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加戸先生(かど
加戸先生(かど
笑顔の先生の声が、胸の奥で小さくチクリと刺さった。
隣では、信乃が静かに微笑んでいた。
姿勢を崩さず、きちんとした敬語で受け答えをするその様子に、
周囲の生徒たちも自然と「さすがだね」と頷いていた。
美有は小さく笑って、頷いた。
───このくらいで拗ねるなんて、子供っぽいよね。
そう思っていた。
そう思おうとしていた。
帰り道、信乃は手をポケットに入れたまま、美有の少し前を歩く。
小柄な背中。
でも、芯が通っている。
あんなに小さな妹なのに、まるで“大人”みたいに見えることがある。
枷場 美有(はさば みゆう
何気なく言ったつもりだった。
でも、声が少しだけ、揺れていたかもしれない。
枷場 信乃(はさば しの
信乃は振り向かずに答えた。
その声もまた、冷たくはなかったけれど、どこか距離があった。
お姉ちゃんのくせに、私が情けない。
私のくせに、信乃に嫉妬するなんて。
心の中で、言い訳と自己嫌悪がぐるぐると回る。
一歩ごとに、信乃との距離がほんの少しずつ、離れていくように感じた。
その夜。
自室のベッドの上、美有は天井を見上げていた。
隣の部屋からは、信乃の教科書をめくる音がかすかに聞こえる。
枷場 美有(はさば みゆう
ポロリと、涙が落ちた。
でも、誰にも言えなかった。
だって私は、「お姉ちゃん」なんだから。