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満月の夜。
月明かりに照らされた砂漠地帯には、
砦のような岩石が、
黒いシルエットとなっていくつも連なっている。
黒い狼
1匹の狼の遠吠えが、夜の静寂を破った。
白い狼
違う遠吠えが聞こえる。
別の狼が、最初の遠吠えに応えるかのように、
長く長く吠えたのだ。
最初に吠えた狼が西の岩石、
あとに長く吠えた狼が東の岩石の頂上に姿を現した。
岩石と同じ、漆黒のシルエットだ。
遠くにお互いの姿をとらえた2匹の狼は、
ものすごいスピードで岩石を駆け落りた。
そして、大地に降り立った瞬間、
岩と砂を蹴散らし、相手に向かって突進した。
岩陰に隠れていたサソリのうちの数匹が、
彼らの足に踏まれ、こなごなになって宙を舞う。
激突した2匹は、相手ののど笛にかみつこうとし、
そのまま組んず解れつの状態で
乾いた大地の上を転がり回った。
どちらの力も互角で、
相手に決定的なダメージを与えることができない。
いや、相手の力量をはかろうとしているようにも見える。
今、2匹の狼は、
互いに距離をとり、相手のスキをうかがっている。
そして、にらみ合う2匹の狼を、
満月だけが静かに見ていた。
広大な砂漠の中で、その後も死闘は続いた。
相手をめがけて飛びかかるたびに、
大きな砂煙が巻き上がる。
2匹は、年齢も、身体の大きさも、能力も同じだった。
だから、一進一退を繰り返し、なかなか決着がつかない。
そんな苛烈な戦いを、
2匹の狼は生まれたときからずっと続けているのだった。
とうとう、東の空が明らみ始め、
黒いシルエットだった狼たちが、徐々に色を取り戻していく_。
狼たちは、体格こそ同じように見えたが、
実はまったく違う見た目をしていた。
1匹の毛の色は、すべてを吸いこむ闇のような黒色だった。
体をおおう毛は、無数のするどい針のようで、
動くたび、まがまがしい真っ黒なもやが揺れているように見える。
もう1匹の狼は、白いたてがみをもっていた。
ふさふさとしたやわらかい白い毛が、
陽の光を浴びてきらきらと輝き、
まるで金色に輝いているようにも見えた。
対照的な見た目をした狼だったが、
なによりも違うのは、その眼だった。
黒い狼の眼は、赤く鈍く光っていた。
くすんだ深紅の眼が物語っているのは、
「怒り」
「嫉妬」
「哀しみ」
「後悔」
「欲」
「傲慢」、
そして「憎しみ」_____。
白い毛並みをもつ狼の眼は美しい金色だった。
煌々と輝く瞳が放つ光が表すのは、
「喜び」
「平和」
「希望」
「安らぎ」
「謙虚」
「信頼」
「友情」、
そして「愛」_____。
少年
狼たちの対決の話をハラハラしながら聞いていた少年は、
きょとんとした顔で尋ねた。
顔に深いシワが刻まれたおじいさんは、
お気に入りのロッキングチェアに
深々と座りなおすと、静かに首を振った。
おじいさん
おじいさん
少年
少年
無邪気にそう言った孫の頬を、
おじいさんは愛おしそうになでた。
おじいさん
おじいさん
おじいさん
そう言って、おじいさんは、少年の胸に手を置いた。
おじいさん
少年
少年
少年
少年
孫の問いかけに、
おじいさんはまっすぐ少年の目を見つめた言った。
おじいさん
おじいさん