友達1
友達2
私
私を含めた三人の女子(うち二人は友達)が、一斉に驚きの声を上げた。
場所は学校の吹奏楽部の部室。私たちは並んで座り、スマホでショート動画を見ながら駄弁っていた。
最近の動画は面白いものが多く、暇つぶしにはもってこいだ。
三人が同時に声を上げたのは、その動画が教えてくれた意外な豆知識のせいだった。
友達1
友達の一人が笑いながら言う。女子ならよくある光景だ。
驚きの声が偶然重なって、ハモリのように聞こえてしまうあの瞬間。
続けざまに、もう一人が言った。
友達2
友達2
友達1
三和音――『ド』『ミ』『ソ』のように、一つの音に三度上と五度上を重ねた和音。
吹奏楽部なら誰でも知っている。
意識せずに三人がぴったり三和音を出すなんて確かに珍しい。
だが私は二人とは違った。
ポジティブな高揚ではなく、全身を駆け巡るネガティブな緊張に支配されていた。
私は、生まれつき二つの能力を持っている。
ひとつは『絶対音感』
楽器の音はもちろん、日常のちょっとした物音でさえ正確な音程として聞き取れる。
そして、もうひとつは..
『音色認識』
音の色を聴き分ける能力で、誰がどの声を出したかなど簡単に判別できる。
口パクだってすぐに見抜ける。
だからこそ私は鳥肌が立った。
三人の声は、確かに 三和音に聞こえた。
しかし、私の耳にはこう響いていたのだ。
友達1
友達2
私
……そう、鳴っていたのは『ド』と『ソ』だけ。
『ミ』はどこにもなかった。
なのに、どうして私にも二人にも
三和音に聞こえたのか。
答えは単純にして恐ろしい。
三度上──『ミ』の声を発したのは....誰?
私たち三人以外に、もう一つの声が確かにそこにあった。
――四人目が。
部室にいたはずのない誰かの声が、和音を完成させていたのだ。
気づいた瞬間、背筋を冷たいものが走り抜けた。
それ以来、私たちは部室でショート動画を見るのをやめた。