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はー

疲れた

あの先生、理不尽な事で怒ってくるんだよね

私、悪いことしたかな

だから私にだけ…

ああ…

また被害妄想

どんだけ可哀想な人になりたいんだよ私は…

中学2年生になって早2ヶ月

毎日先生に怒られて

日に日に募っていく愚痴

そんな誰にも言えない愚痴を聞いてくれるのはオレンジ色に歪む夕焼け空だけ

…と

詩のようなことを考えてみる

でもそんな詩まで、私お得意の被害妄想

なんか…

疲れたな

こんな人生…面白くない

何か面白い事無いのかな

もうちょっと変化があれば頑張れ…

雨…だ

頑張れない言い訳を必死につくっている私に幻滅した神様が情けなくて泣き出したみたいだ

最悪…

なんでこんなに運悪いんだろ

あそこで雨宿りでもするか

ジュースでも買おっかな

ピッ

小銭をいれると自販機から短い電子音が聞こえる

ココアにしよっかな

うーん

うん

ココアの真下にあるボタンを押した

はずだった

げっ

これブラックコーヒーじゃん…

押し間違えた様だ

はあ…

どんだけ運悪いんだよ…

バシャッ

うわっ!?

追い打ちをかけるように、雨音を突き破ってやってきた軽自動車が水溜りの泥水を跳ね上げて通り過ぎる

予想通り

スカートはぐちゃぐちゃだ

もう…

ほんと今日なんなの…

自分の運の悪さに泣きそうになる

我ながらこの運の悪さは特別だと思う

私に疫病神でも憑いているのか疑いたくなる程だ

雨やまないし

コーヒー飲めないし

雨激しくなってるし

ここじゃ雨を防げないし

とにかくどこか屋根があるところは…

ん?

なにあれ…

大通りから少し逸れた横道の奥に、見慣れない古びた建物があった

あんなのあったかな…

毎日ここを通っているが、あんな建物は見たことがない

新しくできたみたいでもなさそうだし…

結構大きめなのに気づかないなんてあるかなぁ

と、とにかく

あそこで雨宿りしよう

建物から丁度良くとび出した屋根が取り付けられていたので、そこで雨宿りをすることにした

いつになったら帰れるんだろ…

まあ帰りたくないけど

向かいにある妙に四角い家をぼんやり見つめながら呟く

今日も晩御飯はぼっち飯かなあ

わざと明るい声で言ってみる

余計虚しくなるだけだった

はあ……

私の家は共働きで両親二人共仕事大好き人間なので、家に私以外の人間がいることは滅多にない

よって私はいつもぼっち飯をしているのだ

まあ…

好きなようにできるし…いっか

自分の境遇を誤魔化すように言う

その時だった

ギィ…

うわっ!?

突然、古い建物の重そうな扉が開いたのだ

え?え?

私が困惑していると、中から人がでてくる

おや?

お嬢さん、こんなところで何をなされているのですか?

あ…えっと

スーツを着た初老の紳士だった

懐中時計を白い手袋をした手で持ち、胸ポケットには白いハンカチが畳まれてはいっている

髪は白髪だらけだかきちんとセットされており、絵本にでてくるお嬢様に仕える執事のような風貌だ

まるでその人とこの建物だけが中世にタイムスリップしてしまったようだ

あ…雨宿りを…

その奇妙な風貌に驚きながら、声を絞り出す

雨宿りでしたか

急に降り始めましたからね

は、はい

も、もう帰りますので!

すみませんでしたっ

あ、ちょっとお待ちを

え…?

急いで走り去ろうとした私を、紳士は呼び止めた

お嬢さん、この後何か用事がお有りなんです?

い…いえ?

なんでそんな事…

そこではっとした

これは…

フラグ回収のチャンスじゃないか!!

こんな風変わりな格好のお爺さんだ。何か面白いことをさせてくれるのかも!

ではもしよければ、この建物の中を見てみませんか?

きたーーーーーーー!!

は、はい!

是非!

そうですか…

ではこちらに

紳士は細い目を更に細くして、嬉しそうに私を建物内に導く

誘拐だとかの可能性は微塵も考えなかった

私の頭の中は、これからおこる事への期待でいっぱいだったからだ

私は入ってすぐのロビーらしき大部屋に通された

あ…あの…

ここって何をするところなんですか?

素朴な疑問を投げかける

ああ…

説明がまだでしたね

まずはそこにお座り下さい

あ、はい

指さされた古そうな椅子に座る

喉が乾いたでしょう

私も飲み物が飲みたいので

飲みながらご説明しましょう

準備してきますが

紅茶とコーヒーとオレンジジュース

どれがよろしいですか?

あ…

オレンジジュースでお願いします

承知致しました

あ、あとあの

はい?

このコーヒー…

ボタンを押し間違えて買ってしまったんです

私、飲めないので飲みませんか?

さっき間違えて買った缶コーヒーを差し出す

え…

よろしいのですか?

あ、はい!

ジュース代と雨宿り代の代わりってことで…

そうですか

ではお言葉に甘えて

すぐにジュースをお持ちしますね

ありがとう御座います…

小部屋の奥に消えていく紳士の後ろ姿を見送りながらため息をつく

今更犯罪の可能性に気づいたのだ

まあ優しそうな人だし

大丈夫でしょ

大丈夫じゃなくても…

私がいなくなっても誰も気づかない

おまたせしました

あ、ありがとう御座います

紳士が戻ってきた

では、この建物の事をお話しましょうかね

私の向かいの椅子に座って紳士が言う

あ、はい…

この建物は絵画館なのです

それもただの絵画ではありません

人生絵画なのです

人生…絵画…?

雨音が一層激しくなった

そのせいか、少し肌寒くなる

なんですか…それ

めっちゃ面白そうじゃん、という言葉を飲み込んで私は問う

ここにある絵画は世界中のあらゆる人の人生を描いた絵画なのです

その絵画を見るとその人の人生が勝手に自分の記憶にインプットされる様にもなっているんです

普通の人は胡散臭い、とかなんとか言って出ていってしまいますが

面白いものですよ

他人の人生を覗き見るのは

へ、へえ…

面白いこと、刺激、などとは考えたものの

まさかこんな妙ちきりんなことを言われるとは思っていなかった

嘘だと思いましたでしょう?

あ、いや

仕方ありませんよね…

こんな怪しい話されて信じられる方なんて滅多におられませんよ

私はここの館長をしております

あ、館長さんだったんですね…

館長

もしや怖がらせてしまいましたか?

あ、いや

その…あまり見ない風貌だったので

館長

ああ…

館長

これは失礼

いえいえ

ところで、入館料とかは…

館長

こうして出会えたのもなにかの運命です

館長

特別サービス、無料で大丈夫ですよ

え、でもそんな…

館長

コーヒーもいただきましたし

分かりました

これ以上断るのも失礼かと思い、快諾する

館長

では後自由に見て回って下さい

館長

何かありましたらロビーへ

分かりました…

あの

館長

はい

記憶にインプット…?

っていうのは

館長

見ればわかりますよ

館長

さ、ここの階段から上に上がれます

あ…はい…

困惑しながらも螺旋階段へ歩みを進める

背後からは激しくなった雨音と、何かを書くペンの音が聞こえる

嘘だったら適当に理由をつけて帰ろう

そう思って更に歩みを進めた

なに…これ…

最初に目についたのは、真っ白な雪山の絵画だった

綺麗な山…

えっ…?

絵画から目を離そうとした瞬間、涙が溢れてきた

え…え…!?

な…何これ

涙が止まらない…

暫く泣いていると、頭の中で誰かの声がした

女性

…んで…

女性

なんでこんなことに…

女性の声だった

暫く何かを見ていた…想像していたと言ったほうが正しいかもしれない

そうしていると、不意に我にかえった

あ……

状況を整理するために、一度階段に戻る

な…何だったの…?

記憶に残っているのは

ある登山サークルに所属している女性が

雪山で雪崩に巻き込まれ、家族や友達の事を思いながら死んでいく記憶だった

まるでその女性が自分だったかの様に

親にかけた迷惑や友達とのやり残した事への後悔の念が鮮明に湧き上がってくる

あ…ああ…

また涙が溢れてきた

これが…

これが記憶へのインプット……

もっと…

もっと見てみたい…

私は駆け足で2階にあがり、様々な絵画を見て回った

ひたすら勉強をする中学生

桜並木の下で恋をした女性

就職活動を始めた無職のおじさん

お母さんへの恩返しをする女の子

本が大好きな男の子

憧れだったカフェで働く女性

公衆トイレで殺された小学生

最愛の孫と娘に看取られたお婆さん

色々な人の人生を見て

泣いて笑った

大切な人に看取られる気持ち

叶わぬ恋心

殺される寸前の恐怖

母への切なる思い

体験したことの無い感情を沢山味わった

そろそろ帰ろうかな

暗くなってきたし…

満足した私は、2階を後にしようとした

その時、目の端を一枚の絵画がよぎった

ん…?

これっ…て…

ここのロビー…?

絵画には、ほんの1時間前ほど自分がいたロビーが描かれていた

これだけ見て終わりにしようかな

そう決めて、絵画を覗き込む

少女

はあっはあっ

少女

どうして…どうして…

館長

待て!!

少女

嫌だ…嫌だ!!

少女

あ…あそこに窓が!

少女

お願い…間に合って……

ガシッ

少女

きゃあああっ!!

館長

捕まえた…捕まえたぞ…

館長

ふふっ

館長

ふははっ

館長

殺してやる…殺して…

少女

嫌っ!!

ガッ

館長

ぐあっ

館長

お前…なんて事を…

少女

はあっはあっ

少女

お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い

少女

まにあっ……て…!!

がらっ

少女

あ……

ドサッ

少女

た…助かった…

少女

家に…家に帰らなくちゃ

どういう事…?

新たにインプットされた記憶は

恐ろしいものだった

少女がこのの館長に殺される寸前に、今私のすぐ横にある小窓から脱出する映像が脳裏に浮かぶ

嘘でしょ…

だって…あの館長…

階段からこっそりロビーを覗く

館長

……

館長は私があれを見たことに気づいていないようだ

やっぱりこんなとこ入るんじゃなかった…

どんな理由にせよ、怪しい話には乗らない方が良かったのだ

兎に角ここから逃げ出さなければ

絵画の通り、あの窓から出よう

ばれませんように…

そう願って小窓を極力静かに開ける

その時、背後から声がした

館長

待ちなさい

ひっ

い、いやあああああ!!

館長だった

恐ろしい形相でこちらを睨んでいる

館長

あひひっ

館長

あれを…あれを見たなぁ

いっいや…

腰が抜けて動けない

にたにたと気持ちの悪い笑みを浮かべる館長の手には大きななたが握られている

い…いやだ…

いや…いやいやいやいやいや

兎に角ここから出ようと必死に手足を動かす

あと少しで館長に捕まってしまう

館長

前回は失敗だったからなぁ

館長

多種多様な記憶を持った人間は特別美味いんだ

美味い……?

まさか…

私を食べるつもり!?

館長

勿論だぁ

いっ嫌ああああ

館長が私に向かってなたを振り下ろそうとした瞬間

何かの音が聞こえた

電話…?

館長

なんだぁ?

勿論私は応答できるわけがない

助けて助けて

お願い助けて

涙が溢れてくる

電話が留守電に切り替わった

少し怯んだ館長は、またなたを振り下ろそうと体制を立て直している

お母さん

えで…

お母さん

楓?

お、お母さん…!?

留守電になった電話の向こうから、聞きなれない母親の声が聞こえた

お母さん

楓、お母さんね、仕事を辞めたの

お母さん

今まで放っておいてしまってごめんね

お母さん

楓の好きなハンバーグつくって待ってるからね

お母さん

今更かな…へへ

留守電なので当たり前だが

お母さんが一方的に話を進める

その内容を聞いて、私も館長も一時停止してしまう

お母さん

お父さんとも話し合ったの

お母さん

ずっと放っておいた事、本当に反省してるわ

お母さん

楓…折角できた大切な愛娘だったのに…

お母さん

ごめんね…ごめんね…

電話の向こうの声が震えだす

お母さん

こんなお母さんからの電話なんて、でる気にならないよね…ごめん…

お母さん

最近物騒だから、早く帰るのよ

お母さん

待ってるからね

そう言って、お母さんは電話をきった

あ…ああ…お母さん…

館長

はっ

館長

哀れな母親だなぁ

館長

大切な愛娘が喰われそうになっているというのに

館長

呑気に肉料理の話かぁ

館長

実に愉快だ

館長

さあ、お前もハンバーグにしてやろう

いや…いやだ…

私は…

私は幸せになるんだあああああああああああ!!!

今までの度重なる災難を軽く忘れて仕舞うような幸せな日々を

いつもいつも夢見ていた

お母さんとハンバーグを食べたり

愚痴を聞いてもらったり

お風呂で背中を流し合ったり

私の夢を

私の幸せな人生を

あんたになんか渡さないから!!!

その時、あの記憶がフラッシュバックした

少女

いやああああ!

ガッ

武器…武器だ

なにか武器になるものは

あった!

排水管の鉄パイプがむき出しになっている部分がある

館長

何をする気だ

館長

今更無駄だぞ

普通に小窓から逃げようとしてももう遅い

どこから湧いたのか分からない元気をぬけてしまった腰に精一杯込めて

私は跳ね起きた

おらああああああああ

女子中学生とは思えぬ形相で鉄パイプを引き剥がす

火事場の馬鹿力ってやつ?

反動を使って館長に鉄パイプを思いっきり振り下ろした

ガキッ

館長

ぎゃああああああ

床に血が滲む

館長

おのれ…

起き上がろうとする館長の頭を踏みにじって、小窓に手をかけた

お母さん…っ

今帰るからねっ!!!

窓から飛び降りる

あ……

そこには、いつもと何ら変わらない景色が広がっていた

お母さん…

今……行くからね

ただいま…

私は2つの意味で言った

1つは在り来りな、平和で幸せな日常に

2つめは昔の優しいお母さんに

この作品はいかがでしたか?

681

コメント

27

ユーザー

初コメ失礼します。 とっても感動しました… 結果的に館長にやられそうになった時,お母さんが電話を入れてくれなかったら…と思うとすごくゾッとします💧

ユーザー

めちゃくちゃ面白かったです!

ユーザー

ありがとう御座います!

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