あなたが仕事を辞めて家に入って家事に専念すれば
マヤ
カズヒロだって作業に集中できるんじゃないの!?
マヤ
カズヒロの仕事が上手くいってないのはあなたのせいよ!
ミキ
そんな…すみません
ミキ
でも私も働かないと生活ができないので…
マヤ
カズヒロも可哀想だわ、こんな年増の女に捕まっちゃって
マヤ
カズヒロならもっと若くていい女をいくらでも選べたのに
マヤ
なんでよりによって7つも年上の年増なの?
ミキ
すみません…
マヤ
まあいいわ、そのうちカズヒロも目を覚ますに違いないわ
マヤ
家に入って旦那様を支えず、女のくせに外で仕事をする女房なんて不必要だってね!
~1年後~
マヤ
ミキさん、単刀直入に聞くけど
ミキ
なんでしょうお義母さん?
マヤ
あなた、子供は作れる身体なんでしょうね?
ミキ
えっと、それはどういう意味でしょう?
マヤ
あなたもう32歳でしょ?女としての機能はまだ働いてるのかって聞いてるのよ
ミキ
今の時代32歳での出産は珍しくもなんともないと思うんですが
マヤ
そんなの知らないわよ!私からすると遅すぎるのよ!
マヤ
私たちの時代じゃ30歳はもう行き遅れ!出産なんてもってのほかなのよ!
ミキ
あの、私は大丈夫です
ミキ
子どもも産めます
マヤ
本当ね?手遅れにならないうちに早く孫の顔を見せなさい
マヤ
ちゃんとカズヒロとそういう話はしてるのかしら?
マヤ
まさか無計画ってわけじゃないでしょうね?
ミキ
いえ、ちゃんとそういう将来の話もしています
ミキ
カズヒロさんの仕事もかなり落ち着いてきたので
ミキ
そろそろ子どもも欲しいね、っていう話をしています
マヤ
そうなの?いつ?
ミキ
いつかはまだ分かりませんが…
マヤ
早くしなさい、そういう事は早いうちがいいんだから
マヤ
ちゃんと検査はしたんでしょうね?
ミキ
検査、ですか?
マヤ
あなたが子どもが産めるのかどうかよ!
マヤ
あなたの身体に問題があって産めないかもしれないでしょ!
マヤ
子どもが産めない女なんて、即離婚させるわよ!
ミキ
分かりました、すぐ検査します
マヤ
そうしなさい!
~数年後~
マヤ
ミキさん、次はいつうちに来るの?
ミキ
お義母さん、こんにちは
ミキ
次いつ伺えるかはまだちょっとわかりません
マヤ
なんでよ?可愛い孫の顔を少しでも多くみたいっていう私達に対する嫌がらせなのそれは?
ミキ
とんでもないです!そんなことありません
ミキ
ただ私もカズヒロさんも仕事が忙しくて…
マヤ
仕事!?あなたまだ仕事してたの!?
ミキ
はい、育休をもらって完全にお休みすることも考えたんですが
ミキ
将来の事を考えたら、少しでも働いて貯金した方がいいと思いまして
マヤ
あんた何考えてんの!?
マヤ
その間孫はどうしてるのよ!?
ミキ
カズヒロさんが見てくれています
ミキ
カズヒロさんがどこかアトリエに行ったり用事がある時は私が見ています
ミキ
会社も育休などに理解が深く、色々と融通をきかせてくれるので
マヤ
子どもは母親が見るものでしょ!
マヤ
しかもよりによって旦那様に育児をさせるなんて!
マヤ
そんな姿、世間様が見たらどう思う!?
ミキ
でも最近カズヒロさんはイクメンアーティストとして注目されていまして…
マヤ
イクメン!?なによそのはしたない言葉は!
マヤ
男は外で働く!女は家で家事と育児!昔からそう決まってるのよ!
ミキ
すみません…
マヤ
全く、カズヒロはなんでこんな女がいいのかしら
マヤ
理解できないわ!
ミキ
申し訳ございません…
マヤ
ところで、孫の話なんだけど
ミキ
なんでしょう?
マヤ
あんまりカズヒロに似てないと思うのよね
ミキ
そうですか?目元なんかそっくりだと思いますが
マヤ
いえ、似てないわ
マヤ
あなた…本当にあの子、カズヒロとの子なの?
ミキ
…どういう意味でしょう?
マヤ
どういう意味もへったくれもないわ
マヤ
まさか、別の男との間に生まれた子じゃないでしょうね?
ミキ
そんなわけありません!
ミキ
正真正銘、私たちの子です!
マヤ
ほんとかしら?じゃあDNA検査っていうの?あれをやってちょうだい
ミキ
分かりました、絶対に私たちの子なので検査することに問題ありません
マヤ
どうかしらね?検査が楽しみだわ
~数週間後~
ミキ
お義母さん、今ちょっとよろしいでしょうか?
マヤ
なに?あなたの相手してる暇なんてないから手短にお願い
ミキ
この間お話されていたDNA鑑定の結果が出ました
マヤ
あらそうなの?
マヤ
じゃあ聞かせてもらおうかしら?
ミキ
実際の資料は会ってからお見せするとして、検査結果は真っ白でした
マヤ
真っ白?
ミキ
つまり100%完ぺきに私たちの子だという事です
マヤ
ほんとかしら?どっかで検査ミスとかあるんじゃないの?
ミキ
それはないと思います
ミキ
そして、ここからが本題なんですが
マヤ
なによ?
ミキ
私と、カズヒロさんと、子供の血液型の組み合わせは問題ありませんでした
ミキ
お義母さんお義父さんから辿ってみると…おかしなことになっちゃうんです
マヤ
…どういうこと?
ミキ
単刀直入に言います
ミキ
カズヒロさんはお義父さんの子どもじゃないですね?
マヤ
…へ?
ミキ
おかしいんですよ、血液型の組み合わせ的に
ミキ
私はあまり詳しくなかったので気付かなかったんですが
ミキ
カズヒロさんが真っ先に気付きました
ミキ
自分の両親の血液型からして、自分の子供の血液型がおかしい事に
ミキ
本来ならならないはずの血液型になってたんです
ミキ
自分の両親の血液型がおかしい
ミキ
どちらかが本当の親ではない事になる
ミキ
そしてカズヒロさんは養子でもなんでもない、という事はつまり…
ミキ
お義父さんが、カズヒロさんの本当の父親ではないということです
マヤ
そんな…
ミキ
お義母さん、不倫してできた子どもをお義父さんとの子だって偽ってずっと隠してきましたね?
マヤ
どうやってそんなことを!全部デタラメよ!
ミキ
いいえ、これは検査ではっきりと分かった事です
ミキ
残念ですがカズヒロさんはその事実に気付いてしまいました
マヤ
まさか!今になってこんな事になるなんて…
ミキ
カズヒロさんはこの事をお義父さんに伝えると言っていました
マヤ
そんな、こんな事って…
マヤ
出来心だったのよ!ほんの出来心だった…
マヤ
愛しているのはあの人だけだった!お遊びのつもりだったの!
ミキ
その事を私に言われてもどうしようもありません
ミキ
お義母さんが昔にお義父さんを裏切ったのは事実ですし
ミキ
その事実をひた隠しにして今日まできたのも事実です
ミキ
最初にお義父さんを、そして長い年月をかけてカズヒロさんを
ミキ
2人の家族を裏切っていたんです、お義母さんは
マヤ
ねえ、今からなんとかならないの?
マヤ
その検査を無効にするとか、偽装するとか
ミキ
無理ですよ、そもそも既にカズヒロさんが知ってしまっています
ミキ
今更資料だけいじっても何にもなりません
ミキ
カズヒロさんは怒りを通り越して笑っていましたよ
ミキ
ずっとずっと裏切られていたなんて、と
ミキ
自分の中にある家族に対する想いはなんだったのか、と
マヤ
カズヒロ…私はそんなつもりじゃ…
ミキ
なぜ隠したままこれまでずっときたんですか?
ミキ
まあ勿論真実を話しても良い結果にはなりませんが
マヤ
怖かったのよ
マヤ
あの人に捨てられるのが
マヤ
まだ私達が若い頃、あの人は世界を飛び回るエリートサラリーマンだった
マヤ
家にはほとんど帰ってこなくて、数か月の海外出張の後に数週間くらい家にいたと思えば
マヤ
またすぐ海外へ出張に行く…そんな日々だった
マヤ
だから寂しくなって…色々な男性と関係を持ったわ
マヤ
本当に毎晩毎晩違う男性と夜を共に過ごした
マヤ
だからカズヒロの本当の父親が誰なのか、分からないのよ
ミキ
寂しいと言っても、お義父さんがそういう仕事だと知ってる上で結婚したのでは?
マヤ
そうね
マヤ
でもあの時私は若かった
マヤ
心の隙間を誰かで埋めたかったのよ
ミキ
でもそれはお義父さんを裏切っていい理由にはなりません
マヤ
ねえ、この事あの人にだけは秘密にしてくれないかしら?
マヤ
あの人に捨てられたら私、生活もできなくなってしまう
マヤ
お願い!今からでもカズヒロを説得してあの人にバラすのはやめさせてちょうだい!
ミキ
この期に及んで未だに自分の身の保身に走るんですね
ミキ
最低です
ミキ
もうカズヒロさんもお義父さんに連絡しているころだと思います
ミキ
もう手遅れですよ
マヤ
私は…私は悪くない!
マヤ
私は悪くないのよ!!
マヤ
全部皆が悪いの!!私は悪くない!!!
~後日談~
ミキ
その後すぐ、お義父さんはお義母さんと離婚し、お義母さんは家を追い出された
ミキ
職も貯金もなかったお義母さんは、遠い地に引っ越した
ミキ
独りでほそぼそとパートをしながら生きているようだ
ミキ
お義父さんは、血は繋がってないけどこれまで通り自分の息子を愛するつもりだ、と言っていた
ミキ
カズくんも同じ気持ちらしい
ミキ
今は二世帯住宅を建て、お義父さんとカズくんと私と子供の4人で幸せに暮らしている