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幸せの音

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幸せの音

1 - 幸せの音

♥

110

2019年06月01日

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ごめんな……お前はもう家にはいられないんだ…

切なそうな顔をして、ボクを四角い箱に入れた

ごめんな……さよなら……

目には涙が溜まっていて、今にも溢れそうだ

ボク

どうして………?

ボク

どうしてボクを置いていくの……?

必死に叫ぶのに、男の耳には聞こえないそうだ

バイバイ………

頬に溢れた涙を拭って、男は去っていった

最後にそっ、と撫でた男の手の暖かさが少し残っていた

ボク

ねぇ!どうしてボクを置いていくの!

ボク

ここから出して!早く!!

ボク

……ん…

鳥の鳴く声がして、目が覚めた

早朝の新鮮な風が頬を撫でる

ボク

あの人はもう、来ないのかな………

ボク

どうしたら……戻ってくるかな…

ガサッガサッ

地面を踏みつける音がする

ボク

戻ってきた?!

ボク

ねぇ、君なの?!

ボク

早くボクをここから出して!!!!

期待していたのに

ボクの前に現れたのは

そらる

そらる

子猫??

ボクの知らない男の人

ボク

なんだ……違うじゃん……

ボク

期待しちゃってバカみたい…

そらる

どうしたのー?

その人が、甘ったるい声でボクに呼びかける

そらる

どうかしたー?

そらる

もしかして、捨て猫?

その言葉にハッ、とした

ボク

捨て猫……?

そらる

どうしたー?

そらる

急に元気なくして。

そっか。

ボク、捨て猫だったんだ。

いや、

捨て猫になったんだ。

そらる

家で飼おうか?

ボク

ボク

嫌だ

そらる

んー?

そらる

ほら、おいで?

さっきとは違う、低い声

これが、この人の地声なのかな

ボク

ボク

行かない

そらる

そらる

あ。

なにかを思い出したように、彼が言った

ボク

なに。

そらる

うち、マンションだから飼えないや。

はは、と彼が笑う

つられてボクも笑いそうになった─

─のは、ここだけの話。

ガサッガサッ

ボク

ん………?

今日は地面を踏みつける音で目が覚めた

ついでに、カサカサとなにかが揺れる音がする

そらる

おー、まふ!元気かー?

ボク

まふって、なに?!

ボク

ボク、まふって名前じゃない!!

そらる

おー、なんか抗ってるねー?

そう言って彼は、ボクをそっ、と持ち上げた

そらる

お前、可愛いな。

ボク

はぁ?!

ボク

ボクは可愛くない!!

真顔で言う彼に、少し呆れる

散々暴れると、彼が放してくれた

そらる

ニャーニャー言って、可愛いな

そらる

大きくなるんだぞー?

……そっか。

ボクの声は、彼には聞こえてないんだ

そらる

あ、そうだ。

そらる

大きくなると言えば……

なにかを思い出して、彼がカサカサいっていたそれを出す

そらる

ほら。

そらる

猫用のごはん。

ぎこちない仕草で、それを開けた

ボク

わぁ……

それを見た瞬間、ボクは必死に食いついた

そらる

はは、そんなにお腹空いてた?

彼がボクの背中をそっ、と撫でる

そらる

もふもふしてるから、ちょっともじって、まふ。

そらる

今日からお前は、まふだ!

思い付いたように彼が言う。

ボク

…………

絶句して、言葉が出ない

ボク

なんだ、そのネーミングセンスはー!!

ボク

もっとカッコいい名前があるだろ!!

ボク

ボクはまふなんかじゃないっ!!

必死にわめいていると

そらる

おおー、なんか暴れてる……

そらる

もしかして、気に入ってくれた?

勘違いして、ボクを抱っこしてきた

ボク

気にいってなんてない!!

ボク

その名前をさっさと変えろ!!

手足をジタバタさせて、抵抗する

でも、全然離してくれなくて。

そらる

ごめんね、まふ……

少し切ない顔で、彼が言った

そらる

一人にしてるよね……

そらる

ごめんね…飼えなくて……

ぎゅっとボクを抱き締めて

そっ、とボクを撫でた

そらる

毎日ここに来るから……

そらる

許して……?

そう言って、ボクを離した

ボク

ボク

大丈夫だよ

ボク

ボク、寂しくないよ!!

ボク

ボク、強いもん!!

必死に強がってみせるのに

彼の切ない顔は変わらなくて

そらる

もう一人にさせないから。

そらる

そらる

バイバイ、まふ。

そらる

また明日!

そう言って、彼は去っていった

ガサッガサッ

今日も、あの地面を踏みつける音がする

ボク

……ん…

彼の音で今日も起きる

そらる

まふ!元気かー?

まず、ボクの体調を確認して。

ボク

元気だよっ!!!

そらる

お!その声は元気そうだな!

にゃんっ、と鳴くと、嬉しそうに口角をあげる

それからボクにご飯をくれて

少し遊んで、彼はまた去っていく

そらる

あ、時間だ。

そらる

今日も楽しかったよ、ありがと、まふ。

ボク

ボクもー!!

ボク

楽しかった!

ボクが喋ると、彼が嬉しそうにするから何度でも鳴きたくなって

ボク

毎日、待ってるよ!!

ボク

明日も遊んでね!!

そらる

んー?どうした?

そらる

今日はいっぱい鳴くなぁ。

そらる

明日も来るからね、またね。

手を振って、彼は去る

ボク

バイバイっ!!!

ボクは、もう一度鳴いた

1か月後

そらる

そらる

…ふ!……きろ!…まふ!!

叫ぶ声がして、目が覚めた

ボク

ボク

……ん……?

ボク

え…ボク……何してた…?

はっきりしない記憶に、混乱する

そらる

良かったぁっ……

そらる

まふが死んじゃったら、どうしようかと………

彼の手が、ボクを包み込む

ボク

大丈夫だよ…元気元気ぃ……

もう一度、強がって見せたのに

そらる

ごめんね…まふ……

そらる

一人にしてさ……

そらる

怖かったよね、苦しかったよね……

今にも泣きそうな顔で言った

ぎゅっとボクを抱き締めて

──それからボクは悟った

ボク

あぁ、

ボク

ボク、もう長くないんだ

ボク

悟っちゃった

ボク

死んじゃうよ、ボク

訴えかけた

届くようにと願って

そらる

そらる

ん?どうしたの?

そらる

いっぱい鳴いて。

やっぱり──

──届かないよ

ボク

届いてよ……

ボク

ボクの言葉……

ボク

助けてって、

ボク

救ってって、言ってるのに…

鳴いて鳴いて、鳴きまくった

もっと彼と一緒に居たくて

もっと彼に抱き締めてほしくて

そらる

いっぱい鳴くねぇ。

そらる

元気になったのかな?

ニッコリ笑って

ボクを撫でて。

あの音を鳴らして、去っていった

ガサッガサッ

ボク

ん……

今日もボクは、あの音で目が覚める

そらる

おー、まふ!元気かー?

今日も体調を確認して

君が元気そうにしているからボクも元気にしなきゃいけないのに

ボクは返事が出来ない

ボク

今日がきっと、

ボク

最後の日……

呟くように、言った

そらる

どうした?元気ないの?

ハッ、として、近寄ってきた

そらる

なぁ、まふ??

そらる

返事は??

つたない声に、耳を傾ける

そらる

返事を……しろよ…

ボク

大好きだよ…

ボク

ボクを救ってくれて、ありがとう……

彼の泣きそうな顔に、せめてもの救いを。

ボクの声で、笑顔になってよ。

そらる

まふ……救えなくて、ごめんね…

どうして笑顔じゃないの

笑ったまま、バイバイしよう……?

ボク

もうね、ボクはダメみたい…

ボク

もう一度、あの音、幸せの音を聞きたかったな……

独り言のように呟いたのに、彼はうなずいて聞いてくれて。

そらる

大丈夫……大丈夫だから…

暖かい雫が、ボクに落ちる

ひとつ、またひとつ。

頬に流れる雫は、宝石がように輝いていて……

ボク

聞いて……

ボク

あのね…

ボクの心臓が枯れる前に、聞いて欲しい、

ボクの言葉。

ボク

ボクは君に会えて…

ボク

こんなに幸せだよ

明日も明後日もボクは君の音を……

ボク

聞きたいなぁ…

ふっ、と力が抜けた

そらる

まふ?!まふ!?

遠くで、彼の声が聞こえる

ボクを包む手に力が込もって

それから、それから──

明日も明後日も

来世も君の幸せの音を、聞きたいな。

この作品はいかがでしたか?

110

コメント

12

ユーザー

ありがとうございます(?) どうも、柚希の後垢の菜月です笑

ユーザー

もう💢泣きますよ!

ユーザー

見ていただいて、ありがとうございますっ!

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