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コメント
5件
神作の予感でしかありませんいやもう神作です
冷たい雨が、夜の街を叩いていた。 宇佐美 遥(うさみ はるか)、17歳。 線路を見下ろしながら、 ぼんやりと思う。 「もういいや」って。
趣味悪い知らないおっさんに 身体売って金貰って、食いつないで。
カンカンカンカン まもなく1番線に電車がまいります
夜の駅のホームにそんなアナウンスが響く
危ないですから黄色い線の内側までお下がりください…
宇佐美 遥
アナウンスの指示なんて聞かないで 真っ直ぐ線路に向かう
楽になりたい。
カンカンカンカンカンカンカン
カンカンカンカンカン
カンカンカンカ
宇佐美 遥
すごい力で腕を掴まれている。
被ったフードから金髪が見えた。 軽そうな見た目に反して、俺を掴む手は 痛いくらい力強い
宇佐美 遥
掴まれてる手を振りほどこうとすると、男はふっと力を抜いて手を離した。
ひどいことを平然と言う。 けど、それは突き放してるようで、どこか優しかった。
いきなりそんなことを言われ、遥は呆然とした。
ケラケラ笑いながら言う "おにーさん"とやらは 信用できる人間にはとても見えなかった
でも今更、死ぬ気力も起きない。 遥はふらりと手を引かれるまま 死ぬはずだった駅を後にした。
駅近くの焼肉屋に連れられた 店の中は煙たくてそそられる匂いで充満していた。
宇佐美 遥
腹もなるし涎も止まらない
目の前の白米の上に 置かれた肉を見つめる 肉汁が溢れ出て白米に染み込む
宇佐美 遥
目の前のご馳走を口の中にかき込む
宇佐美 遥
冷たい水を飲みながら、 ぼうっと、目の前で肉に頬張る男を見た
髪は染めっぱなしで耳には無造作なピアス、タバコの匂い。女にも金にもだらしなそうな、おとな
______ なのに、どこか壊れかけた 自分と同じ匂いがした。
ラフに訊かれた。 まるで「今日何してた?」ぐらいのテンションで。
宇佐美 遥
言葉に詰まる "なんで"なんて急に聞かれても。
宇佐美 遥
そう言って、笑った からかうみたいに。
でもその笑いは、どこか寂しそうだった。
首を横に振る。 帰る場所も、帰る"べき"場所も とうに失っていた。
宇佐美 遥
冗談めかして笑いながら 頭をぐしゃっと撫でられた。
あたたかい、雑な手だった。
宇佐美 遥
誰かに頭を撫でられるなんて、 何年ぶりだろう。 ぼんやり思った
宇佐美 遥
適当に受け流すこの人の後ろ姿を ゆっくりと追いかけた。
雨は、もうほとんど止んでいた
夜を越えて遥は、もう少しだけ 「生きる」ことにしがみつこうと思った。
宇佐美 遥