楓
楓
楓
楓
楓
楓
楓
楓
中学2年生になって早2ヶ月
毎日先生に怒られて
日に日に募っていく愚痴
そんな誰にも言えない愚痴を聞いてくれるのはオレンジ色に歪む夕焼け空だけ
…と
詩のようなことを考えてみる
でもそんな詩まで、私お得意の被害妄想
楓
楓
楓
楓
楓
楓
頑張れない言い訳を必死につくっている私に幻滅した神様が情けなくて泣き出したみたいだ
楓
楓
楓
楓
ピッ
小銭をいれると自販機から短い電子音が聞こえる
楓
楓
楓
ココアの真下にあるボタンを押した
はずだった
楓
楓
押し間違えた様だ
楓
楓
バシャッ
楓
追い打ちをかけるように、雨音を突き破ってやってきた軽自動車が水溜りの泥水を跳ね上げて通り過ぎる
予想通り
スカートはぐちゃぐちゃだ
楓
楓
自分の運の悪さに泣きそうになる
我ながらこの運の悪さは特別だと思う
私に疫病神でも憑いているのか疑いたくなる程だ
楓
楓
楓
楓
楓
楓
楓
大通りから少し逸れた横道の奥に、見慣れない古びた建物があった
楓
毎日ここを通っているが、あんな建物は見たことがない
楓
楓
楓
楓
建物から丁度良くとび出した屋根が取り付けられていたので、そこで雨宿りをすることにした
楓
楓
向かいにある妙に四角い家をぼんやり見つめながら呟く
楓
わざと明るい声で言ってみる
余計虚しくなるだけだった
楓
私の家は共働きで両親二人共仕事大好き人間なので、家に私以外の人間がいることは滅多にない
よって私はいつもぼっち飯をしているのだ
楓
楓
自分の境遇を誤魔化すように言う
その時だった
ギィ…
楓
突然、古い建物の重そうな扉が開いたのだ
楓
私が困惑していると、中から人がでてくる
?
?
楓
スーツを着た初老の紳士だった
懐中時計を白い手袋をした手で持ち、胸ポケットには白いハンカチが畳まれてはいっている
髪は白髪だらけだかきちんとセットされており、絵本にでてくるお嬢様に仕える執事のような風貌だ
まるでその人とこの建物だけが中世にタイムスリップしてしまったようだ
楓
その奇妙な風貌に驚きながら、声を絞り出す
?
?
楓
楓
楓
?
楓
急いで走り去ろうとした私を、紳士は呼び止めた
?
楓
楓
そこではっとした
これは…
フラグ回収のチャンスじゃないか!!
こんな風変わりな格好のお爺さんだ。何か面白いことをさせてくれるのかも!
?
きたーーーーーーー!!
楓
楓
?
?
紳士は細い目を更に細くして、嬉しそうに私を建物内に導く
誘拐だとかの可能性は微塵も考えなかった
私の頭の中は、これからおこる事への期待でいっぱいだったからだ
私は入ってすぐのロビーらしき大部屋に通された
楓
楓
素朴な疑問を投げかける
?
?
?
楓
指さされた古そうな椅子に座る
?
?
?
?
?
?
楓
楓
?
楓
?
楓
楓
楓
さっき間違えて買った缶コーヒーを差し出す
?
?
楓
楓
?
?
?
楓
小部屋の奥に消えていく紳士の後ろ姿を見送りながらため息をつく
今更犯罪の可能性に気づいたのだ
楓
楓
楓
私がいなくなっても誰も気づかない
?
楓
紳士が戻ってきた
?
私の向かいの椅子に座って紳士が言う
楓
?
?
?
楓
雨音が一層激しくなった
そのせいか、少し肌寒くなる
楓
めっちゃ面白そうじゃん、という言葉を飲み込んで私は問う
?
?
?
?
?
楓
面白いこと、刺激、などとは考えたものの
まさかこんな妙ちきりんなことを言われるとは思っていなかった
?
楓
?
?
?
楓
館長
楓
楓
館長
館長
楓
楓
館長
館長
楓
館長
楓
これ以上断るのも失礼かと思い、快諾する
館長
館長
楓
楓
館長
楓
楓
館長
館長
楓
困惑しながらも螺旋階段へ歩みを進める
背後からは激しくなった雨音と、何かを書くペンの音が聞こえる
嘘だったら適当に理由をつけて帰ろう
そう思って更に歩みを進めた
楓
最初に目についたのは、真っ白な雪山の絵画だった
楓
楓
絵画から目を離そうとした瞬間、涙が溢れてきた
楓
楓
楓
暫く泣いていると、頭の中で誰かの声がした
女性
女性
女性の声だった
暫く何かを見ていた…想像していたと言ったほうが正しいかもしれない
そうしていると、不意に我にかえった
楓
状況を整理するために、一度階段に戻る
楓
記憶に残っているのは
ある登山サークルに所属している女性が
雪山で雪崩に巻き込まれ、家族や友達の事を思いながら死んでいく記憶だった
まるでその女性が自分だったかの様に
親にかけた迷惑や友達とのやり残した事への後悔の念が鮮明に湧き上がってくる
楓
また涙が溢れてきた
楓
これが記憶へのインプット……
楓
楓
私は駆け足で2階にあがり、様々な絵画を見て回った
ひたすら勉強をする中学生
桜並木の下で恋をした女性
就職活動を始めた無職のおじさん
お母さんへの恩返しをする女の子
本が大好きな男の子
憧れだったカフェで働く女性
公衆トイレで殺された小学生
最愛の孫と娘に看取られたお婆さん
色々な人の人生を見て
泣いて笑った
大切な人に看取られる気持ち
叶わぬ恋心
殺される寸前の恐怖
母への切なる思い
体験したことの無い感情を沢山味わった
楓
楓
満足した私は、2階を後にしようとした
その時、目の端を一枚の絵画がよぎった
楓
楓
楓
絵画には、ほんの1時間前ほど自分がいたロビーが描かれていた
楓
そう決めて、絵画を覗き込む
少女
少女
館長
少女
少女
少女
ガシッ
少女
館長
館長
館長
館長
少女
ガッ
館長
館長
少女
少女
少女
がらっ
少女
ドサッ
少女
少女
楓
新たにインプットされた記憶は
恐ろしいものだった
少女がこのの館長に殺される寸前に、今私のすぐ横にある小窓から脱出する映像が脳裏に浮かぶ
楓
楓
階段からこっそりロビーを覗く
館長
館長は私があれを見たことに気づいていないようだ
楓
どんな理由にせよ、怪しい話には乗らない方が良かったのだ
兎に角ここから逃げ出さなければ
楓
楓
そう願って小窓を極力静かに開ける
その時、背後から声がした
館長
楓
楓
館長だった
恐ろしい形相でこちらを睨んでいる
館長
館長
楓
腰が抜けて動けない
にたにたと気持ちの悪い笑みを浮かべる館長の手には大きななたが握られている
楓
楓
兎に角ここから出ようと必死に手足を動かす
あと少しで館長に捕まってしまう
館長
館長
楓
楓
楓
館長
楓
館長が私に向かってなたを振り下ろそうとした瞬間
何かの音が聞こえた
楓
館長
勿論私は応答できるわけがない
楓
楓
涙が溢れてくる
電話が留守電に切り替わった
少し怯んだ館長は、またなたを振り下ろそうと体制を立て直している
お母さん
お母さん
楓
留守電になった電話の向こうから、聞きなれない母親の声が聞こえた
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
留守電なので当たり前だが
お母さんが一方的に話を進める
その内容を聞いて、私も館長も一時停止してしまう
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
電話の向こうの声が震えだす
お母さん
お母さん
お母さん
そう言って、お母さんは電話をきった
楓
館長
館長
館長
館長
館長
館長
楓
楓
楓
今までの度重なる災難を軽く忘れて仕舞うような幸せな日々を
いつもいつも夢見ていた
お母さんとハンバーグを食べたり
愚痴を聞いてもらったり
お風呂で背中を流し合ったり
楓
楓
楓
その時、あの記憶がフラッシュバックした
少女
ガッ
楓
楓
楓
排水管の鉄パイプがむき出しになっている部分がある
館長
館長
普通に小窓から逃げようとしてももう遅い
どこから湧いたのか分からない元気をぬけてしまった腰に精一杯込めて
私は跳ね起きた
楓
女子中学生とは思えぬ形相で鉄パイプを引き剥がす
火事場の馬鹿力ってやつ?
反動を使って館長に鉄パイプを思いっきり振り下ろした
ガキッ
館長
床に血が滲む
館長
起き上がろうとする館長の頭を踏みにじって、小窓に手をかけた
楓
楓
窓から飛び降りる
楓
そこには、いつもと何ら変わらない景色が広がっていた
楓
楓
楓
私は2つの意味で言った
1つは在り来りな、平和で幸せな日常に
2つめは昔の優しいお母さんに
コメント
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初コメ失礼します。 とっても感動しました… 結果的に館長にやられそうになった時,お母さんが電話を入れてくれなかったら…と思うとすごくゾッとします💧
めちゃくちゃ面白かったです!
ありがとう御座います!