嫌い大嫌い愛してる

カランカランカラン

ドアに付いている鈴が鳴る

昔から来てくれている常連さん

ここは今はもう居ない母と父の店

無くしたくなくて、俺は大学を出てすぐ跡を継いだ

周りにはいふさんとの事を言っていない

言っても大丈夫だろうが、なんとなく言えずにいた

母と父は数年前、とあるヤクザ同士の暴動に巻き込まれてこの世を去った

以来、俺はヤクザを憎んでいるし、片方の組はこの街にある

カランカランカラン

嬉しくなって彼の元へ駆け寄る

１ヶ月ぶりの彼

いふさんが椅子に座る

こちらを向いて両手を広げる

彼に近寄って抱きしめる

１ヶ月ぶりの彼の匂いを堪能する

ふわっと香った彼の匂いに少し違和感を覚える

それからはただこの１ヶ月の出来事を話続けた

若い子が来てくれるようになった事、女の子と間違われた事、友達と遊んだ事

１ヶ月分の共有をする

何故かいふさんはお仕事の事はあまり話さないけど、こんな所に行ってこんなものを食べたとか、こんなものを見たとかを知れるだけで嬉しかった

プルルルルル

いふさんの携帯が鳴る

お別れの合図

チュッ

カランカランカラン

あんなに待ち望む音なのに、今は鳴って欲しくない音

俺らを出会わせ、別れさせる音

彼の熱がまだ残る唇に触れる

この甘くて痛い感情は慣れる気がしない

ため息を付きながら車内に入る

興味がない

ないこがいい

仕事の内容を見ながら言う

さっきまで触れていた体温が恋しい

明日、生きてるかも分からないけど

「またいつでも来てください！」

君の笑顔が見たいから

「んっ…///」

また君にキスしたいから

自分の事を言えずにいる俺を まだ許していて欲しい