下原菜月
下原菜月は鞄から一冊のノートを取り出した。
睦健太郎
睦健太郎
ノートの表紙にマーカーで書かれた文字を睦(むつみ)健太郎は声に出した。
下原菜月
睦健太郎
睦が尋ねると、菜月は沈んだ顔色を浮かべゆっくりとうなだれた。
しばし沈黙が続いた後、睦がため息混じりに言った。
睦健太郎
下原菜月
下原菜月
下原菜月
下原菜月
下原菜月は以前まで、同じ大学に通う脇坂史夫と付き合っていた。
付き合い始めた頃の脇坂といると楽しく、菜月も交流を続けていく気でいた。
が、ある日、高校時代の男友達と思い出話をする様子を脇坂に目撃されて以降、
菜月と脇坂の間に亀裂が生じた。
下原菜月
下原菜月
下原菜月
下原菜月
下原菜月
睦健太郎
下原菜月
下原菜月
下原菜月
淡々と話す菜月の様子だけでもかなり疲弊していることは一目瞭然だった。
睦は脇坂という男に会ったこともないし、まして話をしたこともなかった。
その為、どんな男なのか想像するしかないが、菜月の話を聞く限りでは少なくとも、
異常な独占欲とエゴイストに満ちた男であることだけは確かなようだと思った。
睦健太郎
睦健太郎
睦健太郎
睦健太郎
睦健太郎
下原菜月
下原菜月
睦健太郎
下原菜月
下原菜月
下原菜月
睦健太郎
下原菜月
下原菜月
下原菜月
下原菜月
睦健太郎
菜月の表情があまりにも真剣だった為、睦は無意識に苦笑を浮かべた。
下原菜月
下原菜月
下原菜月
下原菜月
下原菜月
下原菜月
菜月の強烈な目力に圧倒されてから2人は別れた。
翌日。
講義を終え、睦は大学を出ると帰宅途中にあるK公園に自転車を走らせた。
園内の人目に付きにくい木の下に佇む菜月を見付け思わず手を振りそうになったが、
思い直してやめ、周囲を見回してから小走りに向かった。
菜月から日記帳を受け取り、今後も同じ場所で手渡しすると約束して別れた。
その日の夜、睦は自室で日記帳を開けた。
大学の講義、教授の嫌味、友達の会話、サークル関連、昼食のメニュー、エトセトラ。
脇坂史夫という男に怯えていた菜月だが、日記の内容がごくありふれたものだったので、
睦は当たり前だと思いながらもホッとした。
睦は日記など書いたことがないがとりあえず菜月と同じ内容を書いた。
その翌日の夜、菜月から電話があった。
下原菜月
下原菜月
睦健太郎
下原菜月
下原菜月
睦健太郎
下原菜月
睦健太郎
下原菜月
睦健太郎
睦健太郎
下原菜月
下原菜月
菜月が真顔で話していると容易に想像できる口調だった。
元々、菜月は脇坂と付き合っていたのだ。
顔も合わせたことのない自分が憂慮するのもおかしいだろうと、自分に言い聞かせた。
交換日記を始めて1ヶ月が過ぎたある日。
就寝前に日記を前に筆を走らせるのが日課になった睦だったが、
文章を読んでいるうちに、睦の顔がどんどん険しくなった。
○月△日(火)
講義を終え学食で昼食を食べていたら脇坂君に声をかけられた。相変わらず他の男友達との交流を疑う言葉をかけてきたが、彼は去り際に一言、 「日記付ける性格だっけ?」 と言い、不適に笑った。 ……もしかしてバレた? 怖い。
睦は菜月に電話をかけた。
睦健太郎
睦健太郎
下原菜月
睦健太郎
下原菜月
睦健太郎
下原菜月
睦健太郎
睦健太郎
下原菜月
睦健太郎
下原菜月
下原菜月
睦健太郎
睦健太郎
下原菜月
下原菜月
下原菜月
下原菜月
睦健太郎
下原菜月
睦健太郎
睦の説得に応じた菜月の弱々しい返事を最後に電話は切れた。
それから2日、3日と過ぎていった。
菜月と睦も最後が近付いているも記述内容は平凡を貫いた。
短い文章で、菜月が名残惜しそうな言葉を並べることもあるが、
睦は日記でやり取りせずとも卒業までは一緒にいられると常に慰めた。
菜月も菜月で、その間は脇坂への恐怖を一切抱かず日記に筆を走らせた。
交換日記最終日。
睦は最後となる菜月の文章を読んだ。
△月□日
最後の交換日記の日になった。 普通なら色んなことを書きたいけどこういうときに限って1日が平凡に過ぎる。 だから、あえて端的に書こうかな? 短い間だったけど楽しいやり取りだった。 これからもよろしくね( `・ω・´)ノ それじゃ、おやすみなさい。
思わず微笑が漏れたが、すぐにペンを取ってページをめくった。
睦健太郎
睦の手が止まった。
睦は掴んだ紙の端っこに違和感を覚えた。
そこは丁度、菜月が書いた最後の文章の語尾の所だった。
もう一度注意深く手で触れると、なにか言葉を書いて消したような凹みがある。
睦健太郎
睦健太郎
菜月も睦同様、日記はボールペンで書いていた。
つまり、書いた後に消したのではなく、
意図的に目で見えない文字をノートの端に書いたと思われる。
睦も小学生の頃にやったことがあった。
インクの出ないボールペンのペン先で紙に文字を書き、
鉛筆で斜めに擦ると、自然と文字の凹み部分が現れ文字になる手法。
睦は筆箱から鉛筆を取り出すと、黙々と何度もスラッシュさせた。
やがて、紙の端に大きく文字が浮かび上がった。
「それじゃ、おやすみなさい」
「永遠に」
背筋に冷たい悪寒が走った。
突然、睦のスマホが室内に響いた。
メールだったが、送信者が菜月だと知り恐る恐る開いた。
睦の母親
睦の母親
睦の母親
母親の声を聞いたのとメールを見たのはほぼ同時だった。
「脇坂君、そっち、逃げて」
ドアが閉まり母親が出て行く。
脇坂史夫
脇坂史夫
不適な笑みを浮かべた脇坂を、睦はまるで悪魔を見るような恐怖の眼差しで見詰めた。
やがて、睦の全身が震え、声が出なくなった。
脇坂の手に握られた鋭利なナイフが室内灯の反射で輝いたからだ。
脇坂史夫
脇坂史夫
2019.11.04 作
コメント
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うん、怖い