男
切なそうな顔をして、ボクを四角い箱に入れた
男
目には涙が溜まっていて、今にも溢れそうだ
ボク
ボク
必死に叫ぶのに、男の耳には聞こえないそうだ
男
頬に溢れた涙を拭って、男は去っていった
最後にそっ、と撫でた男の手の暖かさが少し残っていた
ボク
ボク
ボク
鳥の鳴く声がして、目が覚めた
早朝の新鮮な風が頬を撫でる
ボク
ボク
ガサッガサッ
地面を踏みつける音がする
ボク
ボク
ボク
期待していたのに
ボクの前に現れたのは
そらる
そらる
ボクの知らない男の人
ボク
ボク
そらる
その人が、甘ったるい声でボクに呼びかける
そらる
そらる
その言葉にハッ、とした
ボク
そらる
そらる
そっか。
ボク、捨て猫だったんだ。
いや、
捨て猫になったんだ。
そらる
ボク
ボク
そらる
そらる
さっきとは違う、低い声
これが、この人の地声なのかな
ボク
ボク
そらる
そらる
なにかを思い出したように、彼が言った
ボク
そらる
はは、と彼が笑う
つられてボクも笑いそうになった─
─のは、ここだけの話。
ガサッガサッ
ボク
今日は地面を踏みつける音で目が覚めた
ついでに、カサカサとなにかが揺れる音がする
そらる
ボク
ボク
そらる
そう言って彼は、ボクをそっ、と持ち上げた
そらる
ボク
ボク
真顔で言う彼に、少し呆れる
散々暴れると、彼が放してくれた
そらる
そらる
……そっか。
ボクの声は、彼には聞こえてないんだ
そらる
そらる
なにかを思い出して、彼がカサカサいっていたそれを出す
そらる
そらる
ぎこちない仕草で、それを開けた
ボク
それを見た瞬間、ボクは必死に食いついた
そらる
彼がボクの背中をそっ、と撫でる
そらる
そらる
思い付いたように彼が言う。
ボク
絶句して、言葉が出ない
ボク
ボク
ボク
必死にわめいていると
そらる
そらる
勘違いして、ボクを抱っこしてきた
ボク
ボク
手足をジタバタさせて、抵抗する
でも、全然離してくれなくて。
そらる
少し切ない顔で、彼が言った
そらる
そらる
ぎゅっとボクを抱き締めて
そっ、とボクを撫でた
そらる
そらる
そう言って、ボクを離した
ボク
ボク
ボク
ボク
必死に強がってみせるのに
彼の切ない顔は変わらなくて
そらる
そらる
そらる
そらる
そう言って、彼は去っていった
ガサッガサッ
今日も、あの地面を踏みつける音がする
ボク
彼の音で今日も起きる
そらる
まず、ボクの体調を確認して。
ボク
そらる
にゃんっ、と鳴くと、嬉しそうに口角をあげる
それからボクにご飯をくれて
少し遊んで、彼はまた去っていく
そらる
そらる
ボク
ボク
ボクが喋ると、彼が嬉しそうにするから何度でも鳴きたくなって
ボク
ボク
そらる
そらる
そらる
手を振って、彼は去る
ボク
ボクは、もう一度鳴いた
1か月後
そらる
そらる
叫ぶ声がして、目が覚めた
ボク
ボク
ボク
はっきりしない記憶に、混乱する
そらる
そらる
彼の手が、ボクを包み込む
ボク
もう一度、強がって見せたのに
そらる
そらる
そらる
今にも泣きそうな顔で言った
ぎゅっとボクを抱き締めて
──それからボクは悟った
ボク
ボク
ボク
ボク
訴えかけた
届くようにと願って
そらる
そらる
そらる
やっぱり──
──届かないよ
ボク
ボク
ボク
ボク
鳴いて鳴いて、鳴きまくった
もっと彼と一緒に居たくて
もっと彼に抱き締めてほしくて
そらる
そらる
ニッコリ笑って
ボクを撫でて。
あの音を鳴らして、去っていった
ガサッガサッ
ボク
今日もボクは、あの音で目が覚める
そらる
今日も体調を確認して
君が元気そうにしているからボクも元気にしなきゃいけないのに
ボクは返事が出来ない
ボク
ボク
呟くように、言った
そらる
ハッ、として、近寄ってきた
そらる
そらる
つたない声に、耳を傾ける
そらる
ボク
ボク
彼の泣きそうな顔に、せめてもの救いを。
ボクの声で、笑顔になってよ。
そらる
どうして笑顔じゃないの
笑ったまま、バイバイしよう……?
ボク
ボク
独り言のように呟いたのに、彼はうなずいて聞いてくれて。
そらる
暖かい雫が、ボクに落ちる
ひとつ、またひとつ。
頬に流れる雫は、宝石がように輝いていて……
ボク
ボク
ボクの心臓が枯れる前に、聞いて欲しい、
ボクの言葉。
ボク
ボク
明日も明後日もボクは君の音を……
ボク
ふっ、と力が抜けた
そらる
遠くで、彼の声が聞こえる
ボクを包む手に力が込もって
それから、それから──
明日も明後日も
来世も君の幸せの音を、聞きたいな。
コメント
12件
ありがとうございます(?) どうも、柚希の後垢の菜月です笑
もう💢泣きますよ!
見ていただいて、ありがとうございますっ!